テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ちぇっ、彼氏持ちかぁ……」
私の言葉にがっくりと肩を落とした彬は、ぐでっと机に突っ伏した。
彬は懲りない。
私と別れてからも、何人かと付き合ったはずだが、いつも長続きしないのだ。
彼は自由奔放な人だから『彼女』に縛られるのが苦手なタイプなのだけれど、そのクセ恋愛したがるから面倒くさい。
「あーあ。新たな出逢いが出来ると思ったのにな……と、夏子、今日あたり久々に飲みに行かね?」
つい今しがたまで机に突っ伏してたと思えば切り替えが早く、思い出した様に飲みの誘いをしてくる。
「あー今夜はちょっと……ってか暫く無理かな」
彬とは数か月に一度、互いの予定が合えば飲みに行く事があるけれど、流石に今は無理だ。
夜尚を外に追い出すのも可哀想だから。
「何でよ? バイト忙しいの?」
バイトはしているけど、母の知り合いが経営している小さな小料理屋で、お店を開けるのが不定期で、月によっては数回しか働かない事もある。
一人暮らしをするまではコンビニでバイトをしていたのだけど、一人暮らしをするにあたって両親が仕送りをしてくれる事もあり、今は小料理屋だけにしている状態だ。
「ううん、そういう訳じゃないけど、ちょっと色々あってね」
「ふーん、じゃあ行ける目処が立ちそうになったら連絡くれよ」
「はいはい、分かったよ。それよりそろそろ講義始まるんだから準備しなさいよね」
時計に視線を移すとそろそろ講義開始の時刻が迫っていたので、準備を促しながらやんわりと彬を追い払い、話を無理矢理切り上げた。
「夏子~待ちくたびれたぞ」
講義を終えて図書館で待ってた尚の元へやって来ると、何冊かの本を積み上げたままの状態で机に突っ伏していて、私の姿を見た瞬間文句をたれる。
「仕方ないでしょ? 嫌なら別の場所で時間潰せばいいじゃない」
そもそも私が付いてきてとお願いした訳でもないのに、何故文句を言われなきゃいけないのだろう。
「もう終わったのか?」
「うん。今日は午前中の講義だけ出れば大丈夫だから」
「そっか。あ、なぁ、この本借りたいんだけど、夏子借りてくれよ」
積み上げられた本の中から数冊手に取って見せてくる。
「カード作って自分で借りれば?」
「いや、それだと身分証提示しなきゃならないだろ?」
「そりゃあね」
「だからやだ」
「何でよ?」
「忘れたか? 俺、一応逃げてる身なんだぜ?」
「逃げてるって、そんな大袈裟な……別に犯罪を犯したわけでもないのに」
確かに『ナオ』の失踪はテレビのニュースになるくらい重大な事ではあるけど、一般人は久遠のメンバーの本名なんて分からないのだから、そこまで警戒しなくてもとは思う。
「それに、俺今女装してんだ。免許証の写真と違うし、絶対変な目で見られるだろ?」
「そ、そう言われてみれば、そうね……分かったわよ。借りてくる」
「サンキュー」
仕方なく、私は尚から本を受け取って貸し出しカウンターへと向かった。
尚が借りたいと言った本は、マイナーな物もあるけど結構メジャーな推理小説ばかり。
なんていうか尚が読書好きっていうのが何だか少し意外だった。
「返却は一週間後になります」
「はい」
カウンターで手続きを済ませて再び尚の元へ戻って行くと、
「彬……」
尚の元には、いつの間にやって来たのか彬の姿があった。