ディオンはリディアを抱え城へと移動すると、リディアの為に用意された部屋のベッドへと寝かせた。
「で、何でお前等もついて来るの」
振り向くとそこにはずらずらと自分の部下やらリディアの友人その他等が立っていた。
「リディアには、俺が付いているから、部外者は出て行ってくれるかな」
貼り付けた笑みでそう話す。
正直言ってかなり邪魔だ。リディアには自分がいれば十分だ。他の人間など必要ない。気を抜くと直ぐに独占欲が出てしまうが、抑える事が出来ない。
「まあそんなに邪険にするものではないよ、ディオン」
そう言って部屋にまた一人増えた。マリウスだ。
「マリウス殿下、怪我は宜しいのですか」
ルベルトは気の利かない上司の代わりに、マリウスを労る。ディオンは内心舌打ちをした。益々面倒臭くなった。リディアを助けてくれたのは感謝するが、本音では面白くないと思っている。身を挺してまで護った事実が腹立たしい。本来であれば自分がすべき筈だった、それなのに……。
「あぁ、治療はしてきたから大丈夫だよ」
そう話しながら右腕を見せる。包帯がぐるぐる巻にされて腕は動かない様に固定さるていた。痛々しい。
「咄嗟とは言え、情けないよね。僕、剣はからっきしだからさ。はは」
軽く笑う。何を考えているのか本当に読めない。一体何しにわざわざ来たのか……リディアを案じて様子でも見に来たのか……。そう考えると益々苛々してくる。
「さてと、じゃあ役者も揃っているし。話そうかな」
間の抜ける声でマリウスは話すと、不敵な笑みに作り変えた。初めて見る表情だった。一瞬にして部屋の空気が張り詰める。
「リュシアン・エルディー。シルヴィ・エルディー。フレッド・ハイン。レフ・ロロット。ルベルト・ファロ。ジークフリート・ラサル。……そして、ディオン・グリエット」
一人一人と視線を合わせながら名を呼ぶ。
「これから話す事は他言無用、この事を知る者は僕と王妃……それと多分国王だけ。何が言いたいかは、分かるよね? もし外部に洩れる様な事があれば……僕はこの中に裏切者がいると判断する。その時は」
スッとマリウスから表情が抜け落ちた。
「制裁を受けて貰う」
◆◆◆
物凄く理不尽な状況だとルベルトは思った。この場の誰もが話を聞きたいとも聞くとも言っていない。それなのにも関わらずマリウスは強制的に話聞かせて、尚且つ洩らした場合は制裁を下すと断言した。
静まり返る部屋の中、異様な空気が漂っている。
「本題に入る前にディオン、君に聞きたい事があるんだ」
「……俺に、何か」
訝しげな表情でディオンはマリウスを見遣る。
「君はリディア嬢の父親が誰なのか、知っているの?」
マリウスの質問が予想外だったのか、珍しくディオンは間の抜けた顔をした。
「……いえ、俺は知りません。多分、妹も知らないかと」
「成る程ね。ジークフリート、君はもう気付いているんじゃないかな」
その言葉に、一気に視線がジークフリートへと集まる。皆一様に訝しむ表情を浮かべていた。それもそうだろう。兄であるディオンすら知らないと話しているのに、何故リディアと顔見知りですら無い彼が知っているのか。
「……先程、団長の妹君が闘っているのを見ました。あの時の彼女の瞳……あれは、確かにヴェルネル殿下と同じ瞳をしていました」
ヴェルネル……確か現国王の実弟、だったか。
ルベルトは聞き慣れない名に頭を悩ませる。直ぐには答えが出て来なかった。昔何処かで聞いた事がある、そんな程度で詳しい事は何も知らない。
隣にいたレフを横目で見遣るが、もはや不思議そうに首を傾げている。向かい側にいるシルヴィやフレッドなども同様だった。
「ヴェルネル、彼は僕の叔父であり現国王の実弟だよ。十六年程前に処刑されてしまったけどね」
良く分かっていない者の為に、マリウスは簡単な説明をする。そして処刑と言う物騒な言葉に息を呑んだ。
「まあ、此処まで言えば分かると思うけど……リディアの実父はヴェルネル、彼だよ」
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