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再び静まり返る部屋。
マリウスとジークフリート以外は、瞠目し言葉が出ない。
「先程、王妃があれだけリディアの身を案じていた理由はそこにある」
マリウスの妙な物言いにディオンは顔を顰める。
リディアの父親が王弟などと、突拍子のない発言に内心困惑していた。正直信じ難い。だが取り敢えずは今はそれは置いておく。
それよりマリウスの発言が気になる。リディアが王弟の実子だとして、何故王妃があそこまで取り乱すのかは理解出来ない。
ヴェルネルは謀反の罪で処刑された人間だ。その娘と言うならば寧ろリディアは命を狙われてもおかしくないくらいの筈だ。
「解せない、と言う顔をしてるね」
マリウスがディオンを見ながら軽く笑う。
「王弟とは言えど、謀反人には変わり無い。王妃がその娘であるリディアに執着する理由にはなり得無い、だよね」
別に莫迦にされた訳ではないが、見透かされた様で面白く無い。
「此処でもう一つ、重要になる事実がある。実は僕と兄であるセドリックが、国王の実子でなかったら?」
次から次へと衝撃的な話を暴露するマリウスにもはや発言をしようとする者はいない。完全に頭がついていっていない様子だ。ディオンですら動揺が隠しきれていない。
「それはどう一体……」
「現国王ハイドリヒが、実は種なしで子を作る事が出来ないとしたら……」
その言葉に思わず息を呑む。
「今現在、王家直系の血筋とされているのは国王とその息子である王太子のセドリック、第二王子であるこの僕のみ。何しろ臆病で被害妄想の激しい国王は、自分以外の王族を一掃してしまったからね。もう誰も残っていない」
現国王の就任時には様々な疑惑があったと聞いた事がある。前国王夫妻を息子であるハイドリヒは二人を暗殺しその椅子に座った。……前国王夫妻の亡くなる際、他の王族の数人も不審の死を遂げている。数年後、今度はハイドリヒの弟が謀反の罪で処刑された。この時残りの王族等も王弟と共謀していたとして全て処刑されている。
「で、もし兄と僕が王族の血筋を引いてないとなると……もう分かるよね。王家直系の血筋は、国王と彼女だけとなる。王妃はね、彼女を王太子妃にして何れ世継ぎを産ませて、何食わぬ顔で王族の血筋を戻そうとしたんだ。何しろ、もうリディアしかいないからね、王族の血筋を残せるのは……。国王は種なしだし」
終始軽い口調で重い話をするマリウスを尻目にディオンは一つずつ頭の中で整理をしていく。
「話は大体は理解しました。だがマリウス殿下の話には根拠がない。これらの話だけでは空論に過ぎないし、王妃の動機が弱すぎる」
「以前九ヶ月程、城の地下の書庫に篭っていた事があったんだ。出て来てから二ヶ月は体調を崩してしまって大変だったよ」
そう言いながら一人笑う。
この空気の中良く笑えるものだと呆れる。色々突っ込みたいが、今はやめておこうとディオンは思った。この人の変人振りは今更だ。
「その時に、面白い代物を見つけてしまってね」
マリウスは淡々とこれまでの経緯を話出す。
地下の書庫に隠し部屋があり、その中からは歴代の王家に関する記述が見つかった事。それらの記録をする人間の存在がいた事。ただその記述はやはり十六年程前で途絶えていた事。それらを書き記していた人間は恐らくもう死んでいる事。マリウスが言うには、口封じの為に王妃が殺したのではと考えているらしい。
「当時、国王には側妃が何人もいるにも関わらず、誰一人身篭らなかった。無論王妃もね。不審に感じた王妃は医師に国王の身体を内密に調べさせた。で種がないと判明。でも国王には事実は告げる事はせずに王妃は別の男との間に子をもうけ、それを国王の子とした。当時の記録を見るにその時国王はある側妃に甚く入れ込んでいたそうでね。焦りがあったんじゃないかな、国王から寵愛を取られてしまうって」
当事者でもあるにも関わらず、まるで他人事の様に話すマリウスにディオンだけでなく他の者も呆れ顔になる。
「王妃の生家は、代々王族至上主義の家系らしくてね。その教育の賜物である母はさ、国王を心から崇拝してるんだ。まあ国王をと言うよりは王族の血筋を、と言った方が分かり易いかな……。それ故にリディアをどうしても王太子妃にして、子を産ませたかったんだと思うよ、その血を途絶えさせない為にも。今母にとってリディアは何を置いても執着すべき存在なんだ。それは国王よりも、ずっとね」