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「リクは意識はないのに、手足だけがビクビクと動いていた。薄ら開いた目は左右、ずっと魚みたいに動いていた。弟君がびくりと体を動かすと、体に繋がれたチューブ。それに沢山の点滴のガラス瓶に満たされた赤い液体が、ガチャリと揺れていた。その光景は大変不気味だったから今でもよく覚えてる」
「俺には、あれで陸が生きているとは思えなかった。《《生かされている》》。ただそこに在るだけだった」
蒼波様の苦々しい声。さらには絡めた指先に力が籠るのを感じて、心が苦しくなる。
その一方で頭は勝手に思考を始める。
──意識はないのに動く手足に眼球。
これはいわゆる超昏睡状態に陥る前ではないか。
通常、超昏睡状態になるとあらゆる刺激に対して全く反応がなくなる。
徐々に体の機能も低下して自発呼吸も消失。そのまま回復の見込もなく死にいたる前の状態……
それが超昏睡状態。
陸君の容体はその一歩手前で……なんらかの方法で超昏睡状態を維持されていた──?
ゾッとする考えに、まだ早計だと頭を振る。
それ以外に、私の知識で何らかの情報を得られたら蒼波様の心を癒せるかも知れない。お役に立ちたい一心でクリス様に口早に尋ねる。
「クリス様。点滴のガラス瓶には薬品名とか、なにか書かれていましたか?」
「──マルと書かれていたかな」
「マル? それは円のマルですか?」
「そう。丸バツの丸。それがガラス瓶に書かれていた。今も赤い液体がなんの薬からわからないが、僕はねっとりとしていて、血のようだと思った」
ガラス瓶に入った赤い液体。
そこに書かれたマル印。
血のような液体。
バラバラになった欠片が私の中で積み上がり、刹那、あることに気が付いた!
「赤い液体……血……それはまさか『輸血』ではありませんか!?」
がばりと思わず身を乗り出してしまった。
「ゆけつ? あまり聞いたことがない単語だな」
クリス様は「チヒロは?」と、視線を差し向けたが蒼波様も「知らないな」と言った。
「輸血とは失われた血を体外から取り入れる方法です。とてもとても特別な最先端治療です。丸い印はきっと、血液型の『O型』です! そんな最新治療を……」
血液型とは人間の血の種類だと簡単に伝えた。
しかし、私の思い至った言葉にお二人は知らないといった素振りで首を傾げた。
無理もない。輸血も血液型もまだまだ世間には知られてない、最新の医療技術。論文で読んだだけの、私もまだまだ未知の分野である。
しかも直接輸血ではなくて、ガラス瓶を使用しての輸血なんて……聞いたことがない。
例えガラス瓶の中身が血でもなくとも、血のような赤い点滴液など私の知識にはない。
いったいどんな治療をしていたというのか。
これは異常治療ではないか。
決して真っ当な治療方法ではないだろうと、胸がドキドキしたが、これ以上の憶測は良くないと思った。正確な情報、状況がこの場ではこれ以上、把握するのは難しいだろう。
このことはしっかりと胸に留めて、今は高鳴る動悸を抑えた。
コメント
1件
第35話、読ませていただきました。 「生かされている」という蒼波様の言葉が胸に刺さりますね…。意識はないのに動く手足、眼球、そしてあの赤い液体。主人公が「輸血」に気づく瞬間のゾワっとした感覚、すごく伝わってきました。まだ血液型すら一般的じゃない時代設定なのに、ガラス瓶で輸血を施す治療…それって逆に何かを意図的に隠している感じがして、不気味さが増します。続きが気になります!