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「あぁぁぁっ!! グルート様っっ!」
「な、何だありゃあ……? あれがグルートだと!?」
動きを封じられているエドラとテミドの二人は、勇者グルートの変化に理解しきれず驚きの声を上げている。動揺からか、彼らの殺気がおれから消え失せている。
グルートの姿はまるで図体の大きいオークのよう。通常のオークはせいぜい人間よりもやや大きいだけの存在だ。脅威と感じるものではないが、目の前にいるグルートオークは天井にぶつかるほどの大きさにまでなっている。
「あの者は、魔獣変化スキルを使ったのですね?」
「多分……」
「――恐らくですが、アック様から強引に奪ったことによってスキルの悪い部分を吸い取ったのでは?」
「悪い部分?」
「ええ、そうです。アック様のガチャスキルには負の流れがあったのです。覚えがありませんか?」
あまりに運が悪かったが、もしかしてそのことだろうか。
「いいアイテムが出なかったのって……?」
「はい。その流れのまま、本来スキルを持たない者が強引にガチャを使用した。その反動が邪悪な力を引き寄せたのです」
勇者の仲間になる前後、役立つものが全く出なかった。その流れでガチャをしたとすれば納得出来る。
「お、おいっ! グルート!! 目ぇ覚ませ! 俺だ、テミドだ!!」
「グルート様はおっしゃって下さいましたわ! わたくしたちの光となって下さると! どうかお鎮まりになって、今一度わたくしのおそばに……!」
エドラとテミドは、グルートオークに対し必死になって説得の声を呼び掛けている。しかし図体が大きくなり理性も失われたことで、声が全く届いていない。
「ガアアアアア……!!」
それどころか彼らを邪魔者と見たのか、突然暴れだす。
「キャアァァァッ!! お、おやめになってくだ――」
「ひ、ひぃっ!? た、助けてくれぇっっ!! お、俺はまだ、こんな半端なところで――」
見るもみじめな姿とはこのことか。おれに散々偉ぶっていた賢者テミドだったがあそこまで弱い部分を見せるとは。今まで痛い目に遭ったことが無いんだろうな。あろうことかテミドはおれを見つけ、泣きながら近付いて来た。
「――何の真似なんだ?」
「ひぃっ、ひぃぃ!! お、お願いします! 俺を、俺を!! あの化け物からお救い下さいっっ! このとおり、何でもしますっ! しますから!!」
まさか足にしがみついてくるとは。
「……面倒みきれないし、もう遅い。それに賢者というのが本物なら自分の防御魔法で何とかするべきだと思うが?」
自分より強い奴、それこそ勇者に対してテミド自身はどう思っていたのか。しかし荷物持ちの人間に取ってきた行動の報いが今になって返ってくるとは、奴自身は思ってもみなかったに違いない。
この男にはもはや擁護も保護もする必要は無い。
「ち、ちきしょう!! く、くそぉぉ――! なめやがって!! 物理防御魔法、プ――ぐげっ!?」
オークとなったグルートは凄まじい怪力で見境なく暴れている。テミドが防御系魔法をかけようとしたが、すぐに吹き飛ばして壁に激突させていた。
最初に駆け寄ったエドラは瀕死状態。どうやらSランクパーティーは、破滅と壊滅に向かっているらしい。
もはや言葉も通じそうにないが、この戦いもそろそろ終わらせることにする。グルートの死に際には一瞬でも人間としての謝罪が聞けるといいが。
「バヴァル・リブレイ! おれは今から限定召喚を使う。その術《すべ》を知っているのなら見せてくれ!」
エドラの近くに立っていたバヴァルに対し、限定召喚の見本を示すように声を張り上げた。彼女もまた、その場で声を張り上げ、見えるように動きを表した。
「限定召喚の書で魔石を包むのです! それを手の平に乗せ、すぐにガチャを!」
「分かった!」