テラーノベル
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プロローグ
放課後、友達と別れて教室を出た。
特に用事があったわけじゃない。
ただ、なんとなく教室にいる気分じゃなくて、少し校内を歩いてみることにした。
廊下を歩いていると、ふと目に入ったのは開けっ放しになっている空き教室。
何気なく中を覗いてみると、窓際の席にひとりの男子がいた。
いや、正確には机に突っ伏して眠っていた。
窓から差し込む夕日が、その子の横顔を柔らかく照らしている。
静かな教室の中で、その子だけ時間がゆっくり流れているように見えた。
「……あれ、誰だろ」
同じ学校の生徒なのは間違いない。
でも、話したことはおろか、名前すら知らなかった。
俺は少しだけ足を止めて、その寝顔を眺めていた。
別に、寝顔を見る趣味があるわけじゃない。
ただなんとなく気になった。
普段の俺なら、知らない相手にわざわざ関わろうとは思わない。友達ならそれなりにいるし、毎日それなりに楽しい。
それなのに、どうしてだろう。
「……はなしてみたいな」
気づけばそんなことを考えていた。
もちろん眠っている相手に話しかけるわけにもいかない。起こすのも悪い気がして、俺はそのまま空き教室を後にした。
それから数日後
何気なくインスタを眺めていたとき、ふと、あの男子のことを思い出した。名前も知らなかったはずなのに、なぜか顔ははっきりと覚えている。
同じ学校の生徒なら、もしかしたら見つかるかもしれない。
そんな軽い気持ちで探してみると、思いがけずそれらしいアカウントが見つかった。
プロフィールを確認して、投稿を眺める。
……うん、間違いない。あのときの男子だ。
“瀬戸依織”
「依織くんっていうんだ」
思わず口に出してひとりで微笑んだ。
知り合いでもない相手をフォローするのは、少しだけ勇気がいった。
いきなりフォローしたら、びっくりするかな。
……別に変なことじゃないよね
話してみたいと思ったんだから、きっかけくらい作ってみてもいいだろう。
俺は少し考えてから、フォローボタンを押した。
その日はそれだけだった。
……と思っていた。
しばらくして、スマホに通知が届いた。
画面を見ると、そこには見覚えのある名前が表示されていた。
“瀬戸依織がフォローしました”
「……え、まじ?」
思わず頬が緩んだ。
フォロー通してくれればラッキーぐらいの気持ちだったから、まさかフォローバックしてくれるとは思っていなかった。
たったそれだけのことなのに、なんだか嬉しい。
もちろん、まだ何も始まっていない。
名前を知ってインスタで繋がっただけだ。
それでも、今まで遠くにいた相手との間に、ほんの少しだけ道ができた気がした。
画面に表示された名前をもう一度眺める。
“瀬戸依織”
今度会ったら、話しかけてみよう。
「仲良くなれたらいいな」
そう呟いてスマホを閉じた。
このときの俺はまだ知らなかった。
ほんの小さなきっかけが自分にとって、かけがえのないものになるなんて。
コメント
1件
めっちゃ良いな、この距離感。空き教室で寝てる姿を偶然見て、「話してみたい」って自然に思える主人公の素直さにグッときたわ。インスタで見つけてフォローしてみたらフォロバ来て「え、まじ?」ってなるの、めちゃくちゃ共感する!まだ何も始まってないのに、ちょっとした道ができた感じが鮮やかに描かれてて、続きが絶対気になる。ことねさんの青春もの、解像度高いわ…!