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『大嫌いな君へ。』
僕には嫌いな人がいた。
幼馴染の、ことは。
彼女からは毎日、
「大好き」
という言葉を言われていた。
本当に毎日毎日、しつこく、何度も、繰り返しで。
だから必然と嫌いになった。
「ねぇ、“大好き”って言葉、何回言ったら本物になると思う?」
ある日、ことは はそんなことを聞いてきた。
「1回じゃ軽いでしょ?10回?100回?それとも一生分?」
くだらない。
「ロマンあるじゃん」
ケラケラ笑うことはを見て、僕はため息をつく。
ことはの言葉は、大嫌いだ。
でも、耳を奪われる。
嫌い。
その日々も、一瞬で過ぎ去った。
大好きと呟いていた彼女は、
もう居ない。
去年の今日、交通事故で死んだ。
飲酒運転だった。
4月1日はエイプリルフールだから、
正直嘘だと思った。
でも本当だった。
1年経った今日、一周忌で皆集まっていた。
皆は他の部屋で支度をしている。
僕だけが仏壇の前にいた。
しとしと、と雨が降る音が、部屋に響く。
特に何をする訳でもなく、ただ座っている。
「……大嫌いだよ。ばーか。」
僕の声が、虚しく雨に掻き消される。
チク、タク。
時計の音が、嫌に頭に劈く。
カチッ。
時計の針が12の数字を指す。
ボーン、ボーン。
振り子時計の12時の合図が鳴り響く。
「……嘘だよ。大好きだよ。」
やっと言えた気がした。
小さく呟くと、周りの音が消えた気がした。
ただ、僕の中でこだました。
「ありがとう、私も大好き。」
聞きなれた声が聞こえた。
背中に重みがかかる。
後ろから抱きつかれたような感じがした。
急いで振り返ると、そこには誰もいなかった。
触れた温もりも、声も、残っていなかった。
でも、確かに。
抱きついた腕の感触、背中に残る重みの感触。
じわりと、感触だけが残っていた。
ぽろりと、涙が零れる。
しだいにボロボロと滴り、止まらなくなった。
気付けば、僕は座布団に伏せ、咽び泣いていた。
去年の今日、僕は涙のひとつも零さなかったはずなのに。
1年経った今日、僕は涙の止め方が分からなくなっていた。
雨がぽつり、ぽつりと止んでいく。
僕は声を出し、止まらない涙を流していく。
太陽が、僕の背中を温めていた。
僕は大嫌いだった彼女の前で、
大好きな彼女を想い、泣いていた。
4月1日エイプリルフール。
『大好きな君へ。』
ななゆけ