ユウジとは幼なじみとか腐れ縁って言ってもいいくらいの関係で、小学校から中学3年生までずっとずっと同じクラスだった。
さすがに中学は私立を受けるから離れるだろうって思ってたのに、どうしてだか同じ学校、同じクラスになっていた。
ユウジはテニス部に入ってモーホーダブルスとか言われるようになった。
わたしの知らないうちにどんどん背が伸びてって、声が低くなって、力はあたしより強くなった。
女の子にあまり近付かないユウジにとって、わたしはかなり特別な存在で、ユウジと付き合ってるという噂は絶えることがなかった。
わたしとユウジはただの幼なじみで、ユウジには小春ちゃんがいるし、それにわたしは財前くんが気になってる。
だから好きになるなんてありえない。
腐れ縁の力なのかはわからないけど、狙われたかのようにわたしの隣の席はユウジ。
クラスの子達はわたしとユウジが話すたびにちらちらとこっちを見る。
今だってユウジが不在だっていうのに女の子たちは相変わらずこっちを気にしている。
わたしは今日何度目かわからないため息をついた。
「ため息ついとったら幸せが逃げちゃうわよっ」
「小春ちゃん助けてー」
「あらあら、どうしたん?」
「ユウジの隣なんて鬱すぎる」
「なんやと」
「わっ、ユウジ!いつ戻ってきたん!」
「今や!そんなことより鬱って何や鬱って」
「そんままの意味ですー」
「お前ほんまうっとい」
「ほらほら言い合いせんと、仲良うしいや」
小春ちゃんがわたしとユウジの頭をぽんって叩くと、ユウジが小春ーって言って小春ちゃんに抱きついた。
ユウジが小春ちゃんと仲良くなるまでは抱きつかれるのはいつもわたしだった、抱きつかれるっていうよりはしがみつかれるという表現のほうが正しいのかもしれない。
ユウジがわたしより小春ちゃん優先になった時は少し寂しさがあったけど今ではそんな感情は消え去ってしまった。
「ユウジ、小春ちゃんから離れたら?」
「うっさいわ」
「先輩ら教室でもキモいっす」
「ほらキモいって言われてんじゃん……えっ、財前くん!?」
「こんちわー」
「財前何か用あるんか」
「オサムちゃんに先輩ら呼んでこいって言われたんで」
財前くんの言葉にユウジはふーん、とだけ言って小春ちゃんと仲良く肩を組んで教室から出て行ってしまった。
教室にぽつんと残された財前くんとわたし。
心臓の音がうるさい。
目の前の財前くんに何を話せばいいかとか全然わからなくなって、無意識にさっき出て行ったばかりのユウジを目で探してしまう。
「ほんまユウジ先輩仲ええっすね」
「そんなことないよ、絶対!ほんっとに仲良くないから!」
「先輩はユウジ先輩が好きなんすか?」
「……なんてこと言ってんの財前くん」
「え、ちゃうんですか」
「当たり前でしょ!あー…じんましん出そう最悪」
「どんだけ否定してん、先輩。おもろ」
財前くんと久しぶりに2人で話せたと思ったらとんでもないことを聞かれてしまった。
わたしがユウジを好きとか無い。
ただ腐れ縁なだけで良く言えば幼なじみ。
幼なじみが恋をするとかベタな展開はわたしたちにはない。
「財前くん、わたし好きな人、というか気になってる人はいるよ、ユウジじゃなくて」
「マジっすか」
「うん」
「誰」
「言うわけないでしょ」
わたしがそう言うと財前くんはつまらんわとだけ呟いた。
そんなふうに言われても本人に言えるわけないんだからしょうがない。
とりあえずいつか教えるね、とだけ言っておいた。
「なんやお前ら仲ええな」
「あ、ユウジお帰り」
「ほな俺教室に戻りますわ」
ユウジが戻ってくると財前くんはだるそうに戻って行った。
ユウジがもっと遅く帰ってくれば財前くんともっと話せたのに。空気読め。
「小春ちゃんもお帰り」
「ただいま」
「なー、財前と何話してたん」
「大したことじゃないよ」
「そか」
ユウジはちょっと仏頂面で席に戻って机に突っ伏して寝始めた。
「小春ちゃん」
「なーに?」
「財前くんにユウジのこと好きなんですかって聞かれた。ありえないよね」
「そうかしら?十分有りやと思うで」
「小春ちゃんまで…!ありえない!」
小春ちゃんは少し考え込むような仕草をして、あたしをじっと見つめた。
そんなに見つめられてもわたしにとってユウジはただの仲良しで一応大切な幼なじみで恋愛対象なんかじゃない。
「アタシはユウくんたちが付き合ったらええなあってずっと思てたんよ」
「わたしとユウジが?ないない!」
「2人お似合いよ、ほんま」
「たとえそうでもわたし気になる人いるの、ユウジじゃなくて」
「誰なの?テニス部?」
「ユウジには言わないでね、」
わたしは小春ちゃんの耳元に近付いて財前くん、って言うと小春ちゃんは目をまんまるに開いてほんま?とだけ聞いた。
あたしが頷くと意味深な表情であたしをまた見つめた。
「なあ、でもそれって、」
と小春ちゃんが言いかけたところで予鈴が鳴り響いた。また後で言うわね、と言い残して小春ちゃんは自分の席に戻って行った。
彼女が言いたかったことはなんとなくわかるような気がした。
わたしだって心の底では分かってる、のかもしれない。
隣の席ではユウジがむくりと起き上がって大きな欠伸をしている。
「何見てん、見せ物ちゃうぞ」
「大きい欠伸だね」
「黙れボケ」
「そんなん言うならゲーム貸せないね」
「お前ほんまずっこいな!」
「なんとでも」
結局わたしはユウジと距離を縮めていくことが怖いだけで、ずっと前に見ないふりをすることに決めた。
好きになんてならない、好きにならなければずっとこのままだから。
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