「……で、どうするつもり?」
放課後の部室。
涼ちゃんがフルートを磨きながら、
俺の相談を静かに聞いてくれていた。
「だってさ……若井に彼女いるって噂、
やっぱ気になるんだよ。俺、どうしたらいいかわかんねぇ」
机に突っ伏しながら言うと、涼ちゃんはふっと笑った。
「なら、試してみる?」
「試すって……なにを?」
「若井が君をどう思ってるのか、
確かめるんだ。――嫉妬させればいい」
「し、嫉妬!?」
顔が熱くなる。
「そんなことして意味あるのかよ……」
「あるさ。人はね、
本当に大切なものを取られそうになったとき、
ようやく気づくもんだから」
にっこり笑う涼ちゃんの金髪が、蛍光灯に光る。まるで策士みたいな顔だ。
「……協力してあげるよ。
僕と仲良さげにして、若井の反応を見よう」
「え、えええ!?」
俺は真っ赤になりながらも、内心ワクワクしていた。
昼休みの廊下。
涼ちゃんと俺は、わざと距離を近づけて歩いた。
「ほら、元貴、シャツの襟曲がってる」
涼ちゃんが俺の胸元に手を伸ばす。
その仕草にドキッとしたのは、俺自身だった。
「ちょ、涼ちゃん……!」
「自然に、自然に。はい、笑って」
言われるがままに笑顔を作ると
――廊下の向こうに若井が立っていた。
一瞬、目が合った。
……明らかに表情が固まってる。
(やべ……見られた……!)
若井はすぐに視線を逸らし、そのまま早足で行ってしまった。
胸がドキンと跳ねる。
「……気づいたね」
涼ちゃんが小声で囁く。
「若井くん、あれは完全に嫉妬の顔だよ」
俺は手のひらに汗をかきながら、心の中で叫んでいた。
――ほんとに? ほんとに若井、俺のこと……?