テラーノベル
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大きなホールの真ん中。
とうとう。
阿部の足が止まった。
「……っ、はぁ……。」
もう。
動けなかった。
何時間走ったのか分からない。
傷ついた足首は熱を持ち。
白いワンピースから裂いて巻いた布は、赤く染まっている。
息をするだけで胸が痛い。
足は震え。
立っているだけで精一杯だった。
それでも。
阿部は窓を見た。
「……。」
空が。
明るい。
夜が終わる。
ずっと待っていた。
何度も捕まりそうになって。
怪我をして。
怖くて。
泣きそうになって。
それでも逃げ続けた。
この瞬間のために。
「……朝。」
窓の向こう。
地平線から。
太陽が姿を見せ始める。
最初の光が。
ホールへ差し込んだ。
阿部の目に。
ほんの少しだけ希望が戻った。
朝だ。
やっと。
朝が来た。
光が床を照らす。
少しずつ。
ホールの中へ広がっていく。
阿部は目黒を見る。
「……。」
目黒は。
朝日の中に。
立っていた。
「……え?」
阿部の表情が固まる。
何も。
起きない。
目黒は消えない。
灰にもならない。
苦しんですらいない。
ただ。
少し眩しそうに目を細めただけ。
「……なんで。」
声が掠れた。
目黒が笑う。
「朝になったね。」
「……。」
「すごいね、あべちゃん。」
ゆっくり。
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#⛄️
kaede🍁
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こちらへ歩いてくる。
「本当に朝まで逃げた。」
阿部は後ろへ下がろうとする。
でも。
足が動かない。
「なんで……。」
書斎。
日記。
あそこには確かに書いてあった。
朝になると姿を消す。
太陽を嫌う。
だから。
カーテンを開けた。
だから。
ここまで逃げた。
「日記……。」
目黒が笑った。
「ああ。」
「太陽のこと?」
阿部は頷く。
目黒は朝日の中へ手を伸ばした。
白い光が。
その手を照らす。
何も起きない。
「苦手だよ。」
「……え?」
「太陽の光。」
目黒は平然と答える。
「眩しいし。」
「長い時間浴びるのは好きじゃない。」
そして。
阿部を見る。
「でも。」
笑った。
「消えないよ。」
「……。」
阿部の頭が。
真っ白になった。
「そんな……。」
「吸血鬼が太陽を浴びたら灰になるって?」
「ならないよ。」
目黒は楽しそうだった。
「あの日記。」
「フェイクだよ。」
「……え?」
その言葉だけが。
妙にはっきり聞こえた。
「フェイク……?」
「うん。」
目黒が頷く。
「鬼ごっこしてる子が書斎を見つけた時のために置いてあるの。」
「弱点が何も分からなかったら、途中で諦めちゃうでしょ?」
阿部の呼吸が止まりそうになる。
「だから。」
目黒は優しく笑う。
「希望をあげるの。」
「……。」
その瞬間。
全部。
理解した。
書斎へ辿り着いたことも。
日記を見つけたことも。
太陽が弱点だと知ったことも。
カーテンを開けて回ったことも。
ここへ逃げ込んだことも。
全部。
目黒の想定の中。
自分は。
目黒を出し抜いたつもりだった。
逃げるだけの獲物をやめたつもりだった。
違った。
最初から最後まで。
ただ。
遊ばれていただけ。
「……嘘。」
阿部の目から。
涙が落ちた。
「嘘でしょ……。」
目黒は答えない。
「俺……。」
声が震える。
「ずっと……。」
逃げた。
何時間も。
必死に。
帰りたくて。
生きたくて。
そのために。
「全部……意味なかったの……?」
目黒が阿部を見つめる。
「意味はあったよ。」
「俺はすごく楽しかった。」
「……っ。」
それは。
阿部にとって。
何の救いにもならなかった。
「嫌……。」
涙が次々と落ちる。
「帰りたい……。」
「うん。」
「帰して……。」
「それは駄目。」
目黒は静かに手を上げた。
そして。
指を鳴らす。
パチン。
「……え?」
次の瞬間。
シャッ。
シャッ。
シャッ。
ホール中のカーテンが。
一斉に閉まり始めた。
せっかく。
何時間もかけて開けた。
カーテン。
一枚。
また一枚。
閉じていく。
朝の光が。
消えていく。
「待って……。」
シャッ。
「やめて……。」
シャッ。
「お願い……。」
最後の窓。
「やめて!」
シャッ。
閉じた。
「……。」
ホールが。
再び。
暗闇に包まれた。
阿部は。
動けなかった。
もう。
何も残っていない。
太陽も。
逃げ道も。
希望も。
全部。
なくなった。
「……。」
目黒の足音が近付く。
コツ。
コツ。
阿部は逃げなかった。
違う。
逃げられなかった。
足が。
もう動かない。
頭では。
逃げろと叫んでいる。
でも。
体が言うことを聞かない。
「来ないで……。」
小さな声。
コツ。
「お願い……。」
目黒が。
目の前まで来た。
「……あべちゃん。」
腕が伸びる。
「嫌……。」
次の瞬間。
目黒の腕が。
阿部の体を包んだ。
「捕まえた。」
「……。」
その言葉で。
終わった。
阿部の手から。
ショルダーバッグが落ちる。
中から。
懐中時計が転がった。
カチ。
カチ。
カチ。
朝を迎えている。
それなのに。
自分は。
逃げ切れなかった。
「……俺の。」
阿部の唇が震える。
「負け……?」
「うん。」
目黒は優しく答えた。
「あべちゃんの負け。」
「……。」
完全に。
負けた。
もう。
帰れない。
この屋敷から。
逃げられない。
日記で見た。
あの女性たちと同じ。
いや。
目黒は言っていた。
今までで。
自分が一番好きだと。
それが何を意味するのか。
考えたくなかった。
「……っ。」
涙が頬を伝う。
目黒の指が。
その涙をそっと拭った。
「あべちゃん。」
「……。」
「いっぱい頑張ったね。」
褒めるような声。
それが。
怖かった。
「本当に楽しかった。」
阿部は何も言えない。
目黒の顔が近付く。
逃げようと思っても。
もう。
体には力が残っていない。
唇が重なった。
「……っ。」
深く長い。
逃げることすらできないまま。
目黒に抱き締められている。
ようやく離れた時。
阿部は。
声すら出せなかった。
ただ。
涙だけが落ちていく。
目黒はそんな阿部を見て。
満足そうに微笑んだ。
そして。
阿部の髪をゆっくり退かす。
首筋が露わになる。
「……。」
阿部は何をされるのか。
分かっていた。
「嫌……。」
やっと出た声は。
あまりにも小さかった。
目黒の腕に力が入る。
逃げられない。
「約束だから。」
「……。」
「捕まったら。」
目黒の唇が。
阿部の首筋へ触れた。
「もう逃げられないよ。」
「……っ。」
鋭い牙が。
首筋へ触れる。
その瞬間。
阿部は目を閉じた。
逃げる力も。
抵抗する力も。
助けを呼ぶ声も。
もう残っていなかった。
朝は。
ちゃんと来た。
太陽も昇った。
自分は最後まで逃げた。
それでも。
何一つ。
自分を助けてはくれなかった。
そして。
目黒の牙が。
阿部の首筋に立てられた。
暗く閉ざされたホールに。
阿部の小さな息だけが響く。
床へ落ちた懐中時計は。
もう意味のない時間を。
カチ。
カチ。
カチ。
と。
いつまでも刻み続けていた。
___________
メンバー全員で映画館に集まり、無事に本編を見終えた。
スクリーンにはエンドロールが流れている。
誰も喋らない。
そして。
エンドロールが終わり、館内が明るくなった。
それでも。
誰一人、席を立たなかった。
阿部は不思議そうに周りを見る。
「……どうだった?」
隣で目黒も振り返る。
「面白かった?」
誰も答えない。
佐久間がゆっくり阿部を見る。
「あべちゃん……」
「うん。」
「怖かった……」
「映画だからね。」
「そうじゃなくて。」
佐久間は今度は目黒を見る。
「蓮が。」
「俺?」
「怖すぎる。」
深澤も頷いた。
「俺、途中からめめの顔見られなくなった。」
「なんで?」
「だってお前、普段その顔であべちゃん見てんじゃん。」
「全然違うでしょ。」
「分かってるよ!」
渡辺が呆然とスクリーンを見ながら呟く。
「俺さ。」
「うん。」
「前回の映画も映画館で見たじゃん。」
「ああ。」
「あの時のお前ら、めちゃくちゃ純愛してなかった?」
宮舘も静かに頷く。
「してたね。」
「キスするだけで観客泣かせてたよな?」
「うん。」
「今回。」
渡辺は目黒を指差した。
「あべちゃん食おうとしてたぞ。」
「吸血鬼だから。」
「そういう問題じゃねぇ。」
康二が頭を抱える。
「ギャップえぐいって。」
岩本も苦笑する。
「同じ二人が主演とは思えなかった。」
ラウールだけは少し楽しそうだった。
「でも二人とも演技すごかったよ。」
「ありがとう。」
阿部が嬉しそうに笑う。
すると佐久間が言った。
「特にあべちゃん。」
「俺?」
「後半ずっと可哀想。」
「役だから。」
「足怪我して、泣いて、絶望して、最後食われる。」
「食われてないよ。ちょっと吸われただけ。」
「その言い方やめて!」
全員が一斉に突っ込んだ。
目黒が笑いながら阿部を見る。
「俺は楽しかったよ。」
「俺も楽しかった。」
「……」
再びメンバーが黙る。
深澤が二人を見比べた。
「お前らが一番怖いわ。」
「なんで?」
本気で分かっていない顔をする二人に。
公開初日。
メンバー全員がもう一度、静かに引いた。
コメント
4件
本当の映画を観てるようでした! 怖い🖤すごく好きです😭

一気に読みました。 ドキドキした。計算尽くされて居るのが怖かった。メンバーに散々言われても2人が🖤💚笑顔で楽しかったと言って居るのだからそれで良いのかな。 次の作品楽しみに待っています♪
滅茶苦茶怖いホラーで無くて良かった😭 でも俳優🖤と俳優💚の共演作品現実ではどんな作品が良いのか?今のメンバーで何かやってくれないかな? デビュー前6人の頃映画出てたけど、あの頃よりみんな演技力、表現力、そして9人での作品が観たい