高級外車を愛車に持ち、ギャンブルに十万円を惜しむこと無く投資し、高層マンションの最上階に住んでいる郁斗。
彼は一体何者なのだろうと詩歌は思う。
「さ、遠慮しないで入って」
「お、お邪魔します」
エレベーターを降り、一番奥の端の部屋の前に着くと郁斗は鍵を開けて詩歌を部屋へ招き入れた。
室内に入ると一際大きな窓が目に入り、そこからの景色は実に圧巻だった。
マンションの周りにはいくつかビルやマンションが建っているものの、このマンションはこの辺りでは一番の高層マンションゆえ、その最上階ともなると周りに遮るものがないので、日中は晴れていると遠くの方に富士山が見えたり、夕焼けや夜景などのありとあらゆる良い景色が存分に堪能出来る。
「その辺、適当に座ってて」
「は、はい……失礼します」
コートを脱いで畳んだ詩歌はバッグと共に足元へ置くと、まるでベッドなのかと思う程大きい何人掛けだか分からないL字型のソファーに腰を下ろして辺りをキョロキョロ見回した。
(凄いお家……。こんな広い家に一人で暮らしてるのかな?)
白と黒を基調としたモノトーンな空間は広いのに最低限の家具や家電しかなく生活感が感じられないこの部屋はまるでモデルルームのような印象を受ける。
「ごめんね、飲み物、大した物が無かったよ。ミネラルウォーターでいいかな?」
「あ、はい、ありがとうございます。いただきます」
特に喉は乾いていなかった詩歌だけど、せっかく郁斗が持って来てくれたのでミネラルウォーターのペットボトルを受け取ると、キャップを開けて一口飲んだ。
そんな彼女の横に腰掛けた郁斗もまた、手にしていたペットボトルのキャップを開けると、余程喉が乾いていたのかミネラルウォーターを一気に流し込んでいく。
「ふう、生き返った。あ、そうそう、膝擦りむいてたよね? 傷口は洗った方がいいからね……ちょっとこっちにおいで」
郁斗は思い出したように詩歌に問いかけると、傷口を洗うからと手を引かれ、脱衣場へと連れて行かれる。
「傷口、自分で洗える?」
「は、はい……大丈夫です」
「っていうかストッキング破れてるよね、替えある?」
「いえ……。でも、これくらいなら大丈夫です。スカートで隠れますから」
「いや、それでも不便でしょ? 俺この後もう一度出るから、その時買ってくるよ」
「そんなっ! 大丈夫です」
「遠慮しなくていいよ。 それじゃあ、タオルここに置いておくから、傷口洗ったらリビングに戻っておいで」
そして、タオルを用意した郁斗は詩歌を脱衣場に一人残してリビングへと戻って行った。
言われた通り、浴室のシャワーで傷口を洗った詩歌はストッキングを脱いだ素足でリビングへと戻って行く。
ただ、人様の家にお邪魔をしているのに素足という事に気が引けてしまい、申し訳無さそうな表情を浮かべていた。
「どうかした?」
「あの、すみません……素足で……」
「ああ、そんな事? っていうか寧ろスリッパとか無くてごめんね。脚冷えるよね?」
「いえ、そんな事ないです! 大丈夫です!」
「そお? あ、それじゃあこれ掛けておきなよ」
そう言って郁斗は側に置いてあった黒いブランケットを手渡した。
「すみません、ありがとうございます。お借りします」
再びソファーに座った詩歌は借りたブランケットを掛けようとするも、
「あ、ちょっと待って。その前に、傷口見せてごらん?」
郁斗は制止して詩歌の手を掴むと、洗ってきた傷口を見せるよう要求した。
「え、あの、大丈夫です! 血は出てないし、傷も大した事無かったので」
「駄目だよ、きちんとしないと。ほら早く」
傷口を見せるにはロングスカートを膝上まで捲り上げる必要があるので、詩歌は躊躇っていた。
しかし、ここで何度断っても郁斗が引かない事も分かったので、スカートの裾に手を掛けた詩歌は膝の傷が見える位置までゆっくりと捲り上げると、男の人に素足を見せるという行為が恥ずかしいのか頬を少し紅く染めて目を逸らす。
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