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「……そうだ」と、買っておいたキャンドルのことを思い出した。
「天窓デッキへ行ってもいいですか?」
尋ねると、「どうぞ」と彼は頷いて、
「それでは、私はケーキを仕上げておきますので」
と、キッチンに立って行った。
買ったアロマキャンドルを抱えて、天窓デッキへ上がる。
雪空のため星は見えなかったけれど、大きなガラス窓に映し出された雪は、まるで白い花弁が一面に舞うような絶景を見せていた。
雪明かりの中に、一つ一つキャンドルを灯していく。
いくつものキャンドルを点けると、炎が揺らめいて硝子に煌々と反射して輝いた。
出来上がったケーキとワインボトルを携えてデッキに上がってきた彼が、
「これを内緒にしていたんですか、美しいですね…」
と、目を細めて柔らかに微笑んだ。
「綺麗で、いい夜で……」
キャンドルを見つめる彼の瞳の中にも、炎が宿り揺らめいて映る。
ソファーに背中をもたせかける彼の隣に、足を横に折り寄り添った。
「ケーキも、美味しそう…」
絞り出されたホイップクリームが繊細な模様を形作っていて、本当にこの人の器用さには驚きしかないと感じる。
「先に、ケーキを食べますか?」
そう尋ねられて、
「そういえば、ケーキにワインって、合うんですか?」
つい気になったことを問いかけると、
「飲み合わせてみますか?」
グラスにワインを注ぎつつ、彼から返された。
一口を飲んでみると、
「どうですか?」
と、彼に首を傾げて訊かれた。
甘く軽めな口あたりに、「ケーキにも合いそうですね」と返すと、
「これはデザートワインなので、やはりアントルメとは相性がいいようですね」
と、彼が話して、「デザートワイン? アントルメ?」と、頭に疑問符が浮かんだ。
「デザートワインは、国によって解釈の違いもありますが、文字通りデザートにも合いやすい甘口のワインのことで、アントルメとはフランス語でデザートのことです」
ワインを飲んで言うのに、いつもながらの博識ぶりに魅了される。
ケーキを切り分けて、
「先生、はい…」
お皿に乗せて渡そうとして、
「食べさせてあげる…」
ふと、完璧ないつもの姿とは違う彼が見たくなって、ケーキを刺したフォークを口元に差し出すと、
「……いいですから、そんなことは……」
と、照れたように目が逸らされた。
「ダメ…ねぇ、口開けて……」
「……。……仕方ないですね」
苦笑して開けられた口に、フォークをそっと差し入れた。
「クリーム、付いてる…」
口の端のクリームに、唇を寄せると、
「そんな風にされたら、もっとしたくなる…」
チュッとキスが返る。
「して…もっと、甘いの…」
「もっと、甘いのを…?」
顔を迫らせた彼が、つとメガネを外して、艶のある眼差しでじっと私を見つめた……。