テラーノベル
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「……おはよう。」
「んーっ、おはよ。」
ルームシェアを始めたのが5月の半ば、それからあっという間に日常は過ぎていていき、気付けば梅雨の時期に入った6月に。
朝起きて部屋から出ると、同じタイミングで若井の部屋のドアも開き、欠伸をしながら腕を伸ばした若井が部屋から出てきた。
「薬飲む?」
「んー…あとで飲む。」
外の天気と同様、朝からどんよりとした雰囲気のぼくに気付いた若井。
偏頭痛持ちのぼくは、梅雨の時期は体調が悪い日が続き、大体いつも朝からこんな調子。
昔は心配していた若井も、今じゃもう慣れっこで、毎年恒例の光景と捉えているようだった。
まあ、ぼくとしても大袈裟に心配されるよりは、その方が気が楽ではあるけど。
「おはよ〜。あらぁ、今日も駄目そうだね。」
「うーん。」
リビングに入ると、相変わらず涼ちゃんがキッチンに立っていてスクランブルエッグを作っていた。
大体1週間のうち、半分以上はスクランブルエッグだ。
残りは、少し崩れた目玉焼き。
…実のところ、出てくるスクランブルエッグの半分は、失敗した目玉焼きだとぼくは思っている。
「じゃあ、スープだけ出しとくね。」
「うん。お願いしまーす。」
涼ちゃんも最初は心配していたけども、若井のぼくへの対応をみて、そういうものなんだと思ったのか、過度な心配はしてこないのでありがたかった。
今日は3人とも三限からなのでのんびり出来る。
お昼は大学の食堂で食べる為、家を出るのは2時間後くらい。
ぼくは、涼ちゃんに用意してもらったスープをちびちび飲みながら、2人が朝ご飯を食べているのを眺めていた。
食欲はない…ないけど、人が食べてるのを見てるとなんだか食べたくなってしまうもので…
ぼくはスクランブルエッグを口に運ぼうとする若井の目をジッと見つめる。
すると、それに気付いた若井が、方向を変えてぼくの口にスクランブルエッグが乗ったスプーンを持ってきたので、ぼくは、あーんと口を開け、パクっと食べた。
「今日も仲良しだねぇ。」
「まだ食べる?」
「ううん、もういい。」
今日のスクランブルエッグは相変わらずパサパサだったけど、油っこくなくて、でもだいぶ薄味だった。
少しずつだけど、上手にはなっている…気がする。
早々に朝食を終えると、ぼくはリビングのソファーに横になる。
頭が痛くて唸っていると、若井がやってきて薬と水を渡してきた。
しかし、少しでも動くのがだるかったぼくは、水だけ受け取り、飲ませてくれと言わんばかりに口を開けた。
そんなぼくを見て、若井は少し呆れながらも、手慣れた手つきで持ってきた薬を2錠取り出し、ぼくの口の中に放り込んだ。
「ありあと。」
ぼくは舌に薬を乗せたままお礼を言い、薬を水で流し込むと、目を閉じた。
ちなみに、飲み残した水は、もー。と軽く文句を言いながらも若井が片付けてくれた。
本当に優しい男である。
・・・
「元貴〜、起きて。」
「んんっ…」
「もう少しで家出る時間だよ。」
「んー、やだぁ。」
「えぇ〜、起きなきゃだめだよ〜。」
「んぅー。」
「元貴、涼ちゃん困ってるじゃん。早く起きないと置いてっちゃうよ。」
「…意地悪っ。」
出来るならこのままずっと眠り続けたいところだけど、そうもいかない。
涼ちゃんと若井に起こされたぼくは渋々身体を起こし、大学に行く準備を始めた。
薬が効いてだいぶマシにはなっているとは言え、身体のダルさは消えないぼくは、準備するのが遅くなってしまったので、涼ちゃんと若井に先に行ってもらい、食堂の席を確保してくれるようにお願いした。
ちなみに、鍵は、あの家に入れなかった日の夜に涼ちゃんから合鍵を貰っているので大丈夫だ。
行きたくないなーと思いつつも、ぼくは玄関で靴を履くと、振り返って手を合わせた。
「いってきます。」
・・・
「席、ありがとー。」
「あ、元貴うどんにしたんだぁ。 」
「うん、これなら食べれる気がして。」
「僕もカレーじゃなくてうどんにすればよかった〜。うどん好きなんだよねぇ。」
「若井は、ラーメン?昨日も食べてなかった?」
「いいじゃん。別に。」
ぼくは二人に取ってもらってた席に座り、食べ始めたけど、半分くらいしか食べれなくて残りは涼ちゃんに食べて貰った。
…カレーも見るからに大盛りだったし、あの細い身体のどこに入ってるんだろう?
・・・
「うぃー!やっと終わったー!」
三限、四限となんとか乗り切ったぼくは、講義室を出て大きく伸びをした。
「お昼ご飯後の講義はまじで鬼門だよね。」
「ぼく、一瞬落ちかけたわ。」
何とか今日も乗り切った自分を称えながら、若井と一生に校舎の出口に向かう。
「…あれ?ぼくの傘ないんだけど。」
「まじ?間違えて持ってかれた?」
「知らん!最悪!」
「…て、あれ?おれの傘もないんだけど!」
「ははっ、ざまぁー。」
「ひどっ!てか、どうするよ?」
「適当に持ってっちゃう?」
「いや、ダメだろ。」
「二人ともどうしたの〜?」
ぼくも若井も傘がなくなり困っていると、聞き慣れた声が後ろから聞こえた。
「涼ちゃん!聞いてよ、傘盗まれてさー。」
「あぁー、あるあるだよね。」
「ちなみにおれも。」
「えっ、若井も?」
「涼ちゃんのは無事?」
「ちょっと待ってて。僕のはねぇ……ん〜、あった!」
涼ちゃんは沢山の傘が置かれた傘置き場から直ぐに自分の傘を見つけ、すごくカラフルな傘を手にして戻ってきた。
「じゃん!僕のは派手だから盗まれないんだよねぇ。」
「あー、そういう事だったんだ。無駄に派手だなって思ってたんだよね。それなら納得。」
「無駄とかひどい!盗まれない為でもあるけど、普通に可愛いと思って買ったのに〜。」
涼ちゃんはそう言うと、灰色の空の下で傘を広げた。
色んな色が入ったオーロラカラーの派手な傘。
確かに派手でぼくや若井が持ってたら変な気がするけど、涼ちゃんには妙に似合っている気がした。
「ほら!元貴、若井、帰るよっ。」
そう言って、振り返った涼ちゃんが何だかとても綺麗で、 なぜか胸の奥がきゅっとなった…
「まぁ、濡れるよかマシか。」
「元貴も!早く早く〜」
「ちょっ、待ってよー!」
1本の傘に男三人肩を寄せ合い、 濡れるだの、もっと寄ってだの、ギャーギャー騒ぎながら帰った帰り道。
人知れず、胸の鼓動がやたらと早かったのは、きっと気のせいではないのだけど、その理由に気付くのは、まだだいぶ先のお話…。
コメント
4件
Breakfastーー!!!!の歌詞入ってるのに気づきました。貴方は天才ですか?そうですよね?知ってます。
はわあああああ!着実にどんどんストーリーが進んでいくのが好きすぎます…🥹💕︎気持ちに気づくのはまだ早いか、、!見守るよおおお😭