背後からお店の扉が閉まる音が聞こえる。
外に出てから初めて息を吸い込むと春の夜独特の匂いが鼻に届いた。
冬の澄んだ空気よりは重く、夏の湿気を含んだ空気よりは軽い、なんとも表現し辛い匂い。
そこで本格的な春の訪れたを感じた。僕たちは階段を降りる。
「隣にあるって言ってた?」
鹿島がそう聞いてきた。
「あぁ、そう言ってたね?」
「隣って隣?」
そう言って隣を見る鹿島。僕も鹿島に釣られて隣を見てみた。すると隣は7階建てのビルで
ビルの入り口付近に看板があり4階から7階までがカラオケ店となっていた。
「あぁ隣だな」
「隣だわ」
まさかの本当に真隣なことに面食らい、ビルの中のエレベーターにみんなで入った。
エレベーターは5人が入ってもギュウギュウになることはなく、そこそこの広さがあった。
エレベーターに入り、とりあえず4階を押した。エレベーターの扉が閉まり、動き出した。
エレベーターの中の空気が下方に圧縮されたような
重力に頭を押さえられているような上からの圧迫感に襲われる。
その圧迫感が薄まったと思ったら、ボタンの光が消えエレベーターの扉が開いた。
エレベーターの扉が開くとすごく薄っすらと曲が聴こえてきた。
僕は開くボタンを押し続け、全員が外に出た後にエレベーターから出た。
先頭にいた鹿島が透明な扉を押し開けると
先程まで薄っすらと聞こえていた曲のボリュームが一気に大きくなって襲いかかってきた。
中に入ると正面に受付らしきカウンターがあり、僕らと同じ歳くらいの男性の店員さんが
「いらっしゃいませ」
と丁寧に迎え入れてくれた。偏見だがこのくらいの時間のカラオケの店員さんは
もっとやる気なさそうなイメージだったのでなぜか勝手に良いお店な気がした。
「何名様のご利用でしょうか?」
店員さんのその問いに
「5人です!」
元気良く答える鹿島。
「5名様。はい。ご利用時間はどうされますか?」
そう質問された。僕はスマホの電源を入れ今の時刻を見ながら
「皆さん終電何時かわかります?」
そう聞くと
「たぶん12時半とかですかね?」
妃馬さんが答える。
「あ、たぶん僕も同じくらいかと」
俊くんも終電は12時半くらいらしい。そして僕は店員さんに
「すいません、これって2時間で途中で帰るってことできますか?」
そう聞くと
「はい。できますよただ、料金は2時間分の料金となってしまいます」
「あ、じゃあ2時間でお願いします。たぶん途中で帰ると思うので」
「あ、はい。かしこまりました。2時間ですねぇ〜」
そう言いながら店員さんは手元のタブレットを操作する。
「えぇお飲み物などはどういたしましょう?」
僕はみんなに向かって
「2時間だし終電で解散にしようと思っているので飲み放題は付けないで
各々飲みたくなったら頼むって形でいいですかね?」
そう聞くとみんな各々
「はーい!」
「わかりました」
「いいんじゃん?」
「それがいいと思います」
と賛成の意思を示してくれた。
「この場合ってー?」
と店員さんに聞いてみると
「そうですね。ここで決めていただくか
お部屋にご案内した後でお部屋からお電話で注文していただくかになりますね」
「じゃあ、部屋でゆっくり決めさせていただいてもいいですか」
と言うと店員さんは笑顔で
「もちろんです。それではお部屋なんですが6階になります。
お手数ですがそちらのエレベーターでは行けずですね。
こちらのエレベーターをお使いいただいて6階へ行っていただきます。
部屋番号なんですが605番のお部屋でお願いします」
僕も笑顔で
「ありがとうございます」
と言って先程とは別のカラオケ店の中にあるエレベーターに乗り込む。
先程のエレベーターと違い今度は5人も乗ると肩と肩が触れ合うほどの狭さだった。
そのエレベーターでもまた上からの圧迫感に襲われながら6階にたどり着いた。
エレベーターが開くと目の前に廊下が広がり、1番奥にはトイレのマークがあった。
廊下を進むと右手に601番の部屋があり、左手に廊下が現れた。
廊下を挟んでトイレの方向には602番と603番の部屋があった。
廊下の方向に折れると左手に604番があり、右手に僕たちの部屋605番の部屋があった。
扉は開け放たれていて鹿島を先頭に、みんなが部屋に入り僕が最後に部屋に入り扉を閉めた。カラオケ店の部屋独特の感じ。
きっと使用後に店員さんか、このカラオケ店で働いてる誰かが清掃をし
消臭スプレーをしたのか、さほど匂いという匂いはなく、でも空気はもったりした感じ。
そんな空気感を味わう中、みんなは各々上着をハンガーにかけたり
メニューを見たりスマホを見たりしていた。スマホをいじる鹿島の横に座り
「終電何時だったー?」
と終電を確認してる前提で聞いてみた。
「おおん。12時40分頃だから…ここ25分くらいに出れば間に合うな」
「そっか。オレのは何時?」
鹿島とは乗る線が違うので
鹿島が自分の終電を調べているついでに僕の終電も調べてもらおうと聞いてみた。
「あぁ、怜ちゃんはぁ〜」
そう言いスマホをいじる鹿島。
「あ、そうだ。姫冬ちゃん何線?」
そうメニューを見る姫冬ちゃんに聞いてみた。
「あっ、そうだ。終電!えっと私は井の蛙線です」
「あ、オレと同じだ。妃馬さんは?」
自分の上着と姫冬ちゃんの上着をハンガーにかけていた妃馬さんが振り返り
「あ、姫冬と同じです」
と言う。
「あ、そうなんですね」
「俊くんは?」と聞こうと俊くんを見るとスマホをポケットにしまうところだった。
恐らくもう自分の終電の時間を確認し終えたのだろう。そう思い
「俊くん終電何時だった?」
そう聞くと
「僕はだいたい12半とかでしたね」
「なるほど」
12時10分くらいにはここ出たほうがいいかなどと考えていると
「怜ちゃんーたちはまぁだいたい12時半だね」
と調べてくれた鹿島が教えてくれた。
「じゃあここ12時10分か、遅くても15分には出ないとですね」
そう言うとみんなそれぞれ
「短いですね…仕方ないですけど…」
「とりあえず飲み物頼みましょう」
「全員1曲歌って2周目行けるかどうかくらいだね」
「そうですね。じゃあとりあえず山笠くんの言う通り、飲み物頼んじゃいましょう」
と言った。そして全員でメニューを囲み、それぞれ飲み物を決めた。
すると電話の1番近くにいた妃馬さんが立ち、壁に設置された電話の受話器を取り
「あ、すいません。えぇーとオレンジジュース2つと
ユーライトとレモンサワーとカシスオレンジをお願いします。はい。お願いします」
と注文をしてくれた。電話を受話器を元に戻した。
受話器を戻したガチャッっという音と共に振り返る妃馬さんに
「ありがとうございます」
と感謝の意伝えた。すると他のみんなも
「ありがとぉ〜」
「ありがとうございます」
「ありがとね!」
と感謝の意を伝えた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!