テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「……そっか。蓮君ってば相変わらずモテるのねぇ。性格は最悪だけど顔だけはいいから」
「おい、聞こえてるんだけど?」
二人の会話が耳に届いていたのか、蓮が不機嫌そうな表情で口を挟んだ。雪之丞はバツが悪そうに俯き、ナオミはニヤリと口角を上げると空いたグラスを下げて、蓮と東雲それぞれにメニュー表を差し出してくる。
「だって、事実でしょう?」
「……五月蠅いな。性格悪くて悪かったね」
ふいっと視線を逸らして拗ねたように口を尖らせる彼の姿を見るのは初めてで、ナギは小さく息を呑んだ。
「ナオミさんにかかれば、御堂さんもなんだか子供みたいに見えちゃいますね」
苦笑しながら東雲に言われ、蓮はさらにムッとした様子で押し黙った。こんな一面もあるのかと思うと同時に、もっと色んな表情を引き出してみたいという欲求が生まれてくる。
「ガキ扱いされるのは心外だな。……ケンジ。スクリュードライバー一つ頼むよ」
「もー、本名で呼ばないでって言ってるのに……。東雲君は? 何か飲むでしょう?」
「あー、じゃぁ……姐さんのおススメで」
「またアバウトな注文ね。ちょっと待っててちょうだい」
呆れたような溜息を漏らしつつ、ナオミはカウンターの中へと入っていく。その様子をぼんやりと眺めながら、ナギは東雲と呼ばれた男と蓮をそっと見比べた。
顔見知りっぽいが、一体どういう関係なのだろうか?
先輩後輩と言うには少し年齢が離れている気がするし、芸能関係者でないことはナギにだってわかる。
「……俺が何者か知りたいって顔してるね」
「えっ、いや……あの……」
不意にかけられた言葉にギクリとする。確かに気になるけど……。でも……。ナギは視線を泳がせながらもごもごと言葉を濁した。
「君みたいな可愛い子に見つめられるのは嬉しいけど……。ちょっと複雑だなぁ」
「えっ?」
苦笑しながら手を握られ、思わず間の抜けた声が洩れた。予想どうりの反応だったのだろう。彼は可笑しそうにクスリと笑って見せる。
「安心しなよ。彼と俺はそう言う関係じゃないから。ただのクライアントさん。と言うか俺、タチなんだよね」
「へぇ、そうなんだ……って、クライアント?」
「っ、東雲君。余計な事吹き込むのは止めてくれないかな? そして、何時まで手を握っているんだ」
一体何の事だろう?と思ったら、いきなり手を強く引かれて、間に割り込んできた。
「えー? 俺は聞かれた事に答えただけじゃないですか。てかなに? その子が今の新しいセフレの子?」
「……ち、ちがっ……この子は僕の……っ」
そこまで言って蓮はハッとしたように言葉を止めた。なんではっきり言ってくれないんだ!? と不満を覚えたが、もしかしたら恋人だと公言することに抵抗があるのかもしれないと気付く。
それに、直ぐ側にいる雪之丞に配慮したのかもしれない。 自分の事が好きだと言ってくれている相手の目の前で、他の人間とそういう仲だなんて実際に聞かされるのは雪之丞にとって地獄以外の何物でもないだろう。
「……セフレなんかじゃないよ」
蓮はそれだけ言うと、掴んでいたナギの手を解放した。
「あら、駄目よ東雲君。彼、これから超有名になる予定のスーパーヒーローなんだから。蓮君も仕事柄、そういう事はナイショなの。プライベートは聞かないであげて」
「えっ? そうなんですか!? 」
目の前にそれぞれのグラスをことりと置きながらナオミが東雲と呼ばれた男に告げると、東雲は目を丸くして蓮達を見やった。
「あ、何処かで見たことあると思ったら、キミ、小鳥遊君? そっか! 芸能人だったのか……不躾な事聞いて悪かったね」
ナギの顔をまじまじと見ながら東雲が納得したようにポンっと掌を叩く。
「え、あー……いや。まだまだ駆け出しなので。これからもっともっと活躍して一発でわかるように頑張ります!」
そう答えると、ナギは営業スマイルを東雲に向け、グラスに注がれた水をクイッと一気に飲み干した。
欲を言えば、蓮にハッキリ言って欲しかった。でもまぁ、今は仕方ないか。
「俺、探偵をやってるんだ。もし、何か用があるなら此処に連絡して。浮気調査から人、物探し、暗号の解読、どんな依頼でも引き受けるよ」
東雲は名刺入れから一枚の名刺を取り出すと、ナギに差し出した。
「へぇ、探偵さんかぁ」
「ねぇ、暗号の解読が出来るって本当? それに、人探しも」
雪之丞がゆっくりと起き上がり、東雲を見る。
「そうか! 東雲君が居たね。すっかり忘れてたよ」
「って! 御堂さーん! 酷いなぁ。色々と手伝ってあげたじゃないですか」
蓮がハッとしたように声を上げると、東雲は情けない声を上げながら蓮の肩を掴んだ。
「ごめんごめん。今、ちょっと色々とごたごたしてて。手詰まり状態だったんだ。いくつか頼みたいことがあるんだけど引き受けてくれないか?」
「なんですか? 芸能界の闇でも暴くんです?」
「ハハッ、あー、まぁ。色々あるんだよ。今日は奢るからさ、お願いできない?」
蓮の言葉に東雲は少し考え込んだ後、ニヤリと口角を上げた。
「うーん、そうですね。御堂さんの頼みなら人肌脱ぎますよ。丁度今は大きな案件も入ってないし」
「そっか良かった。ありがとう! これで、暗号の謎も解けるな! 雪之丞」
蓮が嬉しそうな表情で雪之丞に向き合うと、雪之丞はコクンと大きく首を縦に振った。
暗号って何の事だろう? CGさん失踪以外にも何かあったのだろうか。
嬉しそうにグラスを乾杯している二人を眺めながら、ナギはなんだか疎外感を感じて、蓮の袖口をクイっと引っ張った。
「ねぇ、暗号って何の話?」
「え? あー、えっと……それは帰ったら詳しく話すよ」
「いまじゃ、駄目なんだ……」
こんなの、ただの独占欲だ。わかっているけれど、やっぱり面白くない。言ってしまってからしまった。と思った。
面倒くさいヤツだと思われたりしただろうか?
ナギは不安げに蓮の顔色を窺ったが、彼は特に気にした様子もなく、いつもの穏やかな笑顔を向けてくれた。
「そんな顔するなって。ちゃんと説明するし。こ、恋人には……隠し事、出来ないんだろう?」
やはり恋人だと口に出すのが恥かしいのか、ボソボソと小声で蓮は言うと、少し頬を赤らめつつ視線を逸らす。
その仕草がなんだか可愛くて、愛しくて、でもそんな顔を蓮がしているという事実が可笑しくて、ナギは思わずクスリと笑いを零した。
「ふぅん、蓮君でもそんな顔するのねぇ……」
「なっ、見るなよ……っ」
「やぁよ。面白いもん。写真撮っていい?」
「絶対ダメ。無理」
スマホを取り出したナオミに、蓮は必死の形相で首を横に振ると、プイっとそっぽを向いてグラスに残った酒を一気に煽った。
「ねぇ、蓮君」
不意に、雪之丞が蓮の名を呼んだ。
その声に、蓮もナギも顔を向ける。
雪之丞はしばし無言で蓮を見つめていた。
揺るがない瞳。そこには、先程までのどこか頼りなげな色はもうなかった。
「ボク、キミのことが好きだよ」
「……えっ、えっと……」
「答えなくていいよ。……ただ、言いたくなっただけだから」
それだけ言うと、雪之丞はカタンと席を立った。
「ボク、帰るね。ナオミさん。美味しいお酒ありがとうございました。 あと、東雲さん……詳しくは蓮君に聞いてください。それじゃ」
「えっ、ちょ……ゆきりん!?」
突然の告白と共にお金を置いて帰ろうとする雪之丞を見て、ナギは慌てて立ち上がった。が、蓮に腕を掴まれてそのまま引き戻される。
「待て、ナギ。……僕が行く」
「えっ!? ?」
「大丈夫だから」
蓮はそれだけ言うと、急いで雪之丞の後を追って店を出て行った。