それに、ずっと長い間想い合ってたあんこさんと東堂社長。
慧君を大好きだった果穂ちゃんも……
本当にみんな若かったな。
そう言えば、前田さん。
彼はものすごく努力して、祐誠さんに認められて、第3秘書から第1秘書にまでなった。
パンのイベントの時に告白されて付き合った京都の幼なじみと結婚して、今は高校生の娘さんがいる。
きっと、いつも真剣に子どもと向き合うような真面目なパパなんだろうな。
ご実家のご両親もお元気で、茶葉販売もずっと続けているそうだ。
おかげで、うちの家では「前田さんちのロイヤルミルクティー」がいつでも飲める。
あんこさんの店でも相変わらず好評らしいし。
あんこさんとはついこの間も連絡を取り合ったけど、店も東堂社長との仲も順調だって、照れながら言ってた。
北海道での『杏』は、地元の大納言あずきを使ったあんパンが1番人気らしい。
新鮮なバターたっぷりのクロワッサンも良く売れるんだって。
東堂社長の小麦粉と、社長のお兄さんのバターや牛乳、それにあんこさんの腕があれば、間違いなく最強のパンが誕生する。
考えたら食べたくなってきた。
たまにどうしようもなく食べたくなるんだよね、あんこさんの美味しいパン。
それから……
慧君は、まだ独身らしい。
最近もずいぶん年下の『杏』のお客さんと、すごく綺麗な東堂製粉所で働く28歳の女性2人から告白されたらしいけど、どっちもすぐに断ったって。
慧君、すごくモテるのにもったいないよ。
1人がラクだなんてあの時は言ってたけど、本当に独身を貫くつもりなのかな?
もちろん、幸せの形は人それぞれ、私がどうこういうことじゃない。
慧君が、自分は幸せだって笑顔で言ってたこと、今はそれを信じたいって思う。
目を閉じると、みんなの懐かしい笑顔が浮かぶ。
希良君と果穂ちゃんはどうしてるのかな?
きっと、どこか遠い空の下、毎日笑顔で元気にしてるよね。
いつか、2人にも会いたいな……
正孝は食事を終え、少し仕事があるからと早めに部屋に戻った。
それからしばらくして祐誠さんが帰ってきた。
「今日は鯛を頂いたのよ」
「また送ってくれたんだ。父さんも正孝が可愛くて仕方ないからな」
祐誠さんのジャケットを預かり、ハンガーにかける。
「お義父さんは、祐誠さんのことも心配してらっしゃるのよ」
「もちろん雫のことも……ね」
そう言って、頬に優しくキスをした。
「うん、有難いよ、本当に。感謝しなきゃね」
祐誠さんに温かいお茶を出す。
「ありがとう。悪いけど、今日は鯛茶漬けにしてくれないか? 昼が少し重かったから」
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