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蓮が強引にでも手に入れたがるほど好きだった相手とは一体どんな人なんだろう?
会った事もない相手を想像してモヤモヤするなんて馬鹿げてる。
そう頭ではわかってはいるけれど、どうしても気になってしまう。
チラリと隣の席を見ると、いつの間にやら起き上がっていた雪之丞と目が合った。
「気になる?」
「そりゃ、まぁ……」
曖昧に言葉を濁すが、内心はめちゃくちゃ気になっている。
もしも、未だにその人のことを好きだとしたら……?
無理矢理にでも手に入れたかった相手だ。考えたくは無いが可能性は0じゃ無い。
いっそ直接本人に聞いてみようか?
いや、でももし、触れてほしくない話題だったり、まだ未練が残ってたりしたら?
ぐるぐるとそんな考えが頭の中を駆け巡るが、どうにも結論が出ず、ナギは大きな溜息を吐き出した。
その時、突然カランコロンっと来客を告げるドアベルの軽快な音が静かな室内に鳴り響いた。
なんとなく視線を向けると30代と思われる少しチャラそうな男性が店内に入って来るのが見える。
「あら、東雲くんじゃない。久しぶりね。今日は誰かと待ち合わせ?」
常連さんだろうか? 親しげにナオミが声を掛けると、男性は少し困ったように頬をかいた。
「いやぁ、店の前で珍しい人が立ってたから声掛けただけなんです」
「珍しい人?」
「そうそう、ほら、前に僕に紹介してくれた人ですよ。御堂さんって言う……」
その名前を聞いた瞬間、ナギは思わず身を乗り出した。
――まさか、蓮?
心臓が妙に早くなる。もしそうなら、どうしてここに?
慌てて入口の方へ目を向けると、そこには何処か気まずそうに視線を泳がせる蓮の姿があった。
「あら、ちょうど蓮君の話をしてた所だったのよ。さ、入って」
「い、いや……僕は、たまたま通りかかっただけで……」
「何言ってるんです? さっきからソワソワしながら店の前を彷徨ってたじゃないですか」
東雲の言葉に、蓮は鋭い視線を向け、チッと小さく舌打ちをした。
その一瞬の仕草を、ナギは見逃さなかった。
「余計な事言わなくていいから」
怒ったような口調で言いながら。ふいっと視線を逸らす。
これはもしかしなくても、自分たちの事が気になって店の前まで来たけど、入るきっかけが無くってウロウロしてただけなのでは?
何それ……可愛い、かも。
口に出したら怒られるだろうが、蓮の事をそんな風に思ってしまった自分にびっくりだ。
「もー、一緒に来たかったんなら早く言えばよかったのに。寒かったでしょう?」
「……邪魔しちゃ悪いかと思ったんだ」
「あらあら、随分可愛らしいこと言っちゃって。とりあず座ったら?」
クスクスと笑うナオミに、蓮はバツが悪そうに顔を背ける。その仕草がなんだかとても愛しく思えて、口元に自然と笑みが浮かんだ。
「お兄さん、こっち来て」
「え? でも……」
「いいから、ほら、此処に座ってよ」
戸惑いを見せる蓮の腕を掴むと、半ば無理やり雪之丞と自分の間に座らせる。
ふわりと香る蓮のフレグランスの匂いが鼻腔をくすぐり、なんだか嬉しくなって笑いながら彼の腕にギュッと抱きついた。
「ちょ、ちょっと……」
「いーじゃん、別に」
慌てふためく蓮に悪戯っぽく微笑むと、ナギは満足そうに身体を寄せる。ずっと外に居たせいか服も肌も冷たくて、ひやりとして気持ちがいい。
「あらっ? ラブラブね」
「……ほんっとラブラブ。……羨ましいなぁ」
べったりとくっつくナギを見て、雪之丞がボソリと呟く。その表情はナギとは対照的で少し悲しそうで……。
「ねぇ、ゆきりん。……彼の事、好きなんでしょ?」
三人の様子を見比べて、ナオミが確信したように小声で彼に尋ねると、雪之丞は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに観念したかのようにゆっくりと首を縦に振った。
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