テラーノベル
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三年生の教室前。
廊下の掲示板に、進路希望一覧が貼り出された。
ざわつく声。
笑い声。
将来の話。
相馬は、足を止めた。
(……あ)
鷹宮の名前。
県外の専門学校。
「先輩」
思わず呼んでいた。
「ん?」
「……これ」
指さすと、鷹宮は一瞬だけ目を伏せてから言った。
「あー。言ってなかったっけ」
「……聞いてねー」
「まだ仮だけどな」
その「仮」が、やけに遠く聞こえた。
それから、相馬は何も聞かなかった。
聞けなかった。
放課後、一緒に帰る。
くだらない話をする。
いつも通り。
でも、頭の片隅にずっとある。
(卒業)
「一年」
呼ばれる声に、少しだけ焦る。
「何ぼーっとしてんだ」
「別に」
鷹宮は何も言わない。
言わないからこそ、余計に怖い。
ある日、鷹宮が教師に呼ばれているのを見た。
「推薦の話」
「親とも相談しろ」
聞こえてしまった会話。
胸が、静かに沈む。
(決まってきてるんだ)
その日の帰り道、相馬はわざと距離を取った。
「先に帰る」
「おい」
呼び止められても、振り返らない。
夜。
ベッドに仰向けになっても、眠れない。
(先輩、いなくなるんだ)
今まで考えないようにしてきたことが、
急に現実味を帯びて迫ってくる。
卒業式。
写真。
「元気でな」。
想像しただけで、喉が詰まった。
(……無理だろ)
数日後。
「最近、変だぞ」
人気のない階段。
鷹宮の声は低い。
「避けてる」
「……気のせい」
「修学旅行の後から、じゃねー」
相馬は黙った。
鷹宮は一歩近づく。
「俺、何かした?」
「してねーよ」
でも、拳が震えている。
「卒業するんだろ」
絞り出すような声。
「県外行くんだろ」
「……ああ」
その一言で、全部崩れた。
「じゃあ何だよ、この関係」
「俺、どうすりゃいいんだよ……!」
初めて、相馬が声を荒げた。
「どうせ置いてくくせに」
「優しくすんなよ!」
沈黙。
鷹宮は、すぐに答えなかった。
それが、一番きつかった。
「……怖いんだ」
ぽつりと、鷹宮が言う。
「お前が」
「ここに縛られるの」
相馬は目を見開く。
「俺が行かなくなったら」
「お前、後悔するだろ」
初めて聞く、弱い声。
「だから、ちゃんと決めたい」
「中途半端に、未来を奪いたくねー」
相馬は何も言えなかった。
その日から、
二人は少し距離を取る。
連絡は減り、
放課後も別々。
周囲は「喧嘩?」と噂する。
相馬は、何も否定しなかった。
(これでいい)
そう思わないと、耐えられなかった。
夕方の校門。
卒業まで、あと三ヶ月。
鷹宮が振り返る。
「なあ」
「……」
「このままでいいか?」
相馬は、少し笑って言う。
「知らねーよ」
「先輩が決めろ」
その背中を見送って、
初めて涙が落ちた。