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#お仕事
#秘密
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祖母は、ご近所では名の知れた呪い師だった。
魚屋も八百屋も、何か得体の知れない事態に陥ると、決まって祖母の名を口にした。彼女の「悪霊退散」の儀式は鮮やかで、どんな魔物も祖母の前に引きずり出されれば、影のように消え去るという。
けれど、その儀式の様子を見た者はいない。祖母はまじないを始める前、必ず人払いをするからだ。
美月が祖母の古い家に弟子入りしたのは、梅雨入りが宣言された六月のことだった。半ば家出に近い形で、祖母の家に転がり込んだのだ。
母の由紀子は、祖母の営みをひどく忌み嫌っていた。
「見えないものをいじって、人をまじなうなんて、魂の形を歪めるだけよ」
それが母の口癖だった。
けれど美月は、母の言葉の奥に潜む、もっと根源的な震えに気づいていた。母が恐れていたのは呪術そのものではない。この世界に確実に存在する、説明のつかない不条理な「恐怖」そのものだったのだ。
「怖いものは、見ないふりをしていれば、いつか透明になって消えるの」
幼い頃、母はそう言って美月の目を覆った。
祖母は正反対のことを言った。
「怖いものは、じっと凝視しなさい。その輪郭をなぞり、掌で握りしめ、自分だけの武器に作り変えるんだよ」
その夜、美月は家を出た。恐怖に目を逸らし続けるより、その質量を確かめる側に立ちたいと願ったからだ。
祖母の家の炬燵の中で、美月は指を一本ずつ揉みほぐした。指先には微かな湿り気が滲んでいる。
「本当に、後悔はしないんだね?」
祖母の声は、古い蓄音機の針が溝をなぞるような響きだった。
「はい。まじないで誰かの助けになれるなら、本望です」
「生意気を言うようになったね」
にやりと笑う祖母の顔は、深い皺を刻みながらも、どこか生まれたての乳児のような無邪気さを湛えていた。
その日の夕刻、最初の「仕事」がやってきた。
「前田さんからの依頼だよ。憑き物だ」
美月は仏間へ通された。仏壇という名の黒い箱以外、何一つ置かれていない。音さえ吸い込まれるような静寂。窓は閉ざされているのに、畳の隙間から冷たい呼気が立ち上るようだった。
「美月、お前はあそこの隅で気配を殺して見ていなさい。今から見せるのは一子相伝の技だからね」
祖母は座布団も敷かず、畳の上に直接、標本を置くように座った。懐から取り出したのは古ぼけた熨斗袋。その中から一本の黒い髪の束を慎重につまみ上げる。
「これは前田さんの髪の毛だ。呪いを解くには、その呪いを移すための依り代が必要なんだよ」
その瞬間、床の底が数ミリ沈んだような錯覚に襲われた。髪の毛が意志を持つかのように、指先でかすかに身悶えする。
祖母は瞼を閉じ――次の瞬間、音もなく仰向けに転がった。