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monologue 2
元貴の作った曲のURLがクラスで拡がり始めるのに時間はかからなかった。
相変わらずなかなか学校に来ない元貴だったが、URLが回り始めてから、彼の名前がクラスのあちらこちらで聞こえた。
殆どは好奇の声で語られていたが、青臭い中学生の教室で創作物が出回るにしては、あまりにも批判や嗤いの声は無さすぎた。
俺もなんとか頼み込んでそのURLを手に入れた。
なけなしのお小遣いの中から、購買の中で一番高価な菓子パンを買わされる代わりにそのURLを得た。
サッカーでひとしきり汗をかいたあと、友達との談笑をなるべく早く切り上げて1人帰路に着くと、カナル式のイヤホンをスマホに挿した。
あの時の感情は今でも言葉にならないし、
言葉を尽くした所で、言語化し切れやしない。
震えた。
それが一番素直で、近いと思う。
歩きながら聴いていたのに気がつけば道端にしゃがみ込んで何回も聞き直していた。
曲の完成度がどうこう、なんて、そんなものは言わずもがなだったのだが、そういうことだけではなくて、震えたのだ。
世の中に腐るほど良い音楽などあると思うし、俺も音楽は好きだったわけだから耳は肥えていたと思う。今の元貴と比べれば拙さもあったかもしれない。
でももうそういう完成度の次元とかを超えていたんだと思う。
そして、夢想した。
あの、あの、俺の後ろの席に座る澄ました顔のあの元貴から、元貴の口から、喉から、この声が生まれてるのだと、想像を繰り返した。
どんなことを考えて、
何を想像して、
何を想って、
元貴はこれを作って、歌ったんだろう。
あの一曲は、サッカー坊主だった俺が、メッシになる!と豪語していた俺が、家に帰って久しぶりにギターを手に取るにはあまりにも十分な一曲だった。
持て余した熱感を発散し切る先も分からないまま、ギターを弾いた。
指先の痛みも熱に感じられた。
「…..またきたの」
寝起きなのか、徹夜明けなのか、眠そうな声をした家着姿の彼が、心底うざったそうな目をして真っ直ぐに俺を見る。
「あっ、あの今度、俺!」
「はぁ。行かないって。じゃあね」
俺のモジモジとした声を遮るようなバン!と閉まる玄関の音は少しばかり大きく聞こえて、ちょっとばかり凹んだ。
プリントを家のポストにぐしゃぐしゃと押し込むと、仕方なく自転車に足をかけて学校に向かう。
あの曲を聴いてから俺は、遠回りをしながら、学校に行く前に元貴の家に寄るようになった。
最初は怯えたような目をしていた元貴だったが、すっかり俺の訪問に慣れたのか、今や非常にめんどくさそうな出迎えだ。
こんなにしつこく通っても元貴は元貴のペースで学校に来ることはあれど、俺の言葉に耳を貸す様子はなかった。それでも、毎朝元貴の顔を見れることだけで割と満足できていたから、懲りずに毎日毎日通った。
あの曲を聴いて以降、ギターを練習した。
元貴の曲に魅せられたのかもしれないし、
元貴と話す口実の一つだったのかもしれない。
とにかく、元貴と話したくて仕方なかった。
というより、話さなければ後悔すると思った。
行動力が特別ある方ではない俺だから、そんなに仲良くないクラスメイトの家に凸るなんて今思えば大チャレンジだったのだが、一度してしまえばコツコツ続けるのは得意な性分だから、繰り返しチャイムを鳴らした。
配布物を届けるという名目なら放課後に通うべきなのかもしれないが、朝通っていたのは、元貴と学校に向かうまでの間だけでも独り占めして話したかったからだと思う。
ストーカーじみてる自覚はほんの少しだけあったから、クラスメイトには言えなかった。
親は以前より早くに家を出る俺に少し不思議そうにしつつも特に言及はされなかった。
俺と元貴だけの秘密だった。
「げ…若井と同じ班なんだ」
バスの座席表を見て最初に元貴がそういった。
もう俺たちは中学三年生で、修学旅行だった。
俺よりもずっと背が高かった元貴だったけど、この頃には俺が背を抜いていた。
家に篭ってるからなのか、元貴は周りの子達より肌が白く、女の子達より少しばかり明るい肌が目に焼き付いたのを覚えてる。
結局中学1年生で出会った俺たちが今日まで仲良くなることはなく、というのも元貴は全然俺の朝の誘いには乗ってくれなかったわけだけど。
なんとかして元貴と話したかった俺は、元貴とたまたま同じ班になったと名簿をみて知った時、運命に違いないと思った。
「げ、とか言わないでよ…」
「だって毎朝毎朝、」
「あっ、いや!!あの、そういえば俺っ」
バスの中で元貴が毎朝通ってることを言おうとするからやたら大きな声で遮って周りが少しこちらを見ていた。
少し頬が熱くなるのを感じながら、勢いに任せて話す。
「俺っ、元貴の曲聴いたよ、す、すごいよね」
指先で遊びながら適当に話していた元貴の指が止まって、ぴく、と眉が動く。
謎の動悸を感じながら、一瞬の間に緊張する。
「ワーーって壮大な感じもあるし、アップテンポなような、でもなんか、その、悲しい感じもあるというか、なんか、とにかく、グッとくるし、俺、ギター弾くんだけど、なんか聞いたこともないコードばっかだし、めっちゃ複雑で、ワクワクする、し…その…」
勢いに任せて話して、慌てて話したことに言いたいことの言えてなさに僅かな後悔が早速走りながら元貴の顔を見ると、面白いおもちゃを見つけたような、なんというかキラキラした目をしていた。
俺を見ていた目が、俺を”視る”目になったというか、俺、という個に向けられた目に色が変わったように見えた。
特徴的な柔らかそうな唇がキュッ!と上がって、元貴の目が細まる。
「へぇ、若井、ギターしてんだ。知らなかった」
あの時の高揚感になんて名前をつけよう。
そのあとは、今までが嘘みたいに、たくさん話した。
本当に、たくさん話したんだ。
元貴の曲を繰り返し聴いて、
貴方の声を繰り返し聴いて、
何度もなぞるようにギターを練習したなんて言えなかった俺は、音楽の話をたくさんした。
音楽という免罪符を借りた、あの時の繋がりたい欲は、今と同じだったんだろうか。
あんまりにもいっぱいいっぱいだったから、確かに覚えてはいない。
コメント
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ああ、第2話、読ませてもらいました。もう、冒頭の「震えた」という感覚がすごく伝わってきて——元貴の曲に触れた瞬間の衝撃って、言葉にするとどうしても陳腐になりがちなのに、これだけ生々しく描けるものなんだなと感心しました。ギターを再び手に取るまでの流れも、自然で説得力があって。 それにしても、バスの中での「げ...」からのやりとり、「へぇ、若井、ギターしてんだ」で元貴の目が変わるところ、胸が詰まりました。あの瞬間、語り手の世界が確かに動き出したんだな、と。続き、どうなるんだろう…楽しみにしています。