暑い14歳の夏の日だった。
「兄さん!!しっかりして!!兄さん!!」
ああ、どうして。 こんな事を
したかった訳じゃないのに。
周りの大人たちが救急車を呼び、
暫くして救急車が来ると兄さんは
運ばれて言った。僕も一緒にその中に乗って
兄さんに呼びかける。
僕がいけなかったんだ。
僕がもっと大きな声で注意していたら、
兄さんは……。
病院に着き、兄さんは手術室へ運ばれて
行った。僕はその間、待合室でじっと
兄さんを待つ。
その時間が、人生で1番長く感じた。
長い手術が終わり、無事兄さんは
命を取りとめた。その瞬間、どっと
一気に安心し、床に倒れ込んだ。
暫くして仕事中だった両親も病院に
着き、僕と兄さんを心配した。
兄さんは無事に手術が終わったあと、
308号室の病室に眠っていると
病院の人から聞いた。
僕と両親は急いでその場へ向かい、ドアを
開く。
「っ、……にぃ、さん、」
その姿は、見るも無惨な姿だった。
頭には包帯がぐるぐると巻かれていて、
車に轢かれたせいで左腕も無くなっていた。
そっと僕は兄さんに近づいて、兄さんの
呼吸を確かめる。
……生きてはいるけれど、やっぱり少し
弱っていた。心が苦しい。
病院の人が言った。命は取りとめたけど
いつ 起きるのか分からない。と。
これは僕のせいなんだ。僕がちゃんと
兄さんに注意しなかったから。無能だった
から。あんな揉め事しなければ、
兄さんは車に轢かれずにすんだのに。
「……ごめんね無一郎。お母さんと
お父さんはこれから行かなくちゃいけない
所があるの。ともかく、有一郎の命が
あってよかったわ。悪いけれど、様子を
見ててくれる?」
「………………わかった」
お母さんとお父さんは、無理やり笑顔を
貼り付けて、僕にまたねと言った。
「ねぇ、兄さん。起きてよ、」
反応はない。
「……っ、、、、」
それから1ヶ月。兄さんは一日たりとも
欠かさず呼びかけたけど、兄さんが
目を覚ますことは なかった。
でもある日。
「……っ、、!兄さん!?」
「む、ぃちろ…………」
ある日突然。兄さんが目を覚まして、
1ヶ月ぶりに僕の名前を呼んだ。
「!!!兄さん!!!!!」
僕は嬉しくて思わず抱きついた。
「ゃ、めろ……ぉ、もい」
「………ぇへへ、」
「ぉれ、……生きてる、のか?」
「生きてるよ」
「…………そうか」
「……ごめんなさい。兄さん、僕があの時
ちゃんと注意しなかったから、。ぼくが
あの日、あんなことしなければ、……」
「……………………、」
約1ヶ月前の夏休み。僕と兄さんは買い物に
行っていた。
「お店の中は涼しいね。」
「……そうだな」
その時、兄さんに話しかける人達が
こちらに集まってきた。
「お、有一郎じゃねぇか。久しぶり」
「なんだ、お前か……。」
「初めまして~!こんにちは。」
数人いる男の中に1人、ある女性がいた
のだ。
「あ、えーっと、この人は? 」
「隣のクラスの斉藤さん。有一郎に
恋してるとかしてないとか~?笑」
「ちょ、ちょっと言わないでよ!
恥ずかしいから、……!」
周りの人達はみんなにやにやして斉藤さんを
見ていた。
……あぁ、まただ。また僕は大きな嫉妬に
包まれてしまった。僕は物心着いた時から
嫉妬心が強い。兄さんに近づく奴は、
男でも女でも関係なく、全員嫉妬対象だ。
兄さんは友達が多い。それに比べて僕は
友達が誰一人もいない。何故なら兄さんだけ
で十分だから。なのになんで兄さんは
友達をこんなに作っているの?
こんなの、おかしい。
僕は斉藤の目の前に立った。
「僕の兄さんに触らないで」
「……え?」
その時、周りがざわついた。
「お、おい……、また弟だぞ、」
「どういう事だよ?」
「ほら、よく噂になってる。兄さんが
大好き過ぎて嫉妬心が強い奴だよ」
「あぁ、知ってる」
「ねぇ、ちょっと。聞いてるの?
斉藤さん。他の周りのみんなも何で僕の
兄さんに近づくの?」
「お、おい!無一郎やめろ、周りの人に
迷惑だろ!!!」
兄さんは何故か周りのことを気にしていた。
「……?ま、いいや。だからさ、僕と
兄さんの時間、邪魔しないでくれるかな?
行こ、兄さん」
僕は兄さんの手を繋ぎその場を去ろうと
した。
「待ってよ!!!」
斉藤が大きな声で言う。僕はそっと後ろを
向いた。
「ゆ、ういちろうくんは、貴方のもの
なんかじゃない!!皆のものだよ!」
こいつは何を言っているのだろう、と
思った。僕のものなのに、哀れだなぁ。
僕はもう一度そいつに近づいて、
思いっきりビンタした。
すると、大袈裟なぐらいに齋藤は尻もちを
着き、痛そうな顔をした。僕はそれが
快感で、上から見下ろした。
「無一郎!!!何やってるんだよ!!!」
兄さんが大きな声で叫ぶ。
どうして?どうしてなの?どうして
兄さんはその汚い女を助けるの?
「おい、大丈夫か?」
斉藤は泣いていた。
それを慰めるように兄さんは駆けつける。
「無一郎!!!謝れ!!」
「……どうして?僕はそいつに躾した
だけだよ。僕は悪くない」
「な、なぁ有一郎、このことは俺たちが
何とかしてやるから、先帰ってろ」
「え、?あ、あぁ、……、ありがとう」
「気にすんなよ!!また学校で会おうぜ」
「……あぁ、またな。」
*
その帰り道。ぼくはいつも通り2人で
横になって帰った。
「はぁー、疲れたね。」
「……」
「早く家に帰りたいな。今日のご飯は
なんだろう」
「……」
兄さんは何も言わなかった。一瞬、
疲れているのかなと思って、僕はそのまま
話を続けた。
「それより、本当に暑いね。アイス
買ってくればよかった」
「……」
「…兄さん、、?どうしたの」
「………………よ」
「え?」
「なんでそんなに呑気で居られるんだよ!!」
「に、兄さん……?」
「なんで女の子にビンタしたんだよ!!
ありえないだろ!!!しかもなんだよ
僕の兄さんって、ふざけるのも大概に
しろ!!!」
僕は目を開く。
「な、んで……そんなこと言うの?
僕は兄さんを守ってあげたんだよ。
汚い奴から兄を守ることは普通でしょ?」
「あぁ、もう!!お前は昔からそうだよな。
少しズレてるんだよお前は!!兄弟なのに
キスしようとしてきたり、手をつなごうと
してきたり、友達と話してるだけで
うんたらかんたらいわれたり、もう
疲れたんだよ!!!」
「それは……、、!!僕は兄さんの事が
すきだから、愛してるから……!」
「そうかよ!!!俺はお前の事なんて
死ぬほど嫌いだけどな!!!!!!!」
その瞬間、時間が止まったように思えた。
「どう、して……?酷いよ、兄さん」
兄さんは僕を睨みつけ、そのまま信号を
渡る。
(あれ、兄さん、信号が赤なこと、
気づいてない……?)
だめ、いかないで。だめ、
まだ話したいことがあるのに。
僕は大声を出して手を伸ばした。
「待って!!!兄さん!!!!!」
兄さんは後ろを振り向く。
でも、もう遅かった。
ドン、という大きな音と同時に、兄さんは
その場で引かれた。
「ごめっ、んなさぃ……、僕、そんな
つもりじゃなかった、のに、ごめ、」
「……謝るなよ」
「でっ、でも、僕、のせいで兄さんは、
こんな事になったから、……。
ごめんなさ………………ぃ、」
「…悪いのはお前だけじゃないだろ」
「え、?」
「…、お前の気持ちに気づかなかった
俺も悪い、から。そんなに自分を
責めるなよ」
「でも……!!僕、が、あの子に酷いこと
したから、兄さんは怒って、それで、…
ぼく、悪いことしかしてない、なぁ、」
「…………」
「僕以外の人と話すのが、苦しかったんだ
僕だけのものなのに、なんで兄さんは
いつも他の人とも仲良くするんだろうって
思ってた。分かってるよ、そんなこと
思っちゃいけないなんて。でも……!
感情にはどうしても、逆らえなかった。 」
「むいちろ、……」
「…………もう、兄さんに引っ付くのも
嫉妬するのも辞めるよ。ごめんなさい、
これからはちゃんと我慢するから、
いい子にするから、……」
その瞬間、兄さんは僕に手を出した。
あぁ、殴られるんだな。と思った時、
身体全体が暖かくなるのを感じた。
「え、兄さん……?」
僕は兄さんに抱きしめられて、意味が
分からなかった。
「…だから、もうそんなこと言うなよ、
……俺、は、お前に我慢してほしくなんか
ない。それに、今までひっつき虫だった
のも、嫌じゃないから、」
「でも兄さん怒ってた、。」
「……、時と場合を考えろって言ってる
んだ、もうするなとは言ってないだろ」
「ぇ、……また、ひっついたり嫉妬したり
してもいいの、?」
「……嫉妬しすぎるのは勘弁だけどな」
「……っ兄さん!!!!」
僕は兄さんを抱き返した。
「……ありが、とう。」
「………………… 」
3ヶ月後。完全に復活した後、病院で
兄さんはリハビリをし、その2ヶ月後に
家に帰っていいと言われた。
「兄さんおかえり!!!」
「……ただいま。」
「…左腕、大丈夫?」
「……なんとかな。最初はすごい
ショックだったが、今はリハビリの
おかけでもう慣れた。」
「兄さんは凄いや!!……」
「……あまり自分を責めるなよ。
顔に出てる。俺が左腕を失ったのは
お前のせいじゃない。」
「、バレてたんだ」
「何年一緒にいると思ってるんだ。」
「ぁはは……、そうだね。」
僕たちはあの日。兄さんが目を覚めた日
から付き合った。
実は兄さんも好きだったらしいが、
そんなことは思っちゃいけないと思い
今までずっと目を逸らし続けていたらしい。
そんなしっかりした兄さんに僕は
惚れたんだ。左腕はなくなってしまって
生活が不自由になってしまったけど、
僕が兄さんを支えればきっと大丈夫。
1人で何とかしがちな兄さんは、支えられて
少し申し訳ないと思っているらしいけど、
僕は全く迷惑とかそういうのは無い。
むしろ、兄さんに頼られて嬉しい。
昔は全然僕に頼ってくれなかったから、
最近は頼られていることが凄く嬉しいのだ。
そろそろ気づいて欲しいんだけどなぁ。
僕たちは今まで通り、2人でひとつ。
あのことがあってからよくなにか事件が
あれば話し合うようになったし、横断歩道
もしっかり気をつけるようになった。
僕たちはこれからもずっと一緒。
コメント
2件
どっちも可哀想····· でも付き合えて良かったねー!
大切な人が事故にあっちゃったりしたら自分を攻めちゃうのわかるよ😢有一郎くん女の子を大切にしてるの好きすぎる😖無一郎くんも何があっても自分を責めちゃダメだよ