グルートの変化を見て一瞬思ってしまったが、もし自分が魔獣変化を使っていたらどうなっていたのだろうか?
そう考えてしまいそうになるが、今は限定召喚をすることが最優先だ。
レアガチャで出した限定召喚の書を魔石に。何故それが条件なのかと疑いたくなるが、おれは魔石を紙に包んだまま地面に放り投げた。
「…………ん?」
グルートオークが気付いていない状態でガチャをしてみたが特に何も起きない。バヴァルもおかしいと感じたのか、首を傾げたままだ。
「ギョアアォオオゴオオッ……!! アックウゥゥ――!」
どうすればいいのか分からず立ち尽くしていたが、オークがこちらに気付き呻きだす。
「もしかして今おれの名前を叫んだのか? まさか理性を取り戻したんじゃ……」
図体を大きくしたグルートオークはオークそのものとなり、無駄な動きをしている。だがおれの名前を叫び出すようになってからは、目つきが変わったよう。どうやらおれを認識し確実に気付いたようだ。
まさか限定召喚ガチャが何も起こらない状態のままで気付かれるとは。
「ちっぽけな雑魚めぇぇぇ……!! ぐぅぅぉぉおおおお」
これはまずい。隠れる所はワイバーンで殺されかけた時よりはありそうだが、横穴のような場所はとてもじゃないが探す暇は無い。こうなれば召喚に頼らずに魔法を撃つしかなさそう。
フィーサがルティたちのところにいるとなれば、覚えたての強力魔法で倒すしかない。
「でぇいやああああ!!」
やけに甲高い声が響いてきたと思ったら、ルティだった。
「――ゴガァッ!?」
予想どおり、拳一つでグルートオークを殴りつけている。しかし早くも泣き言を言い出した。
「むむぅぅ? アックさん、感触は確かなんですけど倒れてくれません~!」
ルティの殴り攻撃はグルートオークの動きを止めるくらい激しかった。それなのに倒れる気配が無いということは、拳が軽いかオークが硬いかのどちらかだろう。
勇者だった時の強さと防御が付与されているとすれば通常攻撃だけでは不十分だ。
「うるさい雑魚が! 邪魔をするなっ!!」
「わわわわわっ――!?」
奴のでかい手はルティを払いのけて、そのまま壁に衝突させていた。それでもルティは何事も無かったようにおれに声を張り上げる。
「はわぁ~! びっくりしました~! わたしは何ともありませんので、後はアックさんにお願いします!」
あの娘《こ》は一体どれだけ頑丈なのだろう。お願いされても困るが、こうなればバヴァルと同時に魔法攻撃を仕掛けるべきか。
「ガーハハハハ!! 踏みつぶしてやる! アック、死ねぇぇぇぇ……!!」
バヴァルのことを気にする余裕は無く、グルートは容赦なく襲い掛かってくる。だが力がついたおかげで、グルートが踏み付ける足を押さえつけることが出来た。
「アック、貴様ぁぁぁぁ!!」
「――ん?」
「くそぉっ!! 知らない間に何か呼んでいやがったな!?」
グルートのでかい足を押さえつけているのでよく見えないが、薄暗い壁から見える影がある。よくよく見ると、その姿はドラゴンのようだ。
三体ほどいるようだが、まさか――
「なれが盗み、滅されの存在か?」
「盗んだだぁ? 使えもしないゴミスキルが盗んだうちに入るのか、そこの雑魚に聞いてみたらどうだ、化け物め!!」
グルートのでかい足が離れたところで、おれの眼前には三体の竜が顔をのぞかせた。おれの命令でも待っているのかジッと待っているようだ。
命令を下そう――そう思った瞬間、おれの手の平に魔法文字が浮かぶ。浮かんだ魔法文字は、【ファフニール】【ジルニトラ】【バクナウ】という竜の名前だった。
命令ではなく奴はおれ自身の手でグルートを――そう思っていたら、一瞬で竜に宿ったような感覚を覚えた。
「勇者グルート、聖女エドラ、賢者テミド……お前たちの存在を、灰と化す!!」
「ハハハッ!! 何を言うかと思えば、雑魚な竜の力を借りた荷物持ちが僕を消す? 役立たずのエドラとテミドなら簡単だったろうが……死ぬのはてめえだ!! 死ねっっ!!」
自分でも不思議な感じだった。三体の竜のどれでもないが、確かに竜になった気分でグルートの姿がはっきりと見えている。そして、おれは襲い掛かってくるグルートに向けて、口を大きく開いた。
喉の奥――いや、体の奥底から燃え盛る炎を吐き出していた。
「――!? や、やめっっ! 嫌だぁぁぁぁっっっ!! うあ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ――」
こうなるとたとえ図体を大きくしたオークでも、爆炎をまともに受けた以上どうにもならない。みるみるうちにグルートオークはその姿を保てず、そのまま炎に巻かれる。
そして瀕死となっていたはずのエドラ、テミドは隙を見て逃げ出そうとしていたが――。
「ひ、ひぃっっ!? わ、わたくしを助けて頂ければ、この身はあなた様の――」
「か、勘弁してくださいぃぃ……!! お、俺はグルートに言われただけで、俺は何も!」
命乞いをしながらもどうにか助かろうとしているようだが、なおさらこいつらをグルートのそばに行かせてやることにする。
「やめて、殺さないでくださ――あっあぁぁぁぁ!!」
「い、嫌ですわ、いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
竜の突風により、エドラとテミドもグルート同様に炎の中心に吹き飛んだ。
気付くと三体いた竜はすでになく、おれは未だ消えることのない炎の柱の前で一人で立っていた。そんなおれの元に、近くにいたバヴァルが駆け寄ってくる。
「盗みへの罰を科した。そういうことでしょう」
「あの竜たちが?」
「ええ。そしてその答えは、もうすぐアック様の手元に届きます」
「答え?」
しばらく炎を眺めていたが、ようやく全てを焼き尽くし炎は消えた。灰と化せば、嫌な姿を見ることは無いだろう。
「アック様。彼らは全て一枚の魔石と化しました。どうされますか?」
「……魔石!?」
Sランクパーティーである彼らは確かに消滅した。しかし意外な形となって、俺の元に届いた。
魔石となれば使い道はありそうだが、おれはどうするべきだろうか?
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