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「おはよー!」
「おはよう〜。って、もうお昼だけどね。」
土曜日の朝。
目が覚めると、開けっ放しの窓から吹き込む風が、カーテンを静かに揺らしていた。
その隙間から差し込む光は、もう朝のそれには思えないほど強く、 寝すぎたんだと、ぼんやりした頭でようやく気づいた。
梅雨時期のつかの間の晴れ日で、今日はこの時期には珍しく体調が良く、気分よくリビングを開け、いつもよりも元気に朝の挨拶を口にした。
リビングのソファーでくつろぎながらスマホをイジってた涼ちゃんが、寝すぎでしょ〜と少し呆れたように言って笑顔を見せた。
ぼくは、へへっと笑顔で誤魔化すと、リビングを見渡し、若井が居ない事に気が付いた。
「あれ?若井はー?」
「若井なら、もうサークルの合宿に行ったよ。」
「あ、今日だっけ。」
言われてみれば、前から今日から一泊二日で、サークルの強化合宿と言う名の懇親会があると、若井が話してくれていた事を思い出した。
ぼくなら、大して知りもしない人と泊まりがけでどこか行くなんて絶対に嫌だけど、楽しみだと話してた若井は流石だと思った。
てか、若井が居ないという事は、今日から二日間、涼ちゃんと初めての二人きり。
たった二日間だけではあるけど、それだけで、なんだかそわそわしてしまう。
「若井、昨日も話してたじゃん。元貴、まだ寝ぼけてるの〜?」
「…そうかも。てか、お腹減ったー!」
ぼくは、出来るだけいつもと変わらない素振りでリビングに足を踏み入れた。
自分の気持ちを誤魔化すようにわざとオーバーな口調で言ってみる。
ふと、視線を上げると、涼ちゃんがさっき言っていた通り、針は12時を指していた。
「僕もそろそろお昼にしようと思ってたんだよねぇ。」
大学がない土曜日や日曜日は、大体カップラーメンやレトルトカレーなど、とにかくお湯を入れるだけや、電子レンジだけで出来上がる物を食べがちなぼく達。
だけど、今日、朝を食べ損ねたぼくは、それだと物足りない気がして、キッチンの冷蔵庫を覗いてみる。
「涼ちゃーん。このハンバーグ使ってもいい?」
「ん?いいよ〜?」
ぼくは冷蔵庫から、レトルトのハンバーグを取り出すと、これを買ったのは前にハンバーグが好きと言っていた涼ちゃんだと思い、声を掛ける。
なにするの〜?と、リビングからキッチンに移動してきた涼ちゃんに、今日のお昼はぼくが作るよ!といい、早速準備に取り掛かった。
まあ、作るとは言っても、ハンバーグもご飯もレトルトなのですごく簡単なものなんだけど。
「なんか手伝うことある〜?」
電子レンジを使っている間に、唯一、火を使う調理をする為にフライパンを取り出していると、しばらく様子を見てた涼ちゃんが口を開いた。
正直、特に手伝って貰わなくてもよかったのだけど、せっかくだからとレタスをちぎるのをお願いした。
これなら包丁も使わないし安心だ。
「出来たー!」
完成したのは、ご飯との上に、涼ちゃんがちぎってくれた(だいぶ多めだけど、これは量を指定しなかったぼくのミスだ)レタスと、ハンバーグと目玉焼きを乗せた簡単ロコモコ丼。
ぼくは、最後に仕上げのマヨネーズをかけると、ダイニングテーブルでスプーンを用意して待ってた涼ちゃんのところに持っていった。
「わあー!めちゃくちゃ美味しそう!」
目の前にロコモコ丼が置かれると、笑顔でパチパチと拍手する涼ちゃんに、自然に笑みがこぼれる。
「どうぞ、温かいうちに召し上がれ。」
そう言いながら自分も席に着くと、涼ちゃんと二人で『いただきます』をし、ぼくも涼ちゃんも、あっという間に完食してしまった。
「美味しかったー!」
「ね!めちゃくちゃ美味しかったぁ!あ、元貴ちょっと来て。」
「ん?」
食べ終わった食器を片付けようと席を立つと、涼ちゃんに呼び止められ、ぼくは、なんだろう?と思いながら食器を持ったまま近づいていく。
「マヨネーズついてるよ。」
すると、涼ちゃんはそう言って、ぼく口の端を指で拭うと、そのままペロッとその指を舐めた。
「え、あっ…」
ぼくは涼ちゃんのその行動に驚きながらも、それとは別の意味でドキドキしてしまい、顔が熱くなっていくのを感じる。
「んふふ。ご馳走様っ。」
動揺しているぼくに気付いていないのか、涼ちゃんはいつもの笑顔でニコッと笑いそう言うと、身体の動かし方を忘れてしまったように、直立不動になっているぼくから食器を取り、自分の食器も持つと、ご飯作ってくれたお礼ねっ、と言って、キッチン向かい食器を洗い始めた。
何かと世話を焼いてくれる若井にだってあんな事された事ないのに…と、未だになりやまない胸のドキドキを感じながら、何とか落ち着こうとリビングのソファーに腰掛ける。
チラっとキッチンに立っている涼ちゃんを見てみるけど、涼ちゃんは“なんでもない”といった感じで、食器についた泡を水で流していた。
さっきのあれは普通の事なのだろうか…?
若井しか友達が居ないぼくにはイマイチ“普通”が分からない。
なので、友達同士でやるかは分からないが、記憶を辿ると小さい時にお母さんがしてくれてたような気がする…
気がするけど……
・・・
「…んぅ。」
いつの間にか寝てしまっていたようで、頭の痛みで目が覚めた。
朝はあんなにいいお天気だったのに、少し開けた窓から聞こえる雨の音を聞いて、あぁ、だからか。と思った。
「おはよぉ。」
「…はよ。」
「頭痛いの?」
「…うん。」
目を覚ましたぼくに気付いた涼ちゃんの声掛けにぼくは短い返事を返しながら、どのくらい寝てたんだろうと時計を確認する為に身体を起こすと、涼ちゃんが掛けてくれたのであ ろう、タオルケットがパサっと床に落ちた。
グワングワンと痛む頭にしかめっ面をしながら時計を見ると、4時間程の時間が過ぎていた。
仕上げなきゃいけないレポートや課題があるのに…と、唸っていると、そんなぼくの様子を見てた涼ちゃんがお水と薬を持ってきてくれた。
ぼくは、いつもの癖でお水だけ受け取ると、あーんと口を開けたところで、涼ちゃんと目が合い、慌てて口を閉じた。
「あ、や…ごめんっ、間違えた!」
「え〜別にいいのに。はい、あ〜ん。」
なんだか今日は涼ちゃんにドキドキしっぱなしだ。
こんな風に変に意識してしまうのは、二人きりという状況に慣れていないから…なのかな。
戸惑うぼくをの目の前で涼ちゃんは薬を2錠シートから取り出すと、ぼくに口を開けるよう催促してきた。
ここで断ったら意識してるのと言っているようなものな気がして、ぼくはゆっくり口を開いた。
「はい、ど〜ぞ。」
「…あいあと。」
ぼくは舌の上に乗せられた薬をそのままにお礼を言うと、お水でグイッと薬を流し込んだ。
「んふふ。なんか鳥さんの雛みたいで可愛かった〜。」
人の気も知らずに呑気にそう言って笑う涼ちゃん。
ぼくが雛なら涼ちゃんはお母さんじゃん!と心の中で言い返したけど、よく考えると本当にお母さんみたい。
お昼の時の行動もそうだし、寝てたらタオルケット掛けてくれたり…
そう思うと、さっきまでドキドキしてた胸の鼓動が不思議と落ち着いてきた気がした。
「じゃあ、涼ちゃんはお母さんだね。」
涼ちゃんにはなんだか甘えたくなる。
うん、そんなオーラがまさしくお母さんって感じ。
「えぇ〜、お母さんかぁ。う〜ん、まぁ…今はそれでもいっか。」
涼ちゃんはぼくの発言に納得してるようなしてないような曖昧な返しをすると、何かを誤魔化すように、そっとぼくの頭をポンポンと撫でた。
「ねぇ、そういえば、元貴、レポートあるって言ってなかったっけ?英語なら手伝ってあげるよ?」
「まじ?!英語の読解レポートがあったからめちゃくちゃ助かる!」
この日の夜は、夕飯もそこそこに涼ちゃんに手伝ってもらいながらレポートを仕上げ、次の日も、1年生の内容なら教えれるかもと言う涼ちゃんに甘えて、手伝ってもらいながら何とか終わらせることが出来た。
二人で過ごしたこの二日間。
ほんの少しだけど、涼ちゃんとの距離が変わった気がする。
いつもと同じようで、どこか違う。
それがなんなのかは、まだうまく言葉にできないけれど…
コメント
2件
今度はツキマシテハだ!!!! あぁ、だからか!!!!