ヒーラさんからの治癒が終わり、僕は立ち上がる。
「大丈夫です。僕も行ってきます」
きっと、ゴーエンには余計な世話だと怒られるだろうけど、僕もヒーラさんと約束したんだ。
あれから三十分くらい経ってしまった。
神の力と光魔法の移動なら、既に島に着いて戦闘が始まっている頃だろうか……。
ゴーエンが強いとしても、ルークさんの光魔法はやはり特殊だし、きっと苦戦を強いられるはず。
急がないとな……。
”仙術魔法 神威”
喧嘩祭りの記憶はよく覚えている。
僕は、観客席まで神威で空間移動をした。
どんな激しい戦闘が行われているんだろう……。
「なっ……!」
しかし、僕の目に映し出されたのは、予想を遥かに超えた光景が広がっていた。
「ゴーエン!!」
ゴーエンは既に膝を着き、ルークさんは無傷でゴーエンに手を翳し、既に王手を掛けていた。
”風神魔法 ウィンドストーム”
僕は両手を広げ、ゴーエンの前に立った。
「やあ、ヤマトくん。炎の神とはタイマンの約束をしたんだけど、邪魔盾は無粋じゃないかな?」
「なんとでも言ってください。僕も約束したんです……」
ルークさんは、翳していた手をそっと下ろした。
「前に言ったね。俺たちが次に会う時は、戦う時だと」
そう……雷龍島のアジトで、この戦いがあることを教えてくれたのは、ルークさんだった。
そして、次こそ本当に、戦う時なのだと……。
「覚悟の上です……!」
いつもの、お調子者の笑みは消えていた。
そして、ルークさんは徐に手を上げる。
「水龍 アーク。出撃だ……」
そう言うと、ルークさんの背後の海水から、飛び魚と蛇を足したような長い龍が現れた。
龍の力を使わずに……ゴーエンを圧倒してたのか……。
「ヤマトくん相手だと、流石に骨が折れそうだからね。水龍の力も使わせてもらう。遊びじゃないからね」
そこに、ブルブルとゴーエンは立ち上がる。
「気に食わないが、奴の言う通りだぜ……ヤマト……。私のことはいいから、他の奴を助けに行け……」
「でも、ゴーエン……こんなボロボロになって……」
「炎神……魔法……シャイニング……ブロウ!!」
フラフラな中で炎魔力のエネルギーを溜め込み、僕の横を走って熱拳を繰り出した。
威力は本当に凄い……島が震えている……のに。
「だから、無駄なんだって……」
そんな破壊力抜群の炎の拳を、ルークさんは片手で受け止めた。
「そんな……今の攻撃を片手で……?」
「これが俺の光龍魔法 アゲートだ。全ての魔法を光で掻き消すことができる。そして、同時にヴォルフの使用していた水魔法 シースルーも発動し、常時炎の神から魔力を吸い上げている。それに、炎の神は、守護神ともう一人、君の仲間に自分の魔法を付与しているせいで、既に弱体化している。それで俺と真っ向勝負して勝つなんて、土台無理だったんだよ」
「どうしてそんな……無茶なこと……」
ゴーエンは相手の力量が分かっているはずだ。
勝てないことだって……。
「フハハ……いいのさ。私は、所詮喧嘩しか脳のない形ばかりの神だったからね……。最後くらいは、アイツらの役に立ちたいって思っちまったのさ……」
そうだ……七神と会ってきてヒシヒシと感じる願い。
” 自分の膨大な魔法では国民を守れない “
ゴーエンは、自分一人ででも、光魔法を扱うルークさんを足止めさせることで、負担を減らしたかったんだ。
「そう言うことだよ、ヤマトくん。俺は争いは好きじゃないんだ。他の戦地へ行ってくれ。ここは、炎の神の気合いに免じて、足止めされたことにしておくよ」
それでも僕は、ゴーエンの前に出た。
「それじゃあ、ダメなんです……!」
「私のことはいいんだ! さっさと……」
僕は、倒れ込むゴーエンの頭をそっと撫でた。
「それじゃダメなんだ……ゴーエン……」
今の僕なら、きっとゴーエンと共鳴もできるはずだ。
意識をそっと、ゴーエンの魔力へと向ける。
「おいおい……日本みたいに地形は作ってみたけど、やっぱ太陽が出てないと南西も寒いな……」
この光景は……バベルは夜空の下、荒野で震えていた。
「ミカエル! 燃える物を集めよう! 炎魔法だ!」
「仕方ないですね……」
アゲルは、バベルの指示通りに燃えそうな物を集め始め、一箇所に集めた。
「よし! 炎魔法 灼羅!」
バベルの右手から放たれた火種は、一瞬にしてボワっと燃え上がった。
「焚き火みたいでいいな〜。日本を思い出すよ」
「そんなことはいいですから、早く進めましょう。南西にはどんな神を創るんですか?」
暫く「う〜ん……」と考え込むバベル。
「あ、炎があるじゃん! やっぱ南の大陸はあったかくないとだよな! 炎魔法の神を創ろう!」
「炎から創るんですか!? 神の性格は物の性質に反映されます。炎から創れば……どんな性格の神になるか……」
「いいじゃんか! そう言う神がいたって!」
「光魔法 魂投廻生!」
そして、燃え盛る炎に向けて魔法を放った。
炎は消え、徐々に人の形を帯び、ゴーエンの姿へと変貌していった。
「おお〜! 炎から女神だ! かっこいい!」
「あっと……ここは……」
困惑気味に目を輝かせるバベルを見遣るゴーエン。
「僕が君を生み出したんだ。【業炎】の加護を付与しているから、君は炎魔法が使えるはずだ!」
そして、ヒーラさんの時と同じ話をする。
ゴーエンの作りたいと願った国は、『国民が愉快に楽しめる国』と答えていた。
ゴーエンは名前はに興味がなく、付与された【業炎】の加護をそのまま名前にしていた。
二人は、ニッシッシ、と笑い合っていた。
やっぱりそうだ……。
喧嘩だけが取り柄なんかじゃない……。
強さだけが取り柄なんかじゃないんだよ……。
「ピギャアアアアアアア!!」
水龍の咆哮が、僕を現実世界へと巻き戻す。
「どうしてもそこを退く気はないんだね。ヤマトくん、俺ももう覚悟を決めるよ」
そして、ルークさんは手を広げた。
「水龍アーク。強制発動 “水魔法 ドリュースト” 」
水龍の目は赤く光り、口から膨大な水のエネルギーが溜まっていく。
そして、大砲のような水撃が放たれる。
“炎神魔法 ラグマ・ゴア”
僕はそれを
「炎神魔法、魔法を蒸発させるんだったね。でも、俺のシースルーでヤマトくんの魔力もかなり吸っている。水龍の攻撃が防げても、追撃までは防げないよな!!」
そして、水龍の水撃の奥から更に、手を伸ばす。
「水龍魔法 アークルイン!」
ルークさんの手からは、見えない水撃が放たれる。
「共鳴をすると、進化するらしいです」
僕は水龍の水撃を、跳ね返した。
「蒸発じゃない……カウンター!?」
そして、ルークさんの水撃も掻き消した。
その勢いのまま、僕はルークさんの眼前に迫る。
「だから……魔法攻撃は俺には通じないんだよ!!」
そして、僕の振り上げた拳を防御する姿勢を取る。
「光龍魔法 アゲート!!」
“炎神魔法 ラグマ・ゴア × 岩神魔法 ヒル=ブレイク”
「なん……だっ……て……」
僕はルークさんの『掻き消す光』を、溶かした。
「この業炎は、蒸発じゃない。溶解させているんです。光だろうと、『手を溶解させれば』魔法も消える」
そして、即座にヒルブレイクで回復をさせた。
「次は、回復はさせないですよ。ルークさん」
すると、ルークさんはふわっと倒れ込んだ。
「フハハっ! 俺の負けだ!」
ルークさんは、悔しい顔よりも、清々しい顔を浮かべていた。
「ゴーエン」
「ヤマト……すまなかった……」
僕は、同時にゴーエンも回復をさせた。
「一つだけ、間違っています。あなたが犠牲になってしまったら、楽園の国は誰も楽しめないですよ」
そう言うと、ゴーエンは微笑みながら涙を溢した。
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