―――――3年前 父「すまない、俺にはお前を養う余裕は無いんだ」
母「これからもっと寒くなるというのに、あなたまで病気になったら私たち生きていけないわ」
父「わかってくれ。俺はこの子を施設に入れることに反対ではないんだ」
母「だってこんな寒い日に外に追い出すような真似はできないもの」
父「じゃあ誰が面倒を見るというんだ!!」
母「貴方以外にいないでしょう?私たちはもう長く生きられないわ。それに引き換え貴女はまだ若い。きっと幸せになれるはずよ」
父「わかった……。ただし条件がある。週に一度必ず会いに来ることと手紙を書くことだ。これが約束できるならこの子のことは任せよう」
母「そうね、それが一番良いと思うわ。貴女もそれで良いかしら?」
幼「パパとママがいなくなるなら私ここに居たくない」
父「おい待て!!どこに行くつもりだ」
母「待ちなさい!!!」
幼い頃の私は父と母の言い争いをドア越しに聞いていた。父はどうやら母のことを愛しているようで、その言葉にはいつも愛情が込められているように聞こえていたのだが当時の幼い私の耳では理解できなかった。
ある日を境に母は帰ってこなくなった。父からはお前が悪いと言われ続けたが納得できずにいた。
それから数年後、突然父が家に帰ってきた。その時の母の姿はとても見ていられないほどボロボロになっていた。それでも笑顔を絶やすことなく必死に耐えている姿を見ると胸が締め付けられるような思いになった。しかし父の口から発せられた言葉を聞いた瞬間目の前の世界が崩れ落ちたかのような感覚に陥った。
父「あいつのせいで俺はこんなにも辛い思いをしているというのになんでお前は笑っているんだ!!」
父はそう言うとテーブルの上にあったナイフを手に取り勢いよく振り下ろした。何度も、何度も……。
やがて血塗れになって動かなくなった母を見て満足げにしている父だったが、私の存在に気付いた途端慌てふためきながら何かを言い訳をしていたようだったのだが残念なことにその言葉を聞く前に私の意識は完全に途絶えてしまった。
次に目を覚ました時には既に病室のベッドの上であった。
あれだけ酷い状態だったというのに奇跡的に命だけは助かりこうして今も生き長らえているわけだが一体なぜこんな事になってしまったのか未だに理解出来ないでいる。
ただわかる事は父が最低最悪だということだ。
どうしてあんな男と結婚してしまったのだろうかと悔やまれるばかりではあるが後の祭りである。
母が死んだことにより残されたのは自分一人だけでありこれからの生活を考えれば頭が痛くなる思いであったが、それでもなんとか乗り越えていくしかないだろう