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#神様
城異羽大
302
#現代ファンタジー
月神零華@生きてます
2,660
リタ🧸💙
9
12
「えっと……。」
構えたはいいものの、肝心の魔法の出し方が全く分からない。ステッキを握る手に、じんわりと汗が滲む。
「……んー…?」
「…………あれ。」
何度か念じてみるが、手の中のステッキは静かなまま、何の反応も見せない。
「……あ、アスカちゃん…魔法ってどうやって使うの?」
「わ、わたくしが分かるはずないでしょうが…。」
「な、なんか…こう……バーッとできるんじゃないんですの…!?」
ジェスチャーを交えながら言うアスカの表情は。
「バーッと……。」
言われた通り、腕を思い切り振りかぶる。
「…んー、こう?」
ステッキの先端に、ぶわりと光が収束する。
「うわぁっ!?」
「きゃぁっ…!?ほ、ほんとに出ましたわ…。」
飛び出した光の塊が、虚獣の体をかすめて地面を抉った。
「や、やったぁ!これならあの虚獣にだって……。」
安堵したのも束の間、虚獣の巨体がじりじりとこちらへ迫ってくる。
「え、ええっ…?!」
「も、もうこんな間近くまで来てますの…!?」
「い、イオリさんっ…何とかしてくださいまし…!!」
アスカの悲鳴にも似た声に、イオリは覚悟を決めたように頷いた。
「うん…わかった!」
「……今こそボクの出番!!」
ステッキを両手で構え、息を止める。
「ふぅ……。」
「やぁーっ!!!」
放った光が虚獣に直撃する――が。
「……ぜ、全然効いていませんわよイオリさん!?」
「えぇ!?なんでぇ!?」
「もっとビームとか……は、派手なの出せないの!?」
「し、知りませんわよ…!」
必死に記憶を手繰るように、アスカは眉を寄せる。
「あのバーッで魔法が出たのなら……多分、イメージとかが重要なんじゃないかしら…!」
「イメージ……。」
繰り返しながら、イオリは虚獣を見据える。
「……い、イオリさんっ。」
背後から、消え入りそうな声が届く。
「……わ、わたくしの命、イオリさんに任せましたからね…!?」
「……うんっ、わかった!!」
その言葉の重みを噛み締めるように、イオリは強くステッキを握り直した。
(この戦い…絶対負けられない……!)
(ボクのためにも…アスカちゃんのためにも!)
胸の奥に灯った熱を逃さないよう、息を大きく吸い込む。
「……はぁぁっ!!!」
今度は、さっきよりもはっきりとした手応えがあった。
「……!凄い…イオリさん効いてますわよ!」
(よ、よし…この調子で……。)
勢いのままにステッキを振り続ける。
「やぁっ!!」
「ていやぁ!!」
何度も、何度も。
「はぁっ…はぁ……。」
肩で息をしながら、イオリは膝に手をつく。
(ボク…息切れなんてなかなかしないのに…!)
(五十キロマラソンより疲れる…!)
それでも、目の前の虚獣はびくともしない。
「ぜ、全然倒れないよぉ!!」
「い、イオリさん!あともうひと息ですわよ!」
「負けないでくださいまし!」
震える声で送られる激励に、イオリは力を振り絞るように頷いた。
「っうん…!!」
「…やぁぁぁっ!!!」
渾身の一撃を放つ。
光は虚獣に直撃したが、まだ倒れる気配がない。
(……ま、まだ倒れませんの…?!)
拳を握りしめ、祈るように見守るアスカ。だが――
「っえ……きゃぁっ!?」
虚獣の咆哮と共に、鋭い衝撃が二人を襲う。
「アスカちゃんっ!!」
とっさに庇おうとした身体が、そのまま弾き飛ばされた。
「っぐ…わぁっ!!?」
地面を転がり、背中に鈍い痛みが走る。
「っ…いったた……。」
痛みを堪えながら、イオリは慌てて体を起こす。
「アスカちゃんっ…!」
「っ…うぅ……。」
少し離れた場所で蹲るアスカの姿に、血の気が引く。
「大丈夫…!!ぼ、ボクが治すから!」
「…ぃ、イオリさんっ、前!前!」
アスカの叫びに弾かれるように、イオリは正面を振り返る。
「えっ?」
(まだ暴れる余裕があったの…!?)
巨体がゆっくりと、しかし確実に迫ってくる。
(あれ、っていうかこれ……マズくない…?)
逃げ場を探す間もなく、虚獣の影が二人を覆おうとしていた。
「っ……!」
全身が強張り、声も出ない。
そのまま、すべてが終わる――そう覚悟しかけた、その時だった。
「……あれ…?」
「………?……攻撃が…。」
二人の目の前で。
今にも二人へ襲いかかろうとしていた虚獣が、ぴたりと動きを止めていた。
「……?」
何が起きたのか分からない。
ふと虚獣の麓を見ると、精緻な幾何学模様を描いた魔法陣が形成されていた。
次の瞬間。
――ドォンッ!!
虚獣の身体が、大きく弾き飛ばされた。
「きゃっ!?」
地面を何度も跳ねながら、虚獣が吹き飛んでいく。土煙が高く舞い上がった。
「な、なに!?」
「い、今……何が……?」
二人が呆然と顔を見合わせる。
そして。
「……危なかったぁ…!」
聞き慣れない声。
イオリがゆっくりと振り返る。
夕暮れの道路。
オレンジ色に染まった光の中、二人の少し後ろに、自分たちよりも背の低い、年下であろう少女が立っていた。
「………?」
少女は二人の視線に気づくと、ほんの少しだけ首を傾げた。白く長い髪が夕風にふわりと揺れる。被っている大きな魔女の帽子は目を引くであろう。
「……!だ、大丈夫ですか!?怪我はないですかっ?」
心配そうに駆け寄ってくるその様子には、先ほどの一撃の鮮やかさからは想像もつかない、柔らかな人懐っこさがあった。
「え、ええ……助かりましたわ…。」
「大丈夫だよ……!」
「よ、良かった…!」
心底ほっとしたように、少女は胸を撫で下ろす。
イオリは少女と、遠くへ吹き飛ばされた虚獣を交互に見る。
「……もしかして。」
「今の……キミがやったの?」
「うんっ!」
二人とも、言葉が出ない。
ついさっきまで自分たちを追い詰めていた虚獣。
何十発と魔法を撃ち込んでも倒しきれなかった、あの強大な影。
それを、この少女はたった一度の攻撃で吹き飛ばした。
「……す…す…すっごーいっ!!」
目を輝かせながら、イオリが駆け寄る。
「キミ…ま、魔法少女だよね!?」
「どうやったの!?」
「えっ…?」
「さっきの攻撃!」
「ぼ、ボク…魔法少女になったばっかりなんだけど、全然うまくいかなくて!」
「…ま、魔法少女?」
少女の視線が、イオリの姿へ移る。ふわりと広がるスカートと青いリボンを、まじまじと見つめた。
「………もしかして…新しい魔法少女…?」
「そう!ついさっき…数分前になったばっかり!」
「す、数分前っ!?」
少女は紫色の目を丸くした。
「ちょ、ちょっとイオリさん!」
「なに?」
「初対面の方にそんな勢いよく話しかけないでくださいまし……!」
「げ、元気なのはいいことなのですよ…!」
「…まぁそうですけれど……。」
「えへへ〜!」
場の空気が少しだけ和らいだ、その瞬間。
――グオオオオッ!!
遠くから、再び虚獣の咆哮が響いた。
「……!」
イオリが振り返る。
まだ倒れていない。
砂煙の向こうで、虚獣がゆっくりと身体を起こしていた。
「えっ?!し、仕留めたはずなのに…!」
「嘘、まだ動けるの!?」
「そ、そんな……。」
絶望的な空気が再び三人を包む。だが、少女の表情だけは変わらなかった。
少女は二人の前へ一歩出る。
「下がって!」
「え?」
「今度は、ちゃんと…終わらせるのですっ!」
少女が手を上げる。
すると、その周囲に淡い光が集まり始めた。
「……!」
さっきまでの自分とは、まるで違う。
無駄な動きがない。迷いもない。
ただ静かに、確実に、魔力が収束していく。
「……。」
少女が虚獣を見据える。
その横顔には、見た目の年齢に不似合いなほどの落ち着きが滲んでいた。
そして。
「これで――終わりっ!!」
光が、一瞬だけ強く輝いた。
――ドンッ!!
轟音。
虚獣の姿が光の向こうへ消える。
しばらくして。
そこには、何も残っていなかった。焦げた跡すら残さない、鮮やかな消え方だった。
「………。」
夕暮れの街に、静寂が戻る。
鳥の羽ばたく音だけが、やけに大きく聞こえた。
イオリとアスカは口をぽかんと開けたまま、少女を見つめていた。
そして。
「……かっこいい…!!」
「……えっ?か、かっこいい…?」
少女が思わず振り返る。表情には戸惑いと、僅かな嬉しさが滲んでいた。
「ボクもあんな魔法使いたい!!」
イオリは目を輝かせたまま、少女へ駆け寄る。
「ねぇねぇ!キミ、名前は!?」
少女は一瞬だけ黙って。戸惑うように視線を泳がせる。
「……な、名前?」
「うん!」
まっすぐな瞳に見つめられ、少女は照れたように、それでもはっきりと答えた。
「ユカリの名前は、紫雲ユカリなのです!」
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作者コメント┊︎ ユカリちゃんは一人称がユカリなので、一人称を使うと名前がバレるという仕様
うわああ紫雲ユカリちゃん、めちゃくちゃかっこよかったです…!年下っぽいのにあの余裕と一瞬で終わらせる強さ、ギャップにやられました。イオリちゃんの「かっこいい…!!」ってストレートに出る感じ、すごく好きです。アスカちゃんとの「バーッと」のやりとりもほっこりしましたし、命を預けるシーンはグッときました。次も楽しみにしてますね🌙