テラーノベル
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「……ふふっ」
「あ、ごめん! 勝手に決めて嫌やった?」
「ううん。その子との大事な時間に、俺も入れてくれるんが嬉しいわ」
心から笑みが溢れて、目の前にあるとびきり苦いブラックコーヒーを口に運ぶ。
結局、恋愛ドラマによくあるモブの役回りなんて、こんなもんなんやろう。協調性もなければ個性もない。俺にピッタリの役やな。
「……俺、ほんまにもとちゃんがおって助かってるよ。もとちゃんは、このグループで……いや、俺が出会った中で1番優しい人やから」
……1番優しい?え、恋人の空を置いて俺が1番に躍り出たの何!?え、2人の恋物語に起伏を持たせようと俺を巻き込もうとしてる!?
「……ありがとう。はんちゃんにそんな事言われるのが1番嬉しい。で、……いつかは決まってるん? 忘れんようにメモしとくわ」
勘繰っているのがバレないように無理やり話を促す。このままはんちゃんの何らかの策略に乗ってみるのも面白いかもしれん。平凡な人生の中で、たまにはこういう事も楽しいかもな。
「……旅行、とか大丈夫かな? 俺ら土日休みやし、来月くらいにちょっと遠出してもええかなって」
「旅行!? ……確かにそれは、二人きりで行ったらあかんわ。嫌や言うても、俺がついていく」
これは又大胆な行動にでたな。そんな事より俺の大事な親友二人の仲に、ヒビが入るような真似はさせられへん。そんなことになったら、俺が身を引いた意味がなくなってまうからな。
「ふふっ、ありがとう。くうちゃんも安心するわ」
そんな無邪気に笑ってるけどな、はんちゃん。俺、高校の時から空とは結構エグい下ネタ話してきた仲やからな? 下手したら、そのポエムの子より俺の方が不安要素としてデカいかもしれんで。もし空に却下されたら、そん時はごめんな。
「それはええねんけど……空は、休みの日に出かけたりして寂しがらんの?」
「うん。俺ら家近いし、毎日会えるしな。それに、あんまりくっつきすぎると二人の世界だけになっちゃうやろ? それはあんまり良くないと思うんよ。俺もくうちゃんも、のめり込んだらそのことしか考えられへんくなるタイプやから」
そっか。付き合い始めやからこそ、ずっと仲良くいたいなら、そういう距離感も大事にしていかなあかんねんな。
……あかん、久々に「恋愛」について真面目に考えたら、頭がしんどくなってきたわ。
「やっほ、もとちゃん」
「え? 空、わざわざお迎え?」
「そ、はんちゃんがどうしても来て欲しいって言うから」
「違うよ、くうちゃんが久々にもとちゃんに会いたいって言ったんやん」
「え?」
突然カフェに現れて、当たり前のように、はんちゃんの隣に座る空。
……ん? 元々ははんちゃん一人と会う予定やったよな?
じゃあ、さっきLINEで呼び出したって事か。
そしたら、「空が俺に会いたい」ってのは怪しいな。こないだお見舞い行った時は秒で追い返されたし。
「ちゃうよ。俺のはんちゃんにセクハラしてないか見に来たんや」
「ほんま、くうちゃんは素直じゃないなぁ」
はんちゃんは笑ってるけど、結局なにが本音なんかわからん。
俺は二人の顔を交互に見ながら、キョロキョロしてしまう。
でも、結局はんちゃんにべったりな空を見ていると旅行の話なんて、絶対却下やろな……。
「……はんちゃん、さっきの話やけど」
はんちゃんのタイミングもあるやろうし、もし空にまだ話してなかったら、ここで切り出すのはマズい。
そう思って、思わず言葉を止めた。
「うん、大丈夫。くうちゃん知ってるから」
「え!? じゃあ、俺が一緒に行くの認めてるってこと!?」
「そうやで? なんやかんや言うても、くうちゃんはもとちゃんのこと信頼してるもんな?」
空は恥ずかしいんか、必死でメニューを凝視して聞こえへんふりをしてる。
けど、耳が真っ赤になってるし、絶対聞こえてる。 これ、完全に照れてるやろ。
「……そうなん? 空」
結局、この話に空も乗ったってことやねんな。
直接それを伝えに来てくれたってことか。
ちょっとからかい半分に聞いてみたら、空がスッとした目で俺を見てきた。
「……もとちゃんが、はんちゃんのこと親友として大切に思ってくれてんのは知ってるからな」
一瞬、言葉が詰まる。
空は、真っ赤な耳のまま、真っ直ぐに俺を見据えて言い放った。
「お前、全力で俺のハニーちゃんを守れよ」
なんや、偉そうに言いながら顔真っ赤やん。
いつも俺のことからかって馬鹿にしてばっかりやったのに、心の底ではちゃんと信頼してくれとったんやな。
「ふふっ、わかった。はんちゃんが友達と楽しめるように、親友の俺が一肌脱ぎますわ」
「違うよ!もとちゃんも一緒に楽しむんやで?」
ほら、もうはんちゃんてば。
空の前でもそんなこと言うて。
胸キュンしてまうやろ、このカップル二人ともに!
「あーもう、2人とも大好き!」
思わず本音が漏れると、はんちゃんが嬉しそうに声を弾ませた。
「ふふっ、やって、くうちゃん」
はんちゃんがそのまま、隣の空を覗き込む。
「……きもー」
空はそっけなく吐き捨てたけど、手元のメニューを持つ指先が少し震えてるし、何より口元のニヤニヤが隠せてない。俺、子供の時から空のそういうとこ可愛くて好きやったな。
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