「……っ、ちょっと……ほんとに……」
 「入れるぞ。」
 「待っ……あっ……!」
 
 
 
 躊躇なく腰を突き込んだ。
ぬるぬると、音を立てて沈み込む。
元貴の指先がキッチン台の縁を掴む。
 
 
 
 「……はっ……、くそっ……」
 「ほら、入った。奥まで。」
 「……や、やだ……深い……っ!」
 
 
 
 若井が腰を引くと、湿った音がいやらしく響いた。
そしてまた一気に突く。
台に置かれたフォークや皿が跳ねて、カチャカチャと音を立てる。
 
 
 
 「……滉斗、音っ……皿、落ちるっ……!」
 「うるせぇ、気にすんな。」
 「……っ、ん、あ……!」
 
 
 
 息を殺して声を抑えようとしても、奥を抉られるたびに声が漏れる。
その声に煽られるように、若井の動きが速くなる。
ぐちゅ、ぐちゅ、と生々しい音が2人の間で繰り返される。
それを打ち消すように、皿やグラスがぶつかる音が混じる。
 
 
 
 「……はっ……元貴……声、もっと……」
 「や、だ……!……あっ、あ……っ」
 「出せよ。」
 「……や、やめろ……っ……あぁっ!!」
 
 
 
 若井の手が腰を掴み、引き寄せる。
奥に一番深いところまで押し込まれた瞬間、喉の奥から潰れたような声が零れた。
目尻に涙が滲む。
 
 
 
 「……くそ、可愛い顔……」
 「見るなっ……、やだ……っ、恥ずかし……」
 「お前が可愛いからだろ。」
 「や……っ、滉斗、バカ……っ」
 
 
 
 若井は目を細めて、少しだけ動きを止めた。
元貴の頬に口づけを落とす。
その一瞬の優しさが、逆に胸を苦しくした。
でもすぐにまた腰を動かす。
今度はもっと速く、深く。
 
 
 
 「……んっ、あっ、ああ……!」
 「時間、ないからな。……急ぐぞ。」
 「やだ、やだって……!あ……ああっ!!」
 
 
 
 台の上に置かれていた皿が一枚、カランと落ちた。
割れなかったけど、鋭い音が部屋に響く。
それでも若井は止めなかった。
むしろ煽るように腰を打ちつけた。
 
 
 
 「……元貴……俺と、一緒に……っ」
 「……っ、滉斗……あ……ああっ……!!」
 
 
 
 息が詰まった。
背筋が弓なりに反る。
最奥まで突かれ、元貴は弾けた。
若井も唇を噛み、喉の奥で低く唸りながら、奥まで熱を吐き出した。
 お互いの荒い息だけがキッチンに響いた。
気がつけば、窓の外はもうすっかり朝日が昇りきっていた。
焼けたオレンジ色が2人の汗を照らす。
 若井はゼエゼエと息を吐きながら、まだ元貴を抱き締めたまま動かない。
元貴の首筋に額を押し当てる。
 
 
 
 「……やっべ……マジで時間……」
 「……っ、……今……何分……?」
 「……やばい。もう……20分切ってる。」
 「……はあ?」
 
 
 
 急に現実が押し寄せてくる。
若井の腕から逃れるように、元貴は台の上から飛び降りた。
2人とも、下着もズボンも脱ぎ捨てた状態。
慌ててかき集める。
 
 
 
 「……っ……汚ね……お前、中……」
 「言うな……拭けるもんねえのかよ……」
 「キッチンペーパー……!」
 
 
 
 元貴が引き出しから乱暴に取り出して投げる。
若井は受け取って、股間を拭きながら鼻で笑った。
 
 
 
 「お前のも、ほら。」
 「……うるせえ。」
 
 
 
 元貴も取り上げて自分の内腿を拭った。
 2人とも息はまだ荒く、耳まで真っ赤だった。
食器は割れていないものの散乱したまま。
ベーコンの脂が乾きかけた皿、卵の殻、コップ。
そして床に滴った水と2人の足音。
 
 「片付け、無理だな。」
 「無理。」
 「スタジオ行かないと死ぬ。」
 「だな。」
 
 
 
 それでも一瞬、視線が絡む。
さっきまで獣みたいに抱き合っていたのが嘘みたいに、互いに唇を噛んで笑った。
 
 
 
 「……帰ったら、ちゃんとやる。」
 「……は?」
 「掃除も……お前も。」
 「……バカ。」
 
 
 
 またキスしそうになる顔をぐっと抑えて、元貴は顔を背けた。
心臓がうるさいくらい鳴っていた。
若井も耳まで真っ赤だったが、ふっと意地悪く笑う。
 
 
 
 「はよ着替えろ。時間ない。」
 「お前もだ。」
 
 
 
 脱ぎ散らかしたTシャツを素早く引っ張り上げて被る。
若井もジーンズを跳ねるように履き上げる。
お互い汗でベタついた肌を無視して、バッグを引っ掴んだ。
 玄関でゴツンと肩がぶつかる。
 
 
 
 「いてっ。」
 「……すまん。」
 「……はよ。」
 
 
 
 靴をつっかける。
鍵を乱暴にポケットに突っ込む。
ドアを開けた途端、冷たい朝の空気が2人の熱を奪った。
 マンションの外廊下を、2人は小走りで駆け抜ける。
若井が前を行き、元貴が数歩後ろを追いかける。
振り返った若井が、ちょっとだけ笑った。
 
 
 
 「……なに笑ってんだよ。」
 「なんも。」
 
 
 
 もう1回くらいキスしてから出ればよかった、なんて若井は心の中でだけ呟いた。
でも言わなかった。
それを言ったら、本当に止まらなくなる。
 その代わりに小さく息を吐いて、声に出す。
 
 
 
 「……早く行くぞ。」
 「おう。」
 
 
 
 2人の影が朝日に伸びていった。
小さな欠片みたいに笑い声が転がって、まだ火照りの残る身体を引きずりながら、スタジオへと向かった。
 
 
 
 
 
 END
 
 
コメント
4件
素敵な朝を、ごちそうさまでした!!
次の投稿楽しみ!