コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
楽園の国のいつもの景色、ゴーエンが演説を開いていた場所には、変わらず人々の往来が伺えた。
「ルークさんは……明日か……? それにしても、なんで避難誘導とかさせてないんだ……?」
妙な不安感を胸に、僕は意気消沈している風の神 ヒーラさんの肩にそっと手を触れた。
その瞬間。
「なんだ……ここは……」
岩の神 カズハさん、雷の神 ロズさんの時にも見た記憶の中……だと思うが、情景がいつもと違った。
いつもなら、目の前にはその神がいて、バベルと会話をしていて、他は真っ白な空間が広がっていた。
僕の目の前には、広大な大地のみが写されていた。
「おー、気持ちのいい風だ」
背後から声が聞こえる。
あの白髪は……唯一神バベル。
「この風に魂を宿そう! いいよな、ミカエル!」
そして、横には当時のアゲルがいた。
アゲルの背には、大きくて白い翼が生えていた。
「この風にですか……? 魂を注げるのは七人まで。龍の時も言いましたが、計画性をですね……」
「大丈夫だって! この風ならいい奴が生まれる!」
不安感を出すアゲルと、笑いながら意気揚々と手を広げて、風を浴びるバベルの姿。
「な、なんだ……!?」
そして、ふわっと空気中の風が巻き上がる。
「さあ、廻れ! 君は一つの人間だ!」
そして、バベルは天を仰いだ。
“光魔法 魂投廻生”
日本語で詠唱……それに光魔法……?
バベルが光魔法を扱えることは別段おかしなことではないけど、日本語で詠唱……。
暫くすると、巻き上がった風は徐々に人の形を帯び、僕たちの知っている風の神 ヒーラの姿に変わった。
「あなたは……?」
「僕の名前はバベル。君を生み出したんだ」
「どうして……?」
すると、バベルは腰を下ろして目線を向き合わせる。
「君には国を創って貰いたいんだ。君の楽しい国。君が大切にしたいと思える国を創って欲しい」
「私が……大切にしたいと思える国……」
「そう。君が大切にしたいと思うことが大切なんだ」
暫く悩むと、ヒーラさんは微笑んだ。
「私はただの風の一部です。いいんでしょうか……そんな恵まれたようなことを望んでも……」
そんなヒーラさんに、バベルは微笑んだ。
「いいんだ。君には風の神となって貰う。そうだな、風から生まれたわけだし、この【疾風】の加護を与えよう」
「【疾風】の加護ですか……?」
「この加護は、何よりも早く移動できる。風の君にピッタリの加護だ。風のように生きて欲しい」
「ありがとう……大切にします」
そうして、胸に手を当ててぎゅっと掴んだ。
「さあ、人となった君は魔法が使えるはずだ。ちょっと試してみてくれ」
「わ、分かりました……でもどうすれば……?」
困惑するヒーラさんに、バベルは手を差し伸べる。
「まずは体の中のエネルギーを感じる。それが魔力だ。そして願う」
「願う……?」
「そう、どんなことをしたいか願うんだ。そうすれば、君の魔法はその通りに発現してくれるはずだ」
そして、ヒーラさんは静かに目を閉じだ。
「 “風神魔法 フルフィール=フルヒール” 」
「お、お、おお!?」
辺り一面の砂利が浮かび上がり、バベルは動揺した声を上げた。
そして、砂利は次第に一つの岩となった。
「す、すごい! これ、再生したってことだよな!?」
「再生……?」
「ああ! きっと治癒魔法だ! 人の傷を治せる魔法ってことだよ! 君はどんな願いをしたんだ?」
ふと俯いた後に、ヒーラさんは答えた。
「私のように命ある者がこれから作られて、大切にしたい国の中で生きるのであれば、誰にも傷付いて欲しくはない、と願いました」
「そうか……その願いが治癒魔法に発現したんだ! 君は優しい人だね。名前を付けなきゃな! ヒール……だと安直すぎるから……ヒーラなんてどうだ?」
ヒーラさんは少し微笑んで、コクリと頷いた。
「よーし、じゃあ君はヒーラだ! 優しい君にピッタリの国を創って欲しい!」
「わかりました。ありがとうございます」
ニコニコと笑うヒーラさんの顔を最後に、僕の意識は現実世界へと引き戻された。
「ヒーラさん……」
「ヤマトさん、今、私と “共鳴” しましたね」
「共鳴……? 記憶を見たことですか……?」
「そうです。本来であれば、七神が加護を与えた守護神の記憶を見ることなのですが、ヤマトさんはバベルと同じくらい力が強いようですね。私の中に入られるとは……」
少し俯くと、僕に鋭い眼差しを向ける。
「ヤマトさんには以前、風の加護を授けました。しかし、ヤマトさんの風神魔法は、未だ完成形ではなかった。この共鳴をすることで、相手の深層心理を知り、更にあなたの魔法は強化されたはずです」
「風神魔法が……強化された……!?」
「ヤマトさん、お願いがあります。この【疾風】で、この争い、誰一人として死者を出さないで欲しいのです」
緑色の、澄んだ瞳で僕を見つめるヒーラさん。
誰一人として、死者を出さない。
龍族の一味は、頑なに七神以外を殺さないはず。
と言うことは、この願いは『七神を守る』と言うこと。
「分かりました」
僕はヒーラさんの眼差しに応えた。
「見つけたぞ……!」
やはり、来た。
上空をとんでもない速度で飛んできたフーリン。
風龍を取り込んでいる、予測はしていた。
「邪魔しやがって異郷者……! 僕がどれ程……」
“風神魔法 ウィンドストーム”
僕は勢い良く、フーリンの背後に回り込む。
「何……!? この風龍そのものである僕が目で追えないなんて……! 防御が間に合わ……」
“炎魔法 ラグマ × 風魔法 フラッシュ”
「グハッ!!」
僕は暴風壁を張らせる前に、素早くフーリンの首を思い切り強打し、地面に叩き落とした。
流石のフーリンも、一瞬の出来事に防御が間に合わず、気絶させることに成功した。
「風神魔法の強化……速度が上がったのか……」
あれ……。
いや、それだけじゃない。
フーリンの襲撃で考える頭がなかったけど……。
「今、空飛んでるじゃん!?」
風神魔法は、移動浮遊魔法へと昇格していた。
ゆっくりと降下し、ヒーラさんから魔力の治癒をしてもらい、僕たちは気絶したフーリンを抱え、ゴーエンの元へ向かった。
「ハハハ! ヒーラ、お前も禁忌を犯したな! 力が弱くなるぜ!」
ゴーエンは笑っていたが、まずはフーリンを倒せたことへのヒーラへの慰めのように感じた。
「あの、ゴーエン。他のみんなは……?」
ゴーエンの元には、守護神 ダンさんを始め、アゲルの作戦通りなら、雷の神 ロズさん、それに、ゴーエンに鍛えられていた仲間たちがいるはずだ。
「龍族の一人くらい、私一人で相手できる。それよりも厄介なのは、闇の洗脳魔法を使うガンマと、龍長だ。ダンに船を出させてラーチの元に向かわせて、ロズには雷神魔法でカズハの元へ向かわせたぜ」
流石はゴーエン……戦闘の指揮が凄いのと、一人で相手できると豪語できる風格たるや……。
「じゃあ、俺たちは例の闘技場でタイマンでもしましょうか……炎の神……」
そこにふらりと現れたのは、ルークさんだった。
「ルークさん……!」
「なんだ、ウチによく出入りしていた商人じゃないか! 貴様が攻めてくるとはな!」
ルークさんは、気絶しているフーリンを見遣る。
「まさか、フーリンがやられているとは。戦闘能力だけでは龍族でもトップクラスなのにね。流石、ヤマトくんだ」
「それじゃあ、覚悟はいいな? 龍族!!」
ゴーエンはメラメラと燃えている。
「待ってください、炎の神。あなたも国内では力を出し切れないでしょう。折角だし、喧嘩祭りに使用した島で戦いませんか?」
「ほほう、気が利くようだな。いいだろう、着いてこい」
そして、ゴーエンは、ルークさんを連れてどこかへと去っていってしまった。