テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
59
初めて”レンタルルーム” なる家のドアの前に立つ。
『へぇ~、こんな風な外観なんだ。
普通の賃貸みたい』
玄関に入るとすでに本田くんが来ていたみたいで、部屋に上がると彼が
ソファに腰掛けているのが見えた。
「お久しぶり~」
つい先日会ったばかりだが、私はそう声を掛けた。
すると彼は一度立ち上がり「やぁ」と言った。
私が彼の隣に腰掛けると、なんだか落ち着かない様子で彼もまたそのまま
座った。
この部屋には、長椅子が1つあるだけで対面で座れなかった。
まさに、恋人たちのために用意されたような長椅子だった。
キッチンもあるみたいだし、一旦お互いの気持ちを落ち着かせるために
お茶でも飲んだ方がいいかもと思い、私は腰を浮かせた。
すると、本田くんが椅子から立ち上がりそのまま移動して私の対面へ
来たかと思うと、ガバっと跪き土下座した。
「美並、ごめん。
まずは、心から謝らせて……。
本当に申し訳ない。
俺自身も急な展開で気持ちはまだグチャグチャなんだけど。
それでも急いで結論を出さなきゃいけないことで、今日ここに来て
もらった」
「本田くん、どうしちゃったの。
何があったの? すごくヤバいことなの?」
ここにきて、今日の彼からの話というのが、自分が想像していた甘々なこと
ではないのだとわかり、私は焦った。
嫌な予感が私の脳裏を駆け巡る。
「うん、かなりヤバいね。
ただ、俺は美並をできるだけ驚かせたくはないし、悲しませたくなくて
事情を知った時から美並にどんなふうに話せばいいかって、そればかり考えてた」
「ね、今そんな話って──
まさか結婚のことだったりする?」
私がそう訊くと、彼はわずかに首を動かしたかと思うと俯いてしまった。
「できれば完結に伝えるのじゃなくて理由やら原因やらの詳細を話したいと思ってる。
責任逃れをしたいわけじゃなくて、自分自身を納得させるためもあるし、
美並にもいたずらに悲しんでほしくないっていうのもある。
話の途中で席を立つような感情になっても、できれば最後まで話を聞いて
ほしいんだ。どうしてこんな風な結末になったのかということを」
結末という言葉を聞いて私はもしかすると、
私たちのこの結婚が──
私たちの挙式が──
なくなることを意味しているのかもしれないと思った。
私は全身から力が抜けていくのを感じた。
「結婚をやめるっていうこと?」
「すまない……」
私は彼のその一言で、顔を覆い、溢れてくる悲しみを受け止める。
しばらくの間、対面にいる彼と私の間に静寂の時間が流れていった。
このままじゃだめだ。
彼の言う通り、どうしてそんなことになるのか、結婚をとりやめなくちゃ
ならなないのか、それを全部聞かせてもらおう。
その上で、彼を詰るなり責めるなりすればいい。
そして悲しめばいい。
『結婚をやめたい、やめることにした』
簡単な言葉で受け止めるには、余りに酷過ぎる現実である。
「あなたの話、聞くわ。話して……」
コメント
3件
今日のエピソード、胸がぎゅっとなりました。レンタルルームという閉じた空間で本田くんが土下座するシーンから、もう重い空気が伝わってきて……。美並さんの「結婚をやめるっていうこと?」という問いかけに、涙が溢れる場面は本当に切なかったです。それでも「あなたの話、聞くわ」と言える強さ、素敵だと思いました。どうしてそんな結末になってしまうのか、続きが気になります。設楽理沙さんの描く心情の機微に、また引き込まれました。
AZ

91
277
ユナ語尾にゃん&関係者再募集中
97