涼ちゃんが死んでから若井がおかしくなった。
楽屋で誰かと喋っているかと思ったら、涼ちゃんの写真と喋っている。
精神科に行っても回復しない。幻聴が聞こえるらしい。若井にとって涼ちゃんは生きているものらしい。
「若井帰るよ。」
「元貴先行ってて!涼ちゃんと帰るから!」
「っ……。」
涼ちゃんは居ないんだよ。そう言いたいけれど言ってしまったら君が君じゃなくなってしまいそうで言えない。
お葬式の日。若井は泣きじゃくっていた。その時からだ、若井がおかしくなったのは。
僕だって涼ちゃんと話せるなら話したい。
僕らは活動休止をした。涼ちゃんが死んだことを公開していない。ファンの人達は、いきなりの発表で混乱している。活動開始をして欲しいなどの沢山のコメントがあった。
でもそれを叶えられることは出来ない。
風磨との性行為などで心を沈めていたが、なかなか満たされない。
「りょぉちゃん!それでさぁ……笑」
毎日のように居ないはずの涼ちゃんと話している。本当に君がいるのではないかとたまに考えてしまう。
でも、おかしくなったのは僕だ。
涼ちゃんが死んで冷静になっていて、リセットされたような気持ちになっていた。たかがメンバーが死んだだけ。そう思うのは僕がおかしくなったから。僕は涙を流さなかった。ただ単に嗚咽が出るだけ。歌を歌えば汚い声が出て、君を思えば走馬灯のように思い出が流れてくる。
僕は愛されたかったんだ。もちろん恋人の風磨は愛してるし、愛されているという自覚はある。でも、その愛されると言うものでは無い。ただ単に涼ちゃんから愛されたかった。恋愛対象という訳では無いけど、涼ちゃんが大好きだった。
僕にしか見せない弱さや涙。
一輪の花のようの笑顔。
周りに花が散りばめられているような性格。
全てが大好きだった。涼ちゃんを失った。それだけで僕たちは壊れてしまったんだ。
「涼ちゃん!今日暇ー?」
「……若井。いい加減にしろ。」
「なに?いきなり。笑」
「涼ちゃんはもういな……」
「それ以上言わないで!」
「目を覚ましてよ若井!」
「う……さぃ、うるさいうるさいうるさい!」
僕は無意識に若井を抱きしめていた。薄々気づいていたんだろう。でもそれが認められなかったのだろう。
「涼ちゃんは……い”るもん……」
「もう死んだんだよ……」
「りょ……ちゃんはぁいる”んだよぉ……ゔっい”るから”ぁりょお”ぢゃん……あ”ぁぁ。」
沢山泣いていいんだよ。若井。
僕は若井を強く抱きしめた。
「若井……最後にさ、涼ちゃんが死んだことファンに明かさない?」
「……。そうする。」
鍵垢にしていたアカウントを戻し、ライブ配信を始める。始まってすぐはあまり来なかった。でも10分位すると100万人以上の人が、集まった。
“え?なになに!”
“てか誰も写ってないじゃん”
“なんか曲流れ出した!”
『夜が来ると不安になってさ
朝が来ると忘れちゃって
所詮僕の悩みなんかは
日の光で助かるんだもん
案外いつも答えってやつは
いつも近くに隠れててさ
怖いなら叫べばいい
何も恐れることはないよ
信じれないなら信じなきゃいい
空が晴れるのを待てばいい』
デビュー前の曲。キーボードとギターとマイクを三角形に並べ、ギターだけの曲だけど若井とかにアレンジしてもらった。
『流れる汗はいつか
こぼれる涙はいつか
あふれる笑顔はいつか
大事な大事なものになるよ
大事な大事なものになるよ
支えては支えられて
傷つけ傷つけられて
忘れては忘れられて
思っては思われてさ
本当にバカバカしいね
でも嬉しく思うよ
まだまだ捨てたもんじゃないってね』
突然キーボードの音が重なり始める
ピアノがなっている。
「涼ちゃん来てくれたの?」
幻聴じゃない。キーボードの鍵盤が動いていた。
アレンジされた音。
気づかずうちに頬が湿る
『愛しては愛されてさ
求めては求まれてさ
疎んでは疎まれてさ
分かれず分かられずに
恋をして剥ぐ魔まれては
生きてる慶びとなり
信じて信じられたら
生きゆく慶びとなる
いくつもの慶びの種が
花を咲かせ空を晴らすの』
『本当は滉斗僕のこと好きだったんだね……ごめんねあの時喧嘩しちゃって。滉斗、元貴愛してるよ元気でね!ばいばい!』
「っ……!」
《ばいばいっ!》
その後涼ちゃんが死んだこと。などたくさんのことを話した。
“でもさっき涼ちゃんいなかった?”
“いたよね!”
やっぱり居たんだね。涼ちゃん。
「ジャムズのみんな。無期限活動休止にさせていただきます。本当にいままでありがとう!」
「出すはずだった曲や公開しなかった曲は僕のアカウントから見てください。」
「僕たちは本当に幸せでした。」
「僕はもう生きてけないや……」
インライが終わったあとボソリと若井がつぶやく。その言葉一番言って欲しくなかった。
「ねぇ元貴。一緒に死なない?」
驚いたことにその提案が僕にしっくり来た。
「若井がするなら僕もする。」
「そっかあ。」
「死に方は?」
「飛び降りるより海で溺れて死にたいなぁ」
「崖から落ちるとかは?」
「いいねそれ。それにしよう。」
思ったより早く死ねるのかな笑
ザバァ
「雨すごいね。やっぱりこの日でよかった。」
僕らは一番見つかりずらい雨の日を選んだ
「手を繋いで死のう?」
ふわぁ
『元貴。滉斗。』
「涼ちゃん。ごめんねもう無理だ。」
『そっか。』
「涼ちゃんもほら」
『手?』
「うん。」
『もう死んでるのに。笑』
「せーのっ」
END