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「月下獣 半人半虎!」
「羅生門 天魔顎!」
お互いの技が目の前の敵を討ち滅ぼさんと襲いかかる。
芥川の羅生門が噛みつこうとするのを、ギリギリで躱す。
躱しきれなかった羅生門が手脚に生傷を創っていく。
左手に羅生門が絡みつき、噛みつかれる。
痛みに耐えながらも活路を見出す。
「芥川ぁ!」
手に力を入れ、芥川の防御を崩さんと振りかぶろうとした。
ドサリ
芥川に目掛けて放った拳が宙を切る。
なにが起こったのか、把握する為に一瞬止まってしまった
足元には大量の汗と呼吸の浅い芥川が地面に倒れていた。
「えーっと・・・」
どうしてしまったんだろうか。
先ほどまで互いに死力を尽くして戦闘をしていたというのに、
今は足元に倒れている芥川を見て、僕は手を止めてしまっていた。
「芥川!?大丈夫か?」
僕の呼びかけでも反応しない芥川。
顔や足を突付いても反応しない芥川。
「流石にこの状態の芥川を放置は出来ないし、太宰さんかポートマフィアの人を探そう!」
そう決意すると、異能力:月下獣を解除し、芥川を両手に抱え、街中へと進む。
未だ左手に絡みつかれた羅生門に気付かずに・・・
「やぁやぁ敦クン!こんなところで会うとは奇遇だねぇ」
「太宰さん」
眼の前の太宰さんは僕の大先輩だが、時折こうしておかしな行動に出る。
「今回はどうして足を縛られ宙吊りに?」
「いやー首を釣ろうとしたら、足を滑らせてね~。ところで敦クン、これ解いてくれない?そろそろ頭に血が溜まってきて、ヤバいのだよ・・・!」
「は、はい!」
「それで、敦クン、なぜ芥川君を抱えているんだい?」
「それが、僕との戦闘中に急に倒れてしまって。流石にこの状態で放置も出来ないし、とりあえず安全な場所まで運んでおこうと思いまして。」
「ふ~~~ん?」
眼の前の大先輩は時折こうして意地悪そうなニヤケ顔をしてくる。
こういうときは大体ろくでもない目にしかあっていない気がするが、多分気の所為だと信じている。信じたい。
パシャリ
そしてなぜか携帯で写真を撮られた。
「とりあえず銀ちゃんの連絡先は知っているから、連絡してみるよ。」
「ありがとうございます!」
「それじゃあ頑張ってねぇ~!」
そういって太宰さんはそそくさと行ってしまった。
「頑張ってねって何を頑張るんだろう・・・?」
僕はその時芥川の容態と早く開放されたい気持ちでなにも気付いていなかった。
端から見れば、大事そうに芥川を『お姫様抱っこ』と呼ばれる状態で抱えていることに。
「とりあえずこちらにどうぞ」
「ありがとうございます、銀さん」
先日驚きの事実を知ることになった芥川の妹である銀さんに芥川を安静できる建物への案内をしてもらった。
「こちらはポートマフィアが所有する隠れ家の一つですが、今回使用後破棄するそうです。私はこのあと所用で当分の間出ていかなければいけない為、諸々お願いいたします。」
「僕も芥川を寝かせたらすぐに出ていきますので。」
そういって芥川をベッドに降ろす。
ふと、未だ左手に繋がった羅生門が残っていることに気付く。
しかし、どんなに頑張っても千切ることは出来なかった。
むしろ徐々に芥川との距離は近付いていっていた。
片手では千切れなかった為、両手を使えば千切ることも出来たかもしれないが、倒れている芥川の事が心配になり、それも出来ないで居た。
「このままだと芥川と繋がったままだし、芥川が起きたら解除してもらえれば大丈夫かな・・・?」
芥川が起きるまでの辛抱と思い、ベッドの傍の床に寝転がる。
先ほどまでの戦闘で体力と精神を使っていた為、すぐさま睡魔が襲ってくる。
そして、とうとう瞼が落ちた。
「起きろ、人虎」
その声で僕は目覚めた。
「大丈夫か、芥川?」
「やつがれの身を案じ、ポートマフィアのセーフハウスへとのこのこ1人でやってくるような愚鈍な貴様によもや助けられようとはな。」
いちいち一言多いのが気に障るが、こちらも早く開放してもらいたい一心で話しかける。
「そんな事はいいから、この左手に絡まっているのを外してくれないか?」
「・・・。」
「おーい、芥川~?」
「・・・。」
「聞こえてないのか?おーい、芥川~!」
「聞こえている。」
「じゃあ、早く外してくれないか?」
「・・・せぬ。」
「え?なんだって?」
「外せぬ。」
「え」
「何が起きたか分からんが、やつがれの異能力が制御できん。」
「じゃあ、この絡みついたのはどうするっていうんだ!」
「あと1~2日すれば、やつがれの体調も戻る。そうすれば制御できるようになるだろう。」
「ということは・・・。」
「であれば銀を呼べ。」
「当分の間所用で居ないって。」
「他の者にも連絡しろ。」
「それがさっきから全員不在通知になっていて。」
「ポートマフィア側も連絡が取れん。」
「・・・。ここって食料なんかはあるのか?」
「いや、ここは一時避難としての機能しかない。故に食料などは置いてはいない。」
「それじゃあせめて買い出しにいかないとか・・・。」
「人虎貴様、よもやこの状態で外に出ようなどという世迷言を口にするのか?」
「でも、1日~2日でも何も食べずに過ごして体調が戻るとも思えない。それよりも多少栄養のあるものを食べて早く直してもらって開放してくれたほうがいいと思うんだけど。」
「・・・。」
「芥川ー?」
「・・・ちっ。早く済ませるぞ人虎」
「おい、待てって!引っ張るなって!」
そうして芥川との買い物に出かけることになってしまった。
なってしまったからにはしょうがないと開き直り、自分の料理レパートリーを考えつつ、芥川に引っ張られていくのであった。
ただ、左手に絡みついた羅生門が徐々に芥川との距離を狭めている事に気付かずに・・・。
街中を歩く。
芥川はそっぽを向いているが、僕の左手と芥川の右手が徐々に触れ合っていく距離まで近付いていた。
「人虎、離れろ。」
「それは僕のセリフなんだけど・・・。」
芥川の右手と触れてしまえば、芥川はそんな事を言い、距離を離そうとしてくるが、放してくれないのは芥川の異能力な事を知ってか知らずか離れようとする度にお互いの手が触れ合ってしまう。
触れ合う度に芥川が小さく反応したり、辺りを見回したりと挙動不審になっていく。
まるでこの状況を誰かに見られたくないといいたいかのように。
だが、そんなある意味平和は突如壊されるのが世の常だ。
「あああああ芥川先輩!どどどどどうして人虎なんかと手を繋いでいらっしゃるのですか!!!」
「待て、樋口。何を勘違いしている?」
「いいいいいいえ、芥川先輩が仰らずとも、この樋口!芥川先輩の為に尽力させていただきます!!」
「(この人もこの前の銀さんの件でだいぶ空回り属性を発揮していたからなぁ・・・)」
「人虎、覚悟!」
こんな街中でいきなり拳銃を放とうとする人は、どう頑張ってもヤバい人でしかない。
「月下獣:半人半虎!」
「待て、じんk・・・!」
そして僕はすっかりと失念していた。
未だ左手に絡みついたままの羅生門があった事を。
芥川は体調不良のせいか踏ん張ることも出来ず、振り回されてしまうことを。
結果・・・
左手を構えようとして芥川が僕の前に出てきてしまい、勢いを殺せず倒れ込んでしまう。
銃弾を弾こうと右手を前に出していたせいで、倒れ込んだ衝撃で抱きしめるような形になってしまった。
僕の腕の中に芥川が居るという不可解な状況に、当然周囲も静かになる。
「あああああああ芥川先輩、人虎を自ら捉えるという事ですね!不肖この樋口出直してまいります!!」
嵐は去った。いや、正確に言えば嵐の前の小さな風が去っただけかもしれない。
「おい、人虎。なにを呆けた顔をしている。早く立て。」
「芥川、引っ張るなって!!」
芥川は素早く立とうとするが、左手が繋がっている為うまく立つことが出来ずによろめく。
「大丈夫か、芥川?」
僕は素早く芥川を抱えるように支えた。
「うるさい、早く済ませるぞ。」
そういって芥川は素早く抜け出すとそそくさと歩き出しはじめる。
なぜか周囲では携帯を僕達に向けている人だかりがあったが、芥川に引っ張られるように移動した為聞くことも出来なかった。
そして、芥川はそのあとは一度も顔をこちらに見せる事をしなかった。
買い出しが終わり、いざ調理をと思った矢先、重大な事に気付く。
ほぼ左手と右手が密着するような距離感である為、調理をしようとすると自然と芥川も僕の隣にならんでしまう。
「流石に諦めて、早く調理をしよう。」
「・・・。」
こうして僕は右手だけ、芥川は左手と僕の左手とくっついた右手を使い調理していく。
問題は調理よりも食べる方だった。
「どうしてやつがれがこのような目に・・・。」
お互いの肩が密着する距離感で芥川の利き手である右手では
特に今は体調が悪くうまく力も入っていないような状態で、制限の無い左手で食べようにもうまく箸を扱えない。
現に右手は持ち上げる事が出来ず、左手はプルプルと震えながら口まで運んでいるような状態だ。
「(あっ、落とした・・・。)」
「・・・。」
「しょうがない・・・。」
僕は決意すると自分の箸で摘み、芥川の口の前に差し出す。
「なんの真似だ」
「芥川が体調を整えない事には異能力を制御出来ないのだから、早く食べて早く寝てもらいたいから。」
「・・・ちっ」
芥川は悪態をつきつつも僕が差し出した箸から料理を食べる。
食事も終わり、寝ようとしたところで新たな試練が待ち受けていた。
絡みついた羅生門が近いせいなのか、ベッドの下で寝ることも叶わず、背中合わせで寝る事になってしまった。
一つのベッドで、殺し合いを行った互いが背中合わせで寝るような状況は、一体だれが想像がつくのだろうか。
そう思いつつも今日1日の濃さは僕の身体に考える隙も与えずに、深い眠りにいざなわれるのであった。
そして、芥川の若干早い心臓の鼓動を背中で感じながら僕は眠りについた。
~翌朝~
僕は開放された。
僕は晴れて自由の身になった。
芥川が起きて、異能力が制御可能になり、ようやく左手が開放された。
「今日1日は不問にしてやる。やつがれに構わず、さっさと出ていけ。」
「はいはい、言われなくとも。」
「今日の事は決して口外するな。次会った時は貴様の命日だと思え。」
「それは僕のセリフだ。次は体調不良なんかでも気を遣うと思うなよ!」
こうして僕と芥川のある意味濃い一日は幕を閉じるのであった。
~開放された日の午後~
「いやー敦クンも隅に置けないねぇー!」
「もー太宰さん!からかわないでくださいよー!というか、写真消してください!!あと飾らないでください!!」
なぜか太宰さんが武装探偵社に僕と芥川の写真を飾っていた。
そして、街中で会った人達に指を指され、悲鳴にも似た歓声を浴びせられるが、よく分からない。
だが、もうこのような事は二度と起こらないだろうと思い、今日も武装探偵社の一員として働くのであった。
「よし、今日も一日頑張るぞー!」
その後なぜか体調不良に陥ると制御不能になった羅生門が芥川の意思に関係なく、僕の左手に絡みついてしまう事が何度も起きてしまう。
ーendー