テラーノベル
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あの二重扉の事件から数日。私の頭の中は、マスクを外した神原さんのずるい笑顔でいっぱいだった。一日中会えない日もあるからこそ、彼がふらっと部屋にウロウロ現れるだけで、「今日も一日頑張ろう」って思える。
そんなある日の昼休み。
別の部屋で働く同期の女の子とお弁当を食べていたとき。あの衝撃を誰かに言いたくてたまらなくなった私は、身を乗り出して声をひそめた。
K「ねえ、ちょっと聞いて。色んな部屋ウロウロしてる神原さんっているじゃん?」
同期「あー、神原さんね。知ってる知ってる。どうかしたの?」
K「あの人さ……マスク外したらガチでイケメンじゃね!?」
同期「えっ、マジで!? いつも帽子とマスクだから全然知らなかった!」
K「そうなの! こないだ二重扉で一緒になって、ドア開いた瞬間にマスク外したんだけど、マジで格好よすぎて心臓止まるかと思った!」
興奮気味に熱弁する私を見て、同期は「へぇー!」と目を丸くしたあと、何かを思い出したようにスマホから顔を上げた。
同期「あ、でもさ……神原さんって多分30代だし、既婚者で子供いるらしいよ。うちのお姉ちゃん同じ会社じゃん? お姉ちゃんがそう言ってた。本当かどうかは知らないけどね?」
K「え──」
お箸を持った手が、一瞬ピタリと止まる。
30代。既婚者。それに、子供持ち。
他のみんなが言ってる噂じゃなくて、社歴の長い同期のお姉ちゃんからの言葉だと思うと、
一気に現実味が帯びてくる。
K「そっか……。やっぱり、そうだよね……」
あんなにチャラそうで、軽いノリで話しかけてくる人が、誰かの旦那さんで、パパ。
恋愛としてどうこうなりたいなんて最初から思っていなかったはずなのに、自分には絶対に入り込めない彼の「家庭」の噂を聞いて、胸の奥がほんの少しだけチクッと痛んだ。
でも、それと同時に。
(待って。もし本当に神原さんがパパだったら、それはそれでやばくない……?)
あの格好いい顔でお家に帰ったら子供をあやしてんのかな、とか、奥さんに優しく笑いかけてんのかな、とか。
普段のチャラそうな雰囲気に、「大人の男の余裕」とか「パパの包容力」みたいなものが一気に上書きされて、ショックなはずなのに、胸のドクンという音がさっきよりも大きく響く。
同期「ま、本当のところは本人に聞いてみないとわかんないけどね〜」
そう言って笑う同期の前で、私はなんでもない風を装ってお茶を飲んだ。
だけど頭の中は、さらに神原さんのことでいっぱいになっていく。本当かどうかもわからないその噂のせいで、私はもっと深く、あのずるい大人の沼に落ちていく音がした。
Episode 2. end
To be continued…
コメント
1件
第2話、読み終わりました…!神原さんの既婚者・子持ち疑惑、めっちゃ胸にグサッときましたね。主人公が「それならそれでパパの包容力が…」って沼に落ちていく流れ、リアルすぎて苦しいくらい共感しました。キャロットさん、この複雑なときめきの描写、本当に上手いです…!続きが気になります🌙
아 오 _ 🐷🐶
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