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このアパート、変人だらけ!

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このアパート、変人だらけ!

52 - 第52話 最後の刺客・根田太郎登場~不毛アパート全員集合!

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2024年02月22日

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「歯ァ痛いし、怖いし、嫌や! こんな未開のエリアなんて行きたくないわ」


「弱音を吐かないでください、リカさん」


「そうじゃ。リカ殿らしくないぞよ」


……2人に叱咤激励された。

腑に落ちん。


そもそもカメさんが1人では怖いなんて弱音吐くからこんな事態になってんねん。

マフィアみたいな図体して何言ってんねん。


未開エリア──そう、オールドストーリーJ館最後の秘境、1─2号室前にアタシらは来ていた。

この部屋の住人は見たことがない。

アパート中が変人不毛ワールドで大騒ぎしていても、どこ吹く風と泰然としているような印象だ。

アタシからすれば、謎でいっぱいの部屋や。とにかく怖い。


関わりたくないというアタシに向かって、カメさんが言い張るのだ。

掃除をしたくて仕方ない。

それが無理でも、せめて現状を把握しておきたいのだと。


それなら一人でやってと言うと、信じられないことにアタシの首根っこをガッとつかむ。

恐るべきパワーで。


ちょうど帰ってきた桃太郎も道連れに、アタシらは1─2へと引きずってこられたところだ。


「グォーッ、ググーーーッ!」


地面を揺るがす勢いでかぐやちゃんの腹が鳴っている。

もうイヤや。


「何や、この環境。何や、この人たち。ありえへん。ああ、頭痛い。て言うか歯ァ痛い」


ブツブツ言ってると、ちょっと待たれよと桃太郎が人差し指でメガネを押し上げる。


「これは……? これはかぐや殿の腹の鳴る音ではないぞよ」


「じゃあ何や? 屁か? アンタの屁なんか?」


相当、投げやり気分なアタシ。

たしなめるようなカメさんの視線に応える気も失せた。

そんな中、桃太郎は1─2のドアを凝視してる。


「まさか? ま、まさか……!」


轟音はこの扉の向こうから聞こえていたのだ。

腹の鳴る音ではないと気付いた瞬間、背筋に冷たいものが走る。


「何や何や、猛獣でもいるんか?」


アタシら3人はピタと寄り添った。

正確には桃太郎とカメさんがアタシにしがみ付いたのだ。


「なぁ、入るのやめような?」


今更ながらの提案。

何せこの隣り《1─3》は噂のある幽霊部屋や。

本当に怖いモノは実はこっちに住んでいた、なんてオチもあるかもしれん。

一歩、足を踏み入れたらみんな死んじゃう究極のホラーハウスかもしれん。


「怖いって。何や、このスリラー展開は。怖い目に合ったあげく、幽霊に取り殺されるなんて理不尽や! それやったらアタシは歯医者に行くほうがマシや」


君子、危うきに近寄らず──そんなことわざを思い出した。

そう、今がまさにその状態や。


「……でも、気になるよな」


ああ、アカン!

変な好奇心を出すな、アタシ。身を滅ぼすで。


「ちょっと覗いてみるだけ。中には入らへん。せめて、この音の正体だけでも……」


アタシの右手は自然に動き、ゆっくりノブを回していた。

このアパートでは無用心なことにみんな鍵を掛けていない。

ドアの隙間から、轟音はますます轟いた。


中は真っ暗。

玄関から差し込む明かりを頼りに、アタシらはコソコソと中に入って行った。


「誰かおるっ!」


桃太郎がアタシの腕をつかんだ。

止める間もなくカメさんが部屋の電気をつける。

白熱灯の下、浮かび上がる光景。


「グーッ! ググーッ!」


8畳の板間の真ん中に大きなフトンが敷かれている。

家具は何もない。フトンのみ。フトンオンリー。

その中央にこんもりとした膨らみが。

音はそこから聞こえていた。


「あのぅ?」


人がそこに横たわっているのは分かった。


「こ、この音はイビキのようじゃな」


桃太郎、怯えた様子でフトンを見やる。


「そう言えば、大家さんが言っていました。この部屋に住んでいるのは三年寝太郎さん──根田(ねった)太郎さんだと」


根田太郎……ねったたろう……ねったろう……ねたろう……寝太郎?


「また太郎さんか! このアパート、太郎さん多いな」


あらためてツッこむ。

男7人中3人が太郎やで?


「しーっ! リカ殿、静かに」


桃太郎が口に指を当てるも、アタシは急にどうでも良くなってきた。

ひそめていた声のトーンを戻す。

急に怖さが失せたのだ。


「大丈夫。この人、ガン寝や。絶対に目ぇ覚まさへんわ。ホラ、見てみ。寝てる人の鼻チョウチンなんてアタシ、初めて見るで」


グースカ寝ている根田さん。

呼吸のたびに片鼻からプクーッとチョウチン出ている。


「ヒッキーで3年間この部屋にこもってるって人やな。だからこんな時間でも寝てるんや。食事とか家賃はどうしてはるんやろ。謎、多すぎやな」


「元国際警察(インターポール)の敏腕捜査官だったけれど、ある事件で恋人を殺され引退──天才探偵として日本警察と契約を結び、迷宮入り事件のみを取り扱うようになったのでは? 彼の天才っぷりには一定の周期があり、3年活動しては3年寝て。その繰り返しで、今は休眠期に入っているのではないでしょうか」


カメさんがおかしなことを言い出した。

何やソレ。この人、どこまでドリーマーなんや。


「何や、その設定は。それだけで1本、マトモな(?)小説でっちあげられるで。むしろそっちやで? なぁ! むしろそっちやろ!?」


「は、はぁ……むしろそっちとはどういう?」


「い、いや、こっちの話や」


困った人やと思いながら、アタシは根田さんのフトンをかけなおした。

何があったか知らんけど、3年の眠りって一体どういうもんやろな、なんて考えながら。


その時だ。


一瞬、目を開けた根田さん。

アタシとガチッと視線が合った。


「…………! ね、根田さん、今すこし微笑んだ……」


腰を抜かしてその場にヘナヘナとへたり込んだアタシを、桃太郎が支えてくれる──いや、支えようとして一緒に転んだ。


「あ痛ァ! リ、リカ殿? 何を申しておる? 根田殿はずっと眠っておいでじゃ」


「え?」


アタシたちの後ろでカメさんが呻き声をあげる。


「きゅ、急に眠気が……」


突然にその場に倒れこむ。


「亀殿、しっかり……ムニャ」


間髪入れず桃太郎もコテンと寝てしまう。


正体不明の攻撃を喰らったわけじゃない。

みんな気持ちよくなっただけや。

なにせ根田さん、スヤスヤと気持ち良さそうに眠ってる。

見ているうちにアタシもボーッと暖かくなって瞼が落ちてきた。


「グゥ」


安らかな気持ち。

ああ、こんな深い眠りは初めてだ。


気づいた時、そこに根田さんの姿はなかった。

アタシら3人は無人の1─2号室で、寄り添って眠りこけていたのだ。

3人ともヨダレまみれだ。


外はもう暗い。

アタシらは呆然と顔を見合わせた。


なぜだかとても満ち足りた気分。

かぐやちゃんへの復讐心も、歯医者への恐怖もスッと消えていた。


アタシは悟りを開いたのだ。


「すべて空しい。しかし全て素晴らしい。人の世は儚く一瞬だ。でもアタシにとっては、それが永遠なんや」


「な、何を言っておるのじゃ?」


「見える。光が…」


「そ、そちは何を言っておるのか?」


桃太郎、ドン引きでこっち見てる。



「35.不毛遠征計画~それは波乱の予感」につづく

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