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#現代ファンタジー
裏五条
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#ライトノベル
umaimon
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ゑぬ。
197
「えっと……。」
構えたはいいものの、肝心の魔法の出し方が全く分からない。ステッキを握る手に、じんわりと汗が滲む。
「……んー…?」
「…………あれ。」
何度か念じてみるが、手の中のステッキは静かなまま、何の反応も見せない。
「……あ、アスカちゃん…魔法ってどうやって使うの?」
「わ、わたくしが分かるはずないでしょうが…。」
「な、なんか…こう……バーッとできるんじゃないんですの…!?」
ジェスチャーを交えながら言うアスカの表情は。
「バーッと……。」
言われた通り、腕を思い切り振りかぶる。
「…んー、こう?」
ステッキの先端に、ぶわりと光が収束する。
「うわぁっ!?」
「きゃぁっ…!?ほ、ほんとに出ましたわ…。」
飛び出した光の塊が、虚獣の体をかすめて地面を抉った。
「や、やったぁ!これならあの虚獣にだって……。」
安堵したのも束の間、虚獣の巨体がじりじりとこちらへ迫ってくる。
「え、ええっ…?!」
「も、もうこんな間近くまで来てますの…!?」
「い、イオリさんっ…何とかしてくださいまし…!!」
アスカの悲鳴にも似た声に、イオリは覚悟を決めたように頷いた。
「うん…わかった!」
「……今こそボクの出番!!」
ステッキを両手で構え、息を止める。
「ふぅ……。」
「やぁーっ!!!」
放った光が虚獣に直撃する――が。
「……ぜ、全然効いていませんわよイオリさん!?」
「えぇ!?なんでぇ!?」
「もっとビームとか……は、派手なの出せないの!?」
「し、知りませんわよ…!」
必死に記憶を手繰るように、アスカは眉を寄せる。
「あのバーッで魔法が出たのなら……多分、イメージとかが重要なんじゃないかしら…!」
「イメージ……。」
繰り返しながら、イオリは虚獣を見据える。
「……い、イオリさんっ。」
背後から、消え入りそうな声が届く。
「……わ、わたくしの命、イオリさんに任せましたからね…!?」
「……うんっ、わかった!!」
その言葉の重みを噛み締めるように、イオリは強くステッキを握り直した。
(この戦い…絶対負けられない……!)
(ボクのためにも…アスカちゃんのためにも!)
胸の奥に灯った熱を逃さないよう、息を大きく吸い込む。
「……はぁぁっ!!!」
今度は、さっきよりもはっきりとした手応えがあった。
「……!凄い…イオリさん効いてますわよ!」
(よ、よし…この調子で……。)
勢いのままにステッキを振り続ける。
「やぁっ!!」
「ていやぁ!!」
何度も、何度も。
「はぁっ…はぁ……。」
肩で息をしながら、イオリは膝に手をつく。
(ボク…息切れなんてなかなかしないのに…!)
(五十キロマラソンより疲れる…!)
それでも、目の前の虚獣はびくともしない。
「ぜ、全然倒れないよぉ!!」
「い、イオリさん!あともうひと息ですわよ!」
「負けないでくださいまし!」
震える声で送られる激励に、イオリは力を振り絞るように頷いた。
「っうん…!!」
「…やぁぁぁっ!!!」
渾身の一撃を放つ。
光は虚獣に直撃したが、まだ倒れる気配がない。
(……ま、まだ倒れませんの…?!)
拳を握りしめ、祈るように見守るアスカ。だが――
「っえ……きゃぁっ!?」
虚獣の咆哮と共に、鋭い衝撃が二人を襲う。
「アスカちゃんっ!!」
とっさに庇おうとした身体が、そのまま弾き飛ばされた。
「っぐ…わぁっ!!?」
地面を転がり、背中に鈍い痛みが走る。
「っ…いったた……。」
痛みを堪えながら、イオリは慌てて体を起こす。
「アスカちゃんっ…!」
「っ…うぅ……。」
少し離れた場所で蹲るアスカの姿に、血の気が引く。
「大丈夫…!!ぼ、ボクが治すから!」
「…ぃ、イオリさんっ、前!前!」
アスカの叫びに弾かれるように、イオリは正面を振り返る。
「えっ?」
(まだ暴れる余裕があったの…!?)
巨体がゆっくりと、しかし確実に迫ってくる。
(あれ、っていうかこれ……マズくない…?)
逃げ場を探す間もなく、虚獣の影が二人を覆おうとしていた。
「っ……!」
全身が強張り、声も出ない。
そのまま、すべてが終わる――そう覚悟しかけた、その時だった。
「……あれ…?」
「………?……攻撃が…。」
二人の目の前で。
今にも二人へ襲いかかろうとしていた虚獣が、ぴたりと動きを止めていた。
「……?」
何が起きたのか分からない。
ふと虚獣の麓を見ると、精緻な幾何学模様を描いた魔法陣が形成されていた。
次の瞬間。
――ドォンッ!!
虚獣の身体が、大きく弾き飛ばされた。
「きゃっ!?」
地面を何度も跳ねながら、虚獣が吹き飛んでいく。土煙が高く舞い上がった。
「な、なに!?」
「い、今……何が……?」
二人が呆然と顔を見合わせる。
そして。
「……危なかったぁ…!」
聞き慣れない声。
イオリがゆっくりと振り返る。
夕暮れの道路。
オレンジ色に染まった光の中、二人の少し後ろに、自分たちよりも背の低い、年下であろう少女が立っていた。
「………?」
少女は二人の視線に気づくと、ほんの少しだけ首を傾げた。白く長い髪が夕風にふわりと揺れる。被っている大きな魔女の帽子は目を引くであろう。
「……!だ、大丈夫ですか!?怪我はないですかっ?」
心配そうに駆け寄ってくるその様子には、先ほどの一撃の鮮やかさからは想像もつかない、柔らかな人懐っこさがあった。
「え、ええ……助かりましたわ…。」
「大丈夫だよ……!」
「よ、良かった…!」
心底ほっとしたように、少女は胸を撫で下ろす。
イオリは少女と、遠くへ吹き飛ばされた虚獣を交互に見る。
「……もしかして。」
「今の……キミがやったの?」
「うんっ!」
二人とも、言葉が出ない。
ついさっきまで自分たちを追い詰めていた虚獣。
何十発と魔法を撃ち込んでも倒しきれなかった、あの強大な影。
それを、この少女はたった一度の攻撃で吹き飛ばした。
「……す…す…すっごーいっ!!」
目を輝かせながら、イオリが駆け寄る。
「キミ…ま、魔法少女だよね!?」
「どうやったの!?」
「えっ…?」
「さっきの攻撃!」
「ぼ、ボク…魔法少女になったばっかりなんだけど、全然うまくいかなくて!」
「…ま、魔法少女?」
少女の視線が、イオリの姿へ移る。ふわりと広がるスカートと青いリボンを、まじまじと見つめた。
「………もしかして…新しい魔法少女…?」
「そう!ついさっき…数分前になったばっかり!」
「す、数分前っ!?」
少女は紫色の目を丸くした。
「ちょ、ちょっとイオリさん!」
「なに?」
「初対面の方にそんな勢いよく話しかけないでくださいまし……!」
「げ、元気なのはいいことなのですよ…!」
「…まぁそうですけれど……。」
「えへへ〜!」
場の空気が少しだけ和らいだ、その瞬間。
――グオオオオッ!!
遠くから、再び虚獣の咆哮が響いた。
「……!」
イオリが振り返る。
まだ倒れていない。
砂煙の向こうで、虚獣がゆっくりと身体を起こしていた。
「えっ?!し、仕留めたはずなのに…!」
「嘘、まだ動けるの!?」
「そ、そんな……。」
絶望的な空気が再び三人を包む。だが、少女の表情だけは変わらなかった。
少女は二人の前へ一歩出る。
「下がって!」
「え?」
「今度は、ちゃんと…終わらせるのですっ!」
少女が手を上げる。
すると、その周囲に淡い光が集まり始めた。
「……!」
さっきまでの自分とは、まるで違う。
無駄な動きがない。迷いもない。
ただ静かに、確実に、魔力が収束していく。
「……。」
少女が虚獣を見据える。
その横顔には、見た目の年齢に不似合いなほどの落ち着きが滲んでいた。
そして。
「これで――終わりっ!!」
光が、一瞬だけ強く輝いた。
――ドンッ!!
轟音。
虚獣の姿が光の向こうへ消える。
しばらくして。
そこには、何も残っていなかった。焦げた跡すら残さない、鮮やかな消え方だった。
「………。」
夕暮れの街に、静寂が戻る。
鳥の羽ばたく音だけが、やけに大きく聞こえた。
イオリとアスカは口をぽかんと開けたまま、少女を見つめていた。
そして。
「……かっこいい…!!」
「……えっ?か、かっこいい…?」
少女が思わず振り返る。表情には戸惑いと、僅かな嬉しさが滲んでいた。
「ボクもあんな魔法使いたい!!」
イオリは目を輝かせたまま、少女へ駆け寄る。
「ねぇねぇ!キミ、名前は!?」
少女は一瞬だけ黙って。戸惑うように視線を泳がせる。
「……な、名前?」
「うん!」
まっすぐな瞳に見つめられ、少女は照れたように、それでもはっきりと答えた。
「ユカリの名前は、紫雲ユカリなのです!」
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作者コメント┊︎ ユカリちゃんは一人称がユカリなので、一人称を使うと名前がバレるという仕様
うわああ紫雲ユカリちゃん、めちゃくちゃかっこよかったです…!年下っぽいのにあの余裕と一瞬で終わらせる強さ、ギャップにやられました。イオリちゃんの「かっこいい…!!」ってストレートに出る感じ、すごく好きです。アスカちゃんとの「バーッと」のやりとりもほっこりしましたし、命を預けるシーンはグッときました。次も楽しみにしてますね🌙