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⋆✦ 堕ちた星、拾われた影 ✦⋆
森は黙して息を潜めていた。
風も葉も音を立てず、ただ夜の帳だけが静かにゆっくりと世界を覆ってゆく。
その夜、一人の少女が屋敷の裏庭、苔に覆われた石畳の古い路地を灯りも持たず、ゆっくり歩いていた。灯りがなくとも月が静かに足元を照らしてくれる。
その時
____ずしん、と空気が揺れたような感覚
振り返った視線の先、しおれた林檎の木の根元
白と黒が混ざった影が折れた羽のように地に伏していた。
少女は迷わなかった。怯えることも叫ぶことも無く、ただその傍らへと歩み寄る。
その姿はまるで月の精が地に堕ちた星を拾い上げる様だった。
さながら星の様な彼は少年のような、でも人とも天使ともつかぬ、儚い生き物だった。
薄く開かれた瞼の奥に金の瞳がちらりと動く。
「……目が、覚めているの?」
「貴方は何者なの?」
少女の問いかけに声の代わりに静かに星のような瞳で少女を見つめ返している。
「……まぁ、いいわ。言葉が通じなくても」
「貴方ひとりでしょう?」
そう言って、少女は彼を抱き起こす。
細い腕で弱った体を支えながら。
その腕に驚いたように彼の体が小さく震えた
「大丈夫、慣れてるのよ、こういうの。」
「わたしも、ずっとひとりだったから。」
月明かりが彼女の綺麗な白髪を照らす
彼の羽根が地面に落とした影が、黒く揺れた
こうして物語は始まった。
静かに、誰にも知られず、森の奥の古びた屋敷で。