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「伊藤ぺいん……」

それが僕の名前らしい。名字こそ普通だけど名前の「ぺいん」はやはりなにか変な感じがする。僕の親は何を思ってこの名前をつけたのだろうか。

色々と考えながらミンドリーさん達と共に歩いていく。

どうやらあまり大きい病院ではないようで、病室を出てすぐに入口らしき場所にたどり着いた。

そのまま外へ出る────前に、一度振り向いて名前を呼んだ。

「えーっと、ましろ先生」

そう呼んでみれば、ましろ先生は少し嬉しそうな顔をしてこちらを見てくる。

「何かな?」

「僕のこと、きっと長い間治療しててくれたんですよね。だからありがとうございます」

「……でも、風の……君の記憶が消えることを防ぐことはできなかった」

「それでも僕の命を救ってくれたのはあなたなんでしょう?過ぎ去ったことをいつまでも悔いてもしょうがないと思いますし、これから記憶が戻ればいい話ですから」

「……ありがとな、風」

「そういえば、僕のことましろ先生はかぜって呼びますけどなんでなんですか?」

僕がそう問いかけると、ましろ先生の言葉があからさまに詰まる。代わりに、僕の肩を支えてくれてるミンドリーさんが答えてくれた。

「ぺいんくんはね、記憶を失う前は黄金の風って名乗ってたんだよ」

「……黄金の風?何ですかそれ」

「警察では僕たちの世代が黄金世代って呼ばれててね。確かそこから考えたって言ってた気がするよ」

「……前の僕は恥ずかしくなかったんですかね。自分でそんなもの名乗って……」

「最初は結構ノリノリだったけど、最近は恥ずかしそうにしてたね」

「ですよね」

自分で二つ名を名乗るとか中々できることじゃないな……前の僕がどんな人物だったのかいまだに掴めない。後で聞いてみるか。

「……それじゃあまたな、風」

「はい、また会いましょう」

ましろ先生に別れを告げると、ここまで乗ってきたらしい警察のパトカーに乗って本署に行くことになった。

僕が助手席に乗ると、ミンドリーさんが運転席に、他の二人が後部座席に座った。

車のエンジンがかかり、少しずつ前進し始める。

「ミンドリーさん」

「ん?どうしたのぺいんくん」

「記憶を失う前の僕って、どんな人物だったんですか?」

僕がそう問いかけると、ミンドリーさんはうーんと考えるような声を出してこう答えた。

「……本署に着いてからでいい?」

「いいですけど……何でですか?」

「もう本署に着くし、この短い時間だとぺいんくんのことは表せないからね……ほら、前を見てごらん」

そう言われ前を向いてみると、かなり大きめの建物が見えてきた。これが本署なのだろうか。

そのまま車は駐車場っぽいところに入り、止まった────かと思うと気づいたら消えていた。

「……車はどこにいったんですか?」

「そうか、こういうことも忘れちゃってるのか。この街では特定の場所では車をしまえるんだよ」

「しまうって、どこにですか?」

「さぁ……この街はそういう不思議なことが結構起きるからね。考えないで受け入れた方が良いと思うよ」

どうやらこの街は普通ではないらしい。こういうのを深く考えたら負けと言うのだろう。

「んじゃ、どうする?ミンドリー」

らだおさんがそう言った。

「……とりあえずは今いるぺいんくんと面識のある人達を集めて報告かな……」

ミンドリーさんはそう言うとしばらく携帯の画面を見る。少しして僕の方を振り返り、 「起きて早々、状況説明のためにたくさんの人の前に出ることになっちゃうけど……ぺいんくんは大丈夫?」 と言った。

「……大丈夫です。僕がそういう立場なのは理解してますから」

「ごめんね、まだ何も分からないのに」

「……謝らないでください。その、どうしたらいいかわからなくなるので」

「……そっか、じゃあ……ありがとう」

ミンドリーさんはそう言うと僕に「それじゃあ早速だけど……」と手を出してくる。

僕はその手を握ると彼について行った。


少し歩いて、ミンドリーさんは一つの扉の前で止まる。

ミンドリーさんは覚悟を決めるかの如く、一つ大きな息を吐くとゆっくりとドアノブを回して扉を開けた。

扉の向こうはたくさんの椅子と机が並んでいて、そこにたくさんの人がいた……そしてその誰もが不安そうな顔をしていた。

僕たちはそっちに行かずに、そこよりも一段高い場所に行くと、記者会見とかでしか見ないような台の後ろに立った。

何をすればいいのかわからなくてミンドリーさんの方を向くけど、ミンドリーさんはまっすぐたくさんの人の方を見つめていて僕の方を向く様子はない。

彼はそのまま一歩前に踏み出すと、たくさんの人に向かって話し始めた。

「……それじゃあ、今からぺいんくんに関する会議を始めます」

「まず最初に、メッセージのグループでも言ったけどもぺいんくんは今記憶喪失の状態になってる。自分の名前すら覚えてないほどに重度の記憶喪失で、酷だけどもみんなのことも覚えてないと思う……」

言い終えると、ミンドリーさんはこちらを向いて「この中に見覚えがある人はいる?」と問いかけてきた。

改めてたくさんの人の方を向いて一人一人顔を見つめていくが、誰一人として見覚えがなかった。

僕がゆっくりと首を横に振るとミンドリーさんは少し悲しそうな声で「わかった」と言った。

「……今の反応でわかったと思うけど、これは本当に冗談でもなんでもなくて、僕たちが向き合わないといけない大きな問題だ。そこで、みんなでぺいんくんをどうするか決めたい」

その言葉に、少しのざわめきが生まれた。

「……どうするかって……どういうことですか?」

青髪の、ゴーグルをしている男の人が問いかけた。

「……再三だけど、ぺいんくんは記憶を失っている。もちろんみんなはぺいんくんの記憶を取り戻したいって思ってるはずだ」

ミンドリーさんはそこで言葉を区切ると、その先の言葉を言うのに少し時間をかけた。

「……だけれども、失った記憶を取り戻すのはきっとすごく大変だと思う。もしかしたら戻らないなんてこともありえる。だからこそ、ぺいんくんを白市民にするっていう選択もできる」

その言葉にさっきと比にならないほどのざわめきが生まれた。

そのざわめきの中で一人、橙色の髪色をしたキノコみたいな髪型をしている男のひとが発言した。

「……それってつまり、ぺいん先輩の記憶を取り戻すのを諦めて、新しい人間として人生を歩ませるってことですよね?」

「そうだね、そういうことになる」

「ならまずはぺいん先輩の意思を聞かなきゃいけないんじゃないですか?」

その言葉で一気に僕に視線が向けられる。そのことに一瞬怖気付くが、何とか逃げたいと思う気持ちを抑える。

「……ぺいんくんはどうしたい?」

「僕は……」

僕は、どうしたいのだろうか?

記憶を取り戻すのはさっきミンドリーさんが言ってたように楽じゃない。きっと苦しい道なるだろう。

逆に新しく「伊藤ぺいん」ではなく「僕」という人生を歩むことは少なくとも記憶を取り戻すよりかは楽だろう。

普通に考えれば後者を選択するのが一番いい……けれども

少しの時間だったけど、今まで会った人が向ける目が、伊藤ぺいんがどれだけ愛されていたのかを物語っている。

後者を選べばきっと楽だろう、けど

今目覚めたばかりだけど、それでも、僕は人が悲しむことはしたくない。

後者を選ぶときっと僕に関わってきた人たちみんなが悲しんでしまうし、何よりも……

……「伊藤ぺいん」がかわいそうだ。

だから、僕は

「僕は、記憶を取り戻したいです」

僕がそう力強く言うと、ミンドリーさんは少し驚いたようだった。

けれどもすぐに調子を取り戻すと「本当にその選択でいいの?」と、問いかけてくる。

「……この選択が辛いことはよくわかっています。ミンドリーさんがそう言ってくれるのも僕を心配してくれてるんですよね。

……でも僕は記憶を取り戻したいです。

かつての僕と親しかった人たちのために、僕のことで悲しんでくれる人たちのために、そして僕自身伊藤ぺいんのために、僕は記憶を取り戻してみせます」

僕の決意を込めてミンドリーさんにそう伝えると、彼は少し嬉しそうに笑った後、「わかった」と言ってくれた。

「……ぺいんくんは、変わらないね」

「そういえば、記憶を失う前の僕って結局どんな人だったんですか?」

「……すごく面白くて、正義感が強くて、明るくて……そして何より、すごく優しい人だったよ」

「全然似てないですね、僕は面白くないですし、正義感なんてありませんし、暗い人だし、優しさなんてないです」

「そんなことないよ。少なくとも、記憶を取り戻そうとした理由は自分のためじゃなくて誰かのためだったでしょ?それは優しさだよ」

「…………」

すごく褒められて少しばかり照れていると、ミンドリーがみんなに向かって声をかけた。

「……ぺいんくん自身が記憶を取り戻したいって言ったのをみんな聞いたと思う。本当は平穏な生活を送って欲しかったけど……ぺいんくんがそう言った以上、みんなで、全力で記憶を取り戻させよう 」

一瞬だけ、静寂が生まれ、そしてすぐに騒がしくなった。

どうやらみんな、僕の記憶を取り戻すのに協力してくれるらしい。

そのことがすごく嬉しくて、心強い。

今、改めて決意が固まった。

絶対に記憶を取り戻してやる。

だから、待っててくれよ伊藤ぺいん。きっとすぐに記憶を取り戻してみせるから。


あとがきだよ。


おかしい……この回で警察メンバーと初めまして(二回目)する予定だったのがなんか気づいたら決意表明で終わってた……何故?

というわけで次回は警察のみんなと親睦を深めていきます。楽しみにしててください。


そういえば全然関係ないんですけど今日自分誕生日なんですよね。十六歳になりました。

まだたったの十六歳ですが、皆さんに良い小説を届けられるよう頑張ります。


ではまた次回

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