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いなりずし
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#転生
高天原ヒロ
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ちぇり~🍒_ずっと低浮
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「はぁ……。」
今日何度目かのため息を、白砂律はついていた。
自室のベッドに寝転びながら、スマホを眺める。
最近リリースされたオンラインゲーム。
『エターナル・タワー』
巨大な塔の最上階を目指し、仲間とギルドを組みながら魔物を倒していく、今話題のゲームだった。
(玲なら、このゲーム絶対好きそうなんだけどな……。)
本当は玲と一緒にしたかったけれど、
「ごめん、律! 先生たちと修学旅行の打ち合わせがあるから、またあとでね!」
最近の玲は忙しそうで、ゲームはおろかゆっくり話すことさえままならない。
仕方ないと、頭では分かっている。
けれど――
(俺には……玲しかいないのに。)
胸の奥が、少しだけ苦しくなる。
そんな考えを断ち切るように、律はゲームのアプリを立ち上げた。
「……俺、一人でいっか。」
◇
ゲームを初めて数十分――。
「……危なっ。」
初めて挑むダンジョンで、律は苦戦していた。
その時、画面にメッセージが表示された。
『パーティー申請が届きました』
送り主を見る。
『Non』
可愛らしいポニーテールの少女キャラクターだった。
『すみません!』
『初心者なんですけど……もしよかったら、一緒に戦ってもらえませんか?』
「いいよ。よろしく。」
『ありがとうございます!』
「俺が相手の体力減らすから、後方支援お願い!」
『了解です!』
「あ、そっち一体行った!」
『任せてください!』
『Ritsuさん、回復しときますね!』
「サンキュー。」
「ラスト一体!」
『はいっ!』
二人の攻撃が同時に決まり、巨大な魔物は光の粒となって砕け散った。
「ボス討伐成功!」
『やりました!!』
画面の中で、Nonのキャラクターが嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる。
『Nonさんがエモート「ハイタッチ」を送りました』
「ふふっ。」
律は思わず笑みをこぼし、自分のキャラクターでハイタッチを返した。
『やった! 初めてボス倒せました!』
「ナイス。いい連携だったよ。」
『Ritsuさんのおかげです!』
初めははぎこちなかった二人も、ダンジョンをクリアするたびに息が合っていった。
『結構、ステージ進めましたね!』
「うん。でも、Nonって本当に初心者? すごいうまいじゃん。」
『えっ、本当ですか? 色んなゲームをやっているからかもしれません。 でも、やっぱりRitsuさんはすごいですよ!』
「俺?」
『はい。私はRitsuさんの指示通りに動いただけですから。すごく頼りになります!』
「そう? ……ありがとう。」
さっきまで、玲のこと考えてため息をついていたのに、気がつけば二時間近く経っていた。
「じゃあ、今日はこのくらいにしておこうか?」
『そうですね。じゃあ、また明日、この時間に。』
「オーケー。」
『おやすみなさい。』
見知らぬ人とのゲーム内での会話。
けれど、今の律には不思議なくらい温かく感じられた。
◇
それから数日。
二人は毎日同じ時間に、ゲームで会うようになった。
ステージクリアを進めながら、次第にプライベートな話題をするようになった。
Nonはゲーム好きな女性で、律より年上だと言った。
今は事情があって仕事をしていないらしい。
将来への不安、現実では言えないことをお互いに話すようになっていた。
『Ritsuさん、実は……私、最近悩んでるんです。』
「悩み?」
『将来のこと。自分が何を選べばいいのか、分からなくて……。』
仕事のことだろうか? 律が考えていると、
『もし、大切な人と離れなきゃいけなくなったら……どうしますか?』
律は画面を見つめた。
Nonの事情は分からない。
けれど――
その一文だけで、冗談ではないことは伝わってきた。
律は自分に重ねて言葉を返した。
「俺なら、後悔しないように気持ちを伝える。」
律は、少し考えてから続けた。
「もし伝えられなかったら……離れる日が来るまで、一緒に笑えばいいと思う。」
「正解なんて誰にも分からないから。」
「俺は、選んだ道を正解にしたい。」
Nonからの返事はなかなか返ってこなかった。
的外れなことを言ってしまっただろうか?
律が少し不安に思っていると、Nonから返事が届いた。
『……すごいですね。』
『Ritsuさんは、まだ高校生なのに……ちゃんと前を向いてる。』
律は苦笑した。
「そんなことないよ。俺だって、迷ってるし……。」
『……どんなことですか?』
一瞬、律の手が止まった。
誰にも言っていない自分の気持ち――
でも、不思議と画面の向こうの彼女になら言える気がした。
「俺……好きな人がいるんだ。」
「その人は、すごく眩しくて。」
「俺なんかが隣にいていいのかなって……たまに思う。」
『その人は、Ritsuさんが隣にいることを望んでないんですか?』
「……分からない。」
『だったら……勝手に諦めちゃダメです。』
『その人がどう思うかは、その人にしか分からないから……。』
『自分で可能性を消しちゃうのは、もったいないですよ。』
律は、その言葉をじっと見つめた。
「……そっか。」
玲がどう思っているのか。それは、玲にしか分からない。
自分が勝手に決めつけることじゃない。
「……ありがとう。なんか勇気出た。」
『いえいえ。私こそ、勇気もらいました。どの道を選んでも、それを正解にすればいいんだって。』
律は小さく笑った。
「うん。一緒に乗り越えよう。」
その瞬間、画面の中の塔が光り輝く。
『新階層解放』
次のステージへの道が開かれた。
◇
翌日、生徒会室。
「律……。」
玲が心配そうな顔で近付いてくる。
「最近、ちゃんと寝てる? 無理してない?」
律は目を丸くした。
(あぁ、玲は俺のことちゃんと見てくれてるんだ。)
たったそれだけの言葉で気持ちが浮上する。
そんなげんきんな自分に、律は苦笑いする。
(俺って……自分が思っているよりずっと、玲のことが好きみたいだ。)
「……玲。」
「なに?」
「今、ハマってるゲームがあってさ……。良かったら一緒にやらない?」
また断られるだろうか?
律が少し不安げに玲を見上げる。
それを聞いた玲の顔が、ぱっと明るくなる。
「いいの!?」
「……うん。」
「やった! 楽しそう!」
その笑顔を見た瞬間、律の胸にあった不安が軽くなった。
(そうだ……。結果を自分で決めつけちゃいけないんだ。)
律は静かに頷いた。
(玲がどんな答えを選んでも、俺は俺ができることをするだけなんだから!)
楽しそうに会話を続ける律の姿を、生徒会室の隅でソノは見つめていた。
「良かったですね、Ritsu。」
静かに息を吐きながら、ソノは安堵の笑みを浮かべた。
◇
あの会話を交わして以来。
Nonはゲーム内に現れなくなった。
『 最終ログイン 一週間前』
そこには、メッセージが一通送られていた。
『短い時間でしたが、ありがとうございました。これからは、あなたの好きな人との時間を大切にしてください。』
ソノは、自室でスマホの画面を見ていた。
(律先輩の背中を、少しは押せたかな?)
数日前、玲を寂しそうに見つめる律に気付いた。
ソノは『恋エグ2』での律のバッドエンドを思い出す。
主人公に想いを拒まれ、現実から逃げるようにオンラインゲームへ没頭し、最後には廃人同然になってしまった律。
(あれは本当に、胸糞エンドでしたね。)
そんな律を見たくなくて、ソノはNonとして同じゲームを始めた。
本来のシナリオなら、オンラインゲームでお互いの正体が明かされ、そこから恋愛イベントに発展するのだが――
「律先輩の恋の相手は、私じゃないから――」
ソノはゲームアプリを長押しして、アンインストールをした。
(もう大丈夫……。律先輩は、自分の力で未来を選べる。そして、私も――。)
「神、あとは……任せましたよ!」
ソノは小さく微笑み、スマホの画面を閉じようとした――その時だった。
玲からメッセージが届いた。
「ソノちゃん、『エターナル・タワー』ってゲーム知ってる? 律とやるんだけど、一緒にやらない?」
(神ーー!? 今ですか? なんてタイミング悪さっ!! もう私を巻き込まないでくださいっ!!)
ソノは思わず天を仰ぎ、その誘いを丁重にお断りするのだった。
◇
誰もいない、夜の生徒会室――。
生徒会長机の引き出しの一番奥で、黒いゲーム端末が光った。
静かな室内でエラー音がなる。
『▶シナリオ書き換えエラー』
『▶好感度上昇エラー』
『▶世界の修正を開始します――』
『▶対象コード:REI-KISARAGI』
端末は光を失い、室内は何事もなかったように静けさを取り戻した。
秒針を刻む音だけが、室内に響く。
このエラーメッセージを見た者は誰もいない。
しかし世界は、静かに――そして確実に、形を変え始めていた。
コメント
3件
面白い!いつ読んでもいいですね。本出してみたらどうでっす?ってぐらい面白いです
みぅです🌙 第53話、めっちゃ胸にきた……! 律くんがゲームの中でNonさんと出会って、少しずつ心開いていく流れがすごく自然で、読んでてこっちまで温かくなった。特に「選んだ道を正解にしたい」って言葉、律くんの強さが滲んでて好きだな。 最後の端末のエラーメッセージ、めっちゃ不気味で続きが気になる……! ソノちゃんの気遣いも切なくて、キャラへの愛が感じられる回でした。