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私
達は、何かに縛られているわけじゃないんだ! その気にさえなれば、どこへだって行けるはずさ! そうだろ!? そうさ、君には出来るよ。
僕には分かるんだからね。
君ならきっと……素晴らしい冒険が出来るはずだ。
だから……ほら、行こうぜ。
この扉の向こう側へ!!
「えーっと……あぁ、これだ!」
「ん? どうした?」
「ああ、ちょっと待ってくれ。今出すから」
ここはとある国の王城にある執務室。
部屋の主である青年は書類仕事をしながら声をかけてきた同僚に返事をし、手元にあった一枚の紙を手に取るとペンを走らせる。それはこの部屋を訪れた来客の記録であった。
「ああ。そうだね。うん。ありがとう」
青年は礼を言いながら椅子から立ち上がると窓際に立ち外を見る。窓から見える風景には青空が広がり雲が流れており穏やかな様子を見せていた。その景色を見ながら青年は先程の同僚に対しての返答をする。
「ごめん。ちょっと行かないとダメみたいだから行くよ」
そう言うと青年は机の上に広げていた書類をまとめて立ち上がった。
「ありがとうございました」
「いえ、お役に立てたようで良かったですよ」
彼はにっこりと微笑むと扉に向かって歩き出した。その背中を見て、ふと思った疑問を口にしてみる。
「あのー、一つだけ聞いてもいいですか?」
「はい、どうぞ」
くるっと振り返った彼の顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。
「どうして僕なんかの話を聞いてくれたんですか? こんな田舎町のただの高校生の話を」
「う~ん……強いて言えば、君に興味を持ったから……かな?」
その言葉を聞いて、男は顔をしかめる。
しかし……その答えを聞いた途端、男の表情が変わった。
「そうですか……」
男の声には、微かに喜びの色があった。
まるで……ずっと欲しかったものをやっと手に入れたような声だった。
「あぁ!そうだ!」
男はハッとする。
「なんでしょうか……?」
恐る恐る聞く。
「名前を教えてくれないか?僕は君の名前をまだ知らないんだ」
「……名前はないんです」
「ないのか!?それは不便じゃないか?」
「いえ、別に困ることはありませんよ」
「そっか……それじゃあ僕が付けてもいいかい?」
「えぇ……構いませんけど……」
少し戸惑いながら答える。
「よし!決めたぞ!!君の名は『アンタレス』だ!!」
「アンタレス……?」
男は不思議そうな顔で呟く。
「そうさ!星の名前だよ!ほら、あの赤い大きな星の事だ」
「なるほど……星ですか……」
「えぇ、宇宙から見れば地球なんてちっぽけなものですよね。人間だってそう。自分の悩みがちっぽけなことのように思えてきましたよ。それにしても、あなたはどうしてこんな話に興味を持ったんですか?」
「興味を持ったわけじゃないんですけど……ほら、僕には友達がいないでしょう? だから、こうしてお話しできて楽しかったんですよ」
「あぁ、そうなんですか。それじゃあ、また今度機会があればご一緒させてください。今日はありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。それでは失礼します」
僕は立ち上がって一礼してから部屋を出た。
外に出るなり大きな欠伸が出た。
(ふぅ~……疲れた)
仕事を終えて帰宅途中だったのだが、道端に落ちていた紙切れを見て足を止めた。その紙切れには『あなたの悩みをお聞かせください』と書かれていて、その下に電話番号が書かれていた。電話してみたら占い師らしき女性の声が聞こえてきた。
彼女は僕の悩みを聞くなり、「それはね……恋だよ!」と断言してきた。僕は思わず「え?」と言ってしまった。
「あなたは今、恋のことで悩んでいるんだよね! そうでしょう!?」
「そ、そうなんですかね……?」
「うん! 間違いないよ!!」
彼女の勢いに押されてしまい、気がついた時には電話を切るタイミングを逃してしまっていた。その後も彼女は僕に向かって色々と恋愛に関するアドバイスを送ってきたのだが、正直言ってあまりピンときていなかった。
そもそも自分は今まで一度も彼女ができたことがない上に、誰かを好きになったこともなかったからだ。
だから、お前らはダメなのだ。
その日は突然やってきた。
何の前触れもなかった。
今まで当たり前だった日常は簡単に崩れ去った。
それは本当に一瞬の出来事だった。
いつものように学校へ行って授業を受けて部活をして帰ってご飯を食べてお風呂に入って宿題して寝るという、とても普通の一日になるはずだったんだ……。