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しかし、八木は短くなったタバコを灰皿に押しつけもう一本取り出したタバコに新たに火をつける。

いや、つけてしまった。


(あー、でも違うな、多分、違うわ)


きっと“立花真衣香“を傷つけた坪井に怒りを感じて、きっと。


(泣いてる顔、無理だな、キツかった)


笑っていてくれと、願っている。

そして『八木さん酷い! また犬扱いしましたね!?』と、時々むくれては睨んで来い、と思う。

そんな彼女を見ていたいのだと、気付く。


気付いたところで、どうにもこうにも。

そもそも何故今になってこんな気持ちに気がつくのか。


(どうせなら、もっと早く気付いて。坪井が咲山を関わらせてきた時点でどうにかしてやれてたら)


たらればを言ったところでどうにもならないことは、もちろんわかっているけれど。思わずにはいられない。


「いや、マジでどーすんだ」


また繰り返す、自問自答。

あれは頑固な女だ。弱ってるところをどうこうできる人間でもない。


(つーか、下手に迫ってもな。そもそも男が無理になるんじゃねぇのか)


そんなふうに考えて、また新たに気がつく。

無理やりにでも自分のものにしてしまいたいという、欲求よりも。勝るものがある。

それが歳のせいなのか、はたまた気持ちの種類によるものなのか。わからないが。


真衣香が、望む環境を作ってやりたいと思う。

それが坪井を遠ざけることならば、そうしてやりたいし。逆だと言うなら、それもそれで助けてやりたいとも思う。


恐らく最優先が、自分のものにすることではなく、あくまで真衣香の笑顔なのだろう。


(まあ、どこまで我慢が効くかも正直わからんけど)


「……とりあえず、早く元気になれ」


フィルターぎりぎりまで吸ったタバコを灰皿に落として蓋を閉じた。

せめて今してやれること、きっと気がかりだろう彼女が残していった仕事を終わらせよう。


そして、申し訳なさそうに頭を下げてきたなら。いつも通りに、からかって雑に頭を撫でてやろうか。

そうすれば『犬扱いしないでください!』と、あの、いつもの声が聞けるかもしれない。


これまでの日々、見てきた、笑顔。

これからの日々、まだ思い描けない、願う未来。


「っと、やべぇな飯も食ってねぇし」


急いでエンジンを切りキーを引き抜きドアを開けた。


八木は足早に駐車場を後にする。


そして。きっと心配そうに、そわそわしてデスクにいるであろう杉田のもとへ急いだ。


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