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※軍パロ
※死ネタ
夜も深まってきた頃。食堂で騒がしい六人での食事を終えた後、自室でベッド縁に並んで座り窓から外の景色を眺めながらぽつぽつと言葉を交わすのが、忙殺される日々の中での数少ない心安らぐ時間だった。
「スマイルと一緒に逝きたいなぁ」
ふと、スマイルの手に指を這わせながらきんときがそう呟いた。
「なに急に」
「いや?言ってみただけ」
にこり、なんでもないふうに笑う。
「……無理だろ」
溜息のように吐き出された言葉は、一見冷たいように見えてその口調はどこか寂しげだった。
「だよね」
情報局の長官であるスマイルは常に現実を見る。それは仕事柄でもあるし、他五人が夢を追うためでもある。そのスマイルが無理だというのだから無理なのだろう、まぁわかっていたことだが、と、星を眺めながらきんときは思った。
「……でも」
指同士がするりと絡んだ。
「……おれも、最期はきんときと一緒がいい、」
肩に微かな重みを感じて、きんときは目頭が熱くなる思いだった。そのさらさらの髪を撫でて、口元を緩める。
「ふふ、珍しく素直」
「……俺が素直になったらわるいかよ」
「いや?かわいいなって」
その言葉に、気を紛らわせるようにひとつ咳払いをするのがまた愛おしい。そんなことをしたって、微かに紅潮した頬は隠せないというのに。
「ねぇ、愛してるよ」
「うん」
明日もあるかわからない二人での日々を噛み締めるように、きんときは毎夜そうしてまっすぐな言葉をかけた。スマイルから同じような言葉が返ってくることは稀だったが、気にしていなかった。言葉にされずとも、お互いに愛し愛されていることは理解していたから。
「おやすみ」
「うん。おやすみ」
▫︎ ▫︎ ▫︎
『こちら情報局長官スマイル。基地に敵襲あり』
「はぁッ!?」
殺しても殺しても一向に減らない敵兵に若干辟易していた頃、耳に届いた通信はまさに青天の霹靂。シャークんは大きく目を見開き、対峙していた相手が驚きに剣を握る手を滑らせるほどの大声を出した。戦場で見せた隙を最強と謳われる深緑の瞳が見逃すわけもなく、その驚いた表情のままに敵兵の首は落とされた。
『どこから漏れた!?』
『いや。どうやらO国と手を組んでいたらしい、O国との国境から直接侵入された』
『なら一時撤退だね』
Broooockの言葉に、久々の戦争でようやく興が乗ってきていたシャークんはすぐにその場にいた敵を薙ぎ払い、殲滅した。そして血の海に背を向けようとした時、だった。
『その必要はない』
低い声が、告げる。は?と、四人分の声が重なった。照りつける日光が嫌に眩しい。雲の流れるはやさが妙に速い気がした。
『お前らは進め。前線の戦況は頗る良い。そのまま行けば無条件降伏が出るだろう』
「は、?意味わかんねぇんだけど、」
『いいから進め。後ろなんて振り返るな』
ざあっと、風が木々の隙間を抜ける。跳ねた黒髪が揺らう。
『長官!!セキュリティ突破されました、じき建物に侵入されます!!』
『あぁ。……基地内にいる総員に告ぐ。D地点に向かえ。決してO国との国境は通るな』
森は静かだ。恐ろしくなるほど。まるでこの世界にひとひとり、のような。
『っ何これ!?何が起きて……ッ!?』
『Nakamu!?』
『心配しなくていい。……あぁ、でも、目が覚めたら謝っておいて。手荒な真似をして悪かった、って』
考えるより先に地面を蹴った。吹き出す汗はこの酷暑のせいか、はたまた吐きそうになるほどの胸騒ぎのせいか、
『……遅かったね』
ふいに。状況に似つかない、酷く柔らかな声が聞こえた。
▫︎ ▫︎ ▫︎
「……遅かったね」
こちらに振り向くことなく呟くのは確かに情報局長官としてのスマイルだったが、その口調は先ほど指示を出していたときとは打って変わって酷く柔らかかった。
「ごめん。寂しかった?」
「間に合うか心配だっただけ」
「そう?」
きんときはノールックでキーボードを絶え間なく叩き続けるスマイルの隣に立った。ぼんやりとモニターを眺めてみたりするが、当然情報面のことは何もわからない。ただ、そう遠くない距離で聞こえる爆発音や発砲音から意識を逸らしたかった。
「まだ?」
「あと少し」
喧しい足音が聞こえてくる。焦りはしない。不思議と心は凪いでいた。
『きんとき!!その馬鹿を止めろ!!』
通信から聞こえる悲痛なシャークんの叫び声。スマイルは答える余裕もないだろう。きんときは自身の通信機の電源を入れる。
「ごめんね、シャークん。首謀者は俺なんだ」
相も変わらず爽やかな声で言い放つ。そう、きんときは首謀者。そしてスマイルは共犯者。そうは言っても、二人にとってどちらがどちらかなんて然程重要ではない。時間の問題でどちらにもなり得たから。
『どう、して』
「シャークん。お前は無理しがちだから心配、俺たちが何回肝を冷やしたことか。あんまり無理すんなよ」
キーボードの打鍵音が止まった。画面にはプログレスバーの表示。
『きみたち、いつから』
「Broooock。俺たちはお前の血の滲むような努力を知ってるよ。もう少し自分に甘くたっていいんだからね」
プログレスバーはゆっくり進んでいく。けれどやはり焦燥感はなかった。スマイルの計算は絶対だ。狂いはない。
『やめ、てくれ、』
「きりやん。お前は本当に優しいね。俺たちがいなくなったからって一人で抱え込まないで。もっと周りを頼れよ」
しゅん、と音を立てて情報室にある無数のモニターの画面がブルースクリーンへと変わる。時は満ちた。
「……Nakamu」
窓の外の青空を見た。一雨きそうな気配だ。そうすれば綺麗な水色は灰色へと染まってしまう。
「強く在れ」
スマイルが立ち上がる。手元には小さなスイッチ。視線が絡んで、二人、いたずらっ子のように笑った。
「WT国情報局長官、ならびに軍医総監」
蹴破られた窓、立ち込める煙、雪崩れ込んでくる幾十もの敵兵。
「投降すれば悪いようには扱わない」
「スマイル」
どこか遠くで聞こえる声には耳を塞いで。五月蝿い、俺が聞きたいのは大切な恋人の笑い声だけなのだ。
「抵抗すれば」
「きんとき」
煌々と輝く銃口には目を瞑って。煩わしい、俺が見たいのは大切な恋人の笑顔だけなのだ。
「一緒に逝こう」
▫︎ ▫︎ ▫︎
「……ぁ、」
爆音が轟く。無情な音。積み上げてきたものがガラガラと音を立てて崩れていく。一番大切なピースが、空いてしまった。それも二つも。
「……ぅ"」
Broooockは口元を抑えて、座り込んだ。体の芯が冷たい。寒い、さむい。
「……ぉえ"……っ」
びちゃびちゃ、と音を立てて吐瀉物が地面に落ちた。
「……嘘だ」
ざっ、と砂を蹴る音。低い低い声は、震えていた。
「うそだ、」
通信機は耳障りなノイズだけを残して、落ち着いた低い声も、爽やかな透き通った声も、もう耳には入らない。
『Broooock、そこ右……おい、右だっつったろ』
いつも冷静に指示を下してくれた菫色も。
『はい、これで大丈夫。今日も訓練お疲れさん』
いつも優しい手つきで怪我の処置をしてくれた深海も。もう、
「……行くぞ」
ふと、頭に手が乗せられた。見上げれば、眼鏡の奥で燃え上がる炎を睨んでいる黄檗色があった。
「馬鹿野郎。お前らがいる方は後ろなんかじゃない」
共に後方支援部隊を統べるきんときとスマイル。けれどその二人は、戦争が終わった先に待つ未来を常に一番に見据えた、四人にとっては確かに自分たちの前方にいる存在だった。
「スマイル、お前の言う通り俺たちは進むよ。前に、……お前らのいる方に」
Broooockは口元を拭い、ふらふらと立ち上がる。シャークんも涙を拭った。そんな二人の姿を見て、手を離すきりやん。
「……はは、」
走って、走って。鎮火したのは、いつだっただろう。いつのまにか空は灰に染まって、雨が降り出して、びしょ濡れになっても瓦礫を押し除けた。
「いたか!?」
「……うん」
どこで切ったのか、血の溢れる指先は気に留めず、ただひたすらに。そうして見つけた二つの焼死体に、Broooockは思わず笑った。
「本当に愛し合っていたんだね、君たちは……」
▫︎ ▫︎ ▫︎
どちらともなく重ねた手。鼻腔を通り抜ける火薬の匂い。焼け付くような炎に巻かれて、体を折った。
「すまいる」
「ん……っ、」
酸素を奪われる。優しくてあまいキスに、スマイルは幸せそうに微笑んだ。
「あいしてるよ、すまいる」
「おれも、あいしてる。きんとき」
一緒に逝こうね。
▫︎ ▫︎ ▫︎
▫︎ ▫︎
▫︎
補足
精緻な事前準備があって二人で自爆しましたって話です。Nkさんはsmさんの指示の元、情報局の諜報員に眠らされて安全な場所に運ばれたという設定でした。ざっと読み返したけどあまりにもわかりにくかった、すみません。