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よくある喧嘩ネタです
※体調不良表現あり
※さらっと同棲
※ラストだけR15くらいかも
「きんときなんて、嫌いだ」
心が冷え切っていく心地がした。あれほど血が沸騰しそうなほどの怒りを覚えていたはずなのに、一気に体の芯から冷やされていくような、そんな心地。
「そうかよ」
絞り出した声は、自分で思っていたよりもよほど低かった。
「俺もスマイルなんて嫌いだよ」
ぱたん、と玄関の扉が閉まる音が、随分重々しく聞こえた。ソファに座って、テレビをつけて、くだらないバラエティ番組なんかを見て。面白くないなぁ、とぼんやり思う。
『ごめん、明日から出張なの伝え忘れてた』
きっかけはなんだったか。思い返し、帰宅して開口一番なんでもないように呟いたスマイルの澄まし顔を思い出して、きんときは顔を顰めた。
『え?……なんか最近多くない?そういうの。全然帰ってこないと思ったら何も言わず飲み会行ってたりさ』
『きんときの許可が必要なのか?』
『許可とかじゃなくて、俺たち恋人でしょ』
だからなんだ、とでも言いたげな、あからさまに怠そうな顔をしてコートを片すスマイルに、きんときはさらに口撃する。
『スマイルが俺の立場だったらなんとも思わないの?』
『……別に、なんとも』
『何それ。冷たすぎるでしょ』
それからの流れは早かった。すぐに口喧嘩に発展し、冷め切った夕飯を気にも留めず言い合いが続く。普段から溜めていたお互いに対する細やかな愚痴なんかも持ち出しはじめれば、いよいよ泥試合だ。
『大体スマイルは恋人っていうのが何たるかわかってないんだよ』
『それ、はぁ、』
とはいえスマイルは、議論や会議の場では非常に脅威となる一方こういった口喧嘩にめっぽう弱い。早口で捲し立てれば抑え込める。友人として、恋人として、何度も衝突してきたきんときは当然その程度のことは理解していた。
『ずっとどこかズレてるお前と付き合ってる俺の身にもなれよ』
しかしこうやって相手のことを自ずと理解しているのも自分だけだったのかもしれない、と思うと、無性に悲しいような、腹立たしいような気持ちになってしまったのだ。そうして口をついた言葉は、冷静に考えれば非常に良くなかった、ときんときは溜息を吐く。
『……っ、そん、なの、』
持ち前のスルースキルでほとんどの悪口や暴言を聞き流すスマイルだが、このときばかりは少し傷ついた顔を見せた。声は震えていて、視線も合わなくなって。そうして発せられた言葉が、冒頭のそれである。
[Nakamu、うち来ない?]
気を紛らわせたくて、もしも向こうさえ良ければ話を聞いて欲しくて、一番信頼できる友人に連絡をした。すぐに既読がつく。
[いいけどスマイルは?]
[そのスマイルのことでちょっと相談したいことがあって]
[おけ、行くわー]
Nakamuはフッ軽だ。それに比べてスマイルは、未読魔だし連絡も遅いし、なんならしないときもあるし。そうやって大切な友人と大切なはずの恋人を比べてしまった自分を一瞬責めかけるが、反省なんてしてやるか、と、かぶりを振るった。
▫︎ ▫︎ ▫︎
コートは着てくるべきだった。スマイルは震えながらそう後悔した。この真冬にシャツとベスト、スラックスだけはあまりにも寒い。せめてジャケットさえあれば。
「っくしゅ、」
くしゃみをひとつして、コンビニに入った。一瞬脳裏に今日の十九時頃にきんときから来ていた、夕食置いてあるからね、というメールが過った。けれどその記憶を振り払うように歩みを早め、おにぎりが陳列されている棚の前で足を止めた。
(でも、どうせ明日からもこんな食生活だ)
鮭おにぎりに伸ばしかけた手が止まる。きっと帰って謝れば済む話。優しいきんときは許してくれる。わかっている。わかっているけれど。
「140円です」
おにぎりひとつを手に、コンビニを後にする。ビジネスホテルにでも泊まろうか。いや、どうせ明日から出張なのだから一度家には帰らないといけない。あぁ、合わせる顔がない。今回ばかりは自分が悪い。
『ずっとどこかズレてるお前と付き合ってる俺の身にもなれよ』
そう言われたとき、頭が真っ白になってしまった。自身の柔いところを突かれたら咄嗟に嫌いだなんて、小学生じゃあるまいし。世間とズレている自覚も、きんときにずっと赦されている自覚もあった。
『大体スマイルは恋人っていうのが何たるかわかってないんだよ』
確かにわからない。自分には何か人間にとって一等大切なものが欠けてしまっているのだと思う。愛とか、恋とか、感情とか、そういった類の。どこで落としてしまったのだろう。ややもすれば母親のお腹の中かもしれないな、とスマイルは自嘲的に唇の端を歪める。
『俺もスマイルなんて嫌いだよ』
公園のベンチでおにぎりを頬張りながら、その言葉を、声色も口調も何もかもそのまま、脳内で繰り返し再生し続けた。それだけ鮮明に記憶に焼き付いていた。
(そもそもプロシジャが誤っている)
結果は、もうそれでしかない。思考を止めたら泣いてしまいそうで、必死に考えるべきことを思案した。昨日、先週、先月と遡って、自身の過ちをひとつひとつ計上する。
(……なんだ、)
結局自分が悪いじゃないか。迎えるべくして迎えた結果だ。すぐにその結論に至って、天を仰いだ。ブランコでも漕いでいこうか。どうせ誰も来やしない。
▫︎ ▫︎ ▫︎
「……って感じで」
「うんうんそれは彼氏さんが悪いね」
「テンプレやめろ」
けたけたと笑うNakamu。家にあげるや否やことの顛末を話し出したきんときに多少驚いたものの、すぐに話を聞く姿勢になってくれた。酒を仰ぐとうーん、と腕を組む。
「まぁガチな話さ、スマイルが悪いよそれは。どこまできんときが客観的な話をできてるかにもよるけど」
「だよね?俺間違ってないよね?」
「うん。でもズレてる云々は言い過ぎやね」
「……それはそう」
ぐっと言葉に詰まったが、すぐに自分の非を認めるきんときにNakamuはまた小さく笑った。二人もいい歳をした大人だ、まさか解決策が浮かんでいないとは言うまい。ただ話を聞いてほしいだけなのだ。誰にだってそういうことはある。
「俺から謝りたくない、今回ばかりはスマイルから謝ってほしいんだ」
「うん。わかるよ」
「でもあいつが謝ってくるとは思えね〜……」
「ふは、それもわかる」
なかなかどうして、共通の友人同士が付き合うというのはこうもおもしろい。スマイルは今頃自分以外の誰かしらのメンバーに相談をしているかもしれないな、と思うとまたおもしろい。きりやん辺りだろうか。だとすればばっさり、はぁ?お前馬鹿だろとか言われて切り捨てられてそうだな。
「まぁ少し待ってみたら。たまには忍耐の時期もありますよ」
「そうですかねぇ。一体何年後になることやら」
数十分話し続け乾いた唇を潤すため、きんときは麦茶を口に含む。
「何年だったら待てる?」
「別に何年でも待つけど」
ここまで来て惚気かよ、と言いたくなる衝動を抑える。まぁいい、これも親友としての役目。長くなりそうだ、と胸中で思いながらNakamuはその爽やかな声に耳を傾けた。
▫︎ ▫︎ ▫︎
時刻は午前四時半。そろそろ帰るか、と座っていたブランコから腰を浮かせる。まさかずっと漕いでいたわけではないが、警察の巡回が来なくてよかった。見つかったら間違いなく職質コースだ。
いつからか寒さも感じなくなっていた。無性にお風呂に入りたいが、現状を鑑みるにやめた方が良いだろう。荷物だけとって、すぐに発つ。
自宅の扉の前に立ったとき、妙に緊張した。きんときが起きていたらどうしよう、と一瞬思って、まさかそんなことはない、と考え直した。音を立てないように扉を開け閉めして、フローリングに足を踏み入れた瞬間間鼻腔をくすぐるアルコールの香り。リビングに出るか迷って、やめた。本当に合わせる顔がないのだ。
きんときが何をしていようと、例え誰と会っていようと、今のスマイルは口を出せる立場ではないことくらい自覚していた。
昨夜のうちに荷物をまとめておいた自分を今ばかりは褒めたいと思った。シャツだけを替えて、またベストを着る。ネクタイを締め直すと、普段よりも首を絞められているような息苦しさを感じる気がした。
音を立てないようにスーツケースを玄関に搬出し、靴を履こうとして少し迷い、身を翻す。まだきんときが許してくれる余地があるのならば、それに縋っていたい。自室の机に立ったまま向かい、最近は専ら電子機器で完結するため使っていなかったメモ帳を取り出す。一枚を破って、ペンを手に取った。かち、と芯が出る微かな音ですらスマイルを緊張させた。
【本当にごめん】
真冬の寒さに晒され続けたせいか、はたまた何か別の理由か、震える手で何とかそうとだけ書いて、続きを悩んだ。言いたいことがたくさんある。謝らないといけないことがたくさんある。冷たい風に吹かれて頭の中を整理してきたつもりだったのに、どうやら全くもって思考はまとまっていなかったようだ。
悩みに悩み、これ以上書いても自分の性格上相手を逆上させるようなことしか書かないような気がして、やめた。リビングへと続く扉を開いて、きんときがいないことに安心してしまった自分が恥ずかしい。向き合わないといけないことに目を背けている。酒の缶やコップが片付けられないまま散乱しているダイニングテーブルの上に紙を置いて、せめてもの償いとしてそれらを片した。
「……いってきます」
返事があるわけはなく。スーツケースを引いて、スマイルはまた冷えた世界へと身を投じた。
▫︎ ▫︎ ▫︎
目が覚める。窓の外に目をやって、太陽がそこそこ高い位置に登っているのをしばらくぼんやり見つめていた。スマホの電源を入れれば、時刻は午前十時。寝過ぎた。というよりもNakamuと話すのが楽しくて、つい夜更かしをしてしまった。
覚束ない足取りでリビングに出て、ダイニングテーブルが片付いているのが見えて、目を見開いた。散乱していたはずのゴミの代わりに、小さなメモがひとつ。
【本当にごめん】
お世辞にも綺麗とは言えない文字。けれどきんときがその筆跡を見間違うはずがない。
「……馬鹿」
何も言わずに行くんじゃない。叩き起こせよ。というか何日間行くんだよ。何日帰ってこないんだよ。何日俺はお前の顔を見れないんだ?待っていたのに。おはようもう朝だよといつものように声をかけてくれるだけでよかった。別に謝罪がなくたってよかった。
お前は何もわかっちゃいないよ、スマイル。なんでそんなに頭でっかちかなぁ。
でもそんなところにも惹かれた自分がいるんだ。これが惚れた弱みというやつなのだろう。
▫︎ ▫︎ ▫︎
新幹線に乗り込んで、一眠りして、駅に着いたことを知らせるアナウンスで目が覚めたとき、酷く体がだるかった。あれだけ冬風に当たっていたのだから風邪も引くだろうとうまく回らない頭で思った。まぁいい。体調管理も仕事のうちだ、大体現場に着いていきなり風邪なので休みますなどというのは罷り通らない。
しっかりしろ、俺らしくない。
慣れない駅に若干迷いかけつつ電車を乗り換え、目的地に向かった。嫌に主張してくる頭痛と吐き気には気付かないふりをして。
▫︎ ▫︎ ▫︎
明らかに発熱している。熱い息を吐きながらビジネスホテルのチェックインを済ませる。事情を説明して体温計をもらった。時期が時期なのでインフルエンザを疑われたのだろう、マスクを渡された。
部屋に入り、インフルエンザだったら明日現場に行くのはまずいな、と思いつつ熱を測れば38度近い。これくらいならば少し休めば下がるか?いや、上がる可能性もある。解熱剤を押し込めば何とかなるだろうか、と思案していたとき、スマホが光る。仕事の連絡かと思い慌てて手に取るが、予想は裏切られた。
[俺もごめん。いつ帰ってくんの。今日電話できる?]
ぽろ、と、頬を暖かいものが伝った。なんだこれ。知らない、こんな感情は知らない。無理矢理目元を拭うが、それは袖を濡らすだけで止まってくれない。何も考えず、相変わらず震える手で通話ボタンを押した。ベッドに寝転び、スマホを胸元で握りしめてコール音が切り替わるのを待つ。
『スマイル、!!』
「き、とき、」
声が震えた。情けないくらい。大好きな声が、自分の名前を呼んだ。スマイルは嗚咽を噛み殺して体を折る。
『え、!?泣い、てる……?』
驚いたようなきんときの声。応えなきゃと思うのに、唇から漏れるのは浅い呼吸だけ。
「ごめ、きんとき、おれ、っ」
あやまらなきゃ。あれもこれも、嫌いって言ったことも。ずっと甘えててごめんって、無理を強いてごめんって、もう付き合わなくていいよって。ごめんね、って
「っひゅ、げほ、ッ」
空気が抜けるような音がして、もう喉は使いものにならない。しゃっくりあげるように空気を貪る。
「は、っぁ、ごめ、なさ」
『スマイル、落ち着いて。いいから、ゆっくり息しな』
は、は、と、息を吐く。こういうときどうするんだっけ。確か、息を吸えてないんだ。シーツを握りしめて、数分かけて呼吸を整えた。
『大丈夫、大丈夫。落ち着いて』
程よく低く優しい声がずっと囁いてくれて、焦燥感はなかった。
『びっくりした。電話かけてくれてありがとね。どうしたの?』
「……謝らなきゃ、って、おもって」
『もう謝ってくれたじゃん』
「あんなんじゃ、だめじゃん」
膝を抱く。昨夜感じていた寒さとはまた別の寒気がする。漠然と、これは熱が上がる方だな、と思う。
「ごめん。もう、いいよ」
『……何が?』
「おれに、付き合わなくて」
面倒くさいことを言っている自覚はあった。熱のせいだ。そう、熱に浮かされているんだ。けれどこれで頷かれたって構わない。もう、いい。愛する人を縛りたくはない。幸せになってほしいから、手放す。
それが愛だろう。
一日考えて出した結論。
『……俺があんなこと言ったせいだね。ごめんね、本当に』
「……ちがうよ」
『ううん。本当にごめん。思ってもないことを言った。……俺が愛してるのはスマイルだけだよ』
天井のライトが滲む。あぁもう、これも全部熱のせい。
「……おれも、」
あいしてる。
スマホの向こう側で、小さく彼が笑った気がした。
▫︎ ▫︎ ▫︎
「ぅえ、」
思わずスマホを落としかけた。突如背中に感じた体温。目を見開いたまま振り返れば、愛しい恋人が抱きついていて。
「スマイル〜!!おかえ……」
り、と言う前に、全体重がかけられて、危うく人が行き交う駅中、成人男性が二人して倒れるところだった。慌てて支えて、その体温の高さに驚いた。
「す、え、っおま、熱……!」
「……しぬ」
「えっ」
慌てて肩を貸し、キャリーケースを半ば奪い取るような形でスマイルの手から取り、駐車場に向かって歩き出す。
「ちょ、何事!?スマイル!?ねぇ、」
返事はないが、自分の足で歩けているところを見ると流石に誇張表現だったらしい。車に乗り込めばこうなった経緯をゆっくりと話してくれて、ひとまずはただの風邪らしいことに安堵の息を吐いた。
「一応病院寄って帰ろ」
「……ありがと」
車のエンジンをかけ、少し待つ間。息苦しかったのだろう、マスクを外した彼に口付けをしようとした。
「……だめ」
「なんで」
「移すから」
「いいよ」
「は、……ッ、ん……」
口元を覆ったスマイルの手を取り上げ、強引に唇を奪った。そのまま舌を絡め、互いの唾液を交換する。
「ん、っふ……ぁ、」
スマイルがこくりと細い喉を鳴らして唾液を飲み込んだのを見て、我慢ならなかった。彼の頭を固定するように指を這わせて、さらに深く舌を入れ込んだ。
▫︎ ▫︎ ▫︎
▫︎ ▫︎
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いつもキスさせてオチをつけている気がする、パターン増やします、すいません。今回限りで締めにキスは使わないことを誓います🐟