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ゆらり──
闇の底に、静かに火が灯る。
その炎は
太陽にも似た熱を孕んでいながら
ひとつとして温もりを宿してはいなかった。
人を照らすためでも
身を温めるためでもない。
ただ
全てを焼き尽くすためだけに在る──
炎の色は赤でも橙でもなく
どこか鈍く、黒を帯びた金。
まるで血と灰を
混ぜて溶かしたようなその色が
じわじわと周囲の空気を侵し
喉奥に焦げた鉄の味を滲ませる。
熱に歪む空間の中心
その揺らぎの中から──
嘲笑ともとれる音が、低く滲み出る。
【⋯⋯クク⋯⋯クカカ⋯⋯】
滑るように響くその声は
音というより〝感覚〟だった。
脳の奥
眠っていた恐怖を揺り起こすような
不快な響き。
生きとし生けるものが
〝本能〟で嫌悪する〝何か〟だった。
【⋯⋯今世は──
無事に、産まれたか⋯⋯】
声に、意味が宿る。
それは誰に語りかけるでもない。
ただ、この世界の因果そのものに──
焔の内より〝存在〟が呟いた。
【あの魔女の⋯⋯微かな気配がする⋯⋯】
不死鳥は、笑った。
それは高らかではなく
音楽のようでも、狂気のようでもない。
ただひたすらに──〝愉悦〟
絶望の中で足掻く魂の重み
死と生の狭間で震える命の儚さ
それらすべてを
美酒のように啜る嗜虐の笑み。
【⋯⋯愛など⋯⋯希望など⋯⋯
何度繰り返そうとも
その愚かなる願いが
いずれ我が翼の下に堕ちてゆく様こそ──
この炎にとって最も甘美な〝哂い〟なのだ】
夜の帳が落ちても
この焔だけは、決して消えない。
それは光に非ず。
救いではなく、赦しでもなく──
ただ世界を蝕むために在る
〝神の形をした災厄〟
鈍く揺れるその火の中で
不死鳥は、なおも嗤い続けていた。