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グニーヴ城の地下は無機的な石の壁に囲まれた、一種の地下迷宮感があった。暗く、明かりがないと闇に閉ざされた空間は、すでに重苦しい雰囲気に満ちていた。

私自身、まだ魔の森がどんなものか目にしていない。けれど、瘴気に汚染された魔石が山のようにあると聞いただけに、どこかアンデッドが現れそうな薄ら寒い気配を感じるのだった。

そして貯蔵庫へ到着。重々しい鉄の扉を開くと、そこには石の山があった。


「うっ……」


何か黒い。アルフレドが手袋をはめて、すぐそこに敷き詰められるかように置かれているそれのひとつを取った。


「これが汚染された闇の魔石です。見ての通り、黒い石です」

「何だか嫌な魔力のようなものをまとっていますね」


私は見たままを口にした。


「これが瘴気ですか?」

「見えますか。私どもでは、うっすら見えるかどうかの微妙なところですが」

「直接触ると危ないですか?」

「ええ、すぐではありませんが、持ち続けている火傷したように皮膚が爛れます。汚染されてしまうと、体を蝕まれていきますので、治癒魔法での治療が必要になります」


それは確かに、そのまま売ったり捨てたりはできないわね……。


「これ、放置すると魔物になるとか?」

「魔の森だと、そうなるな」


レクレス王子は言った。


「森の瘴気にあてられなければ魔物にはならない。森以外でも危ないなら、ここはとっくに魔物の巣になっていただろうな」


それだけの量がここに保管されているということだ。……この魔石の山の中に潜んでいたりしないわよね?


「では、アンジェロ。始めてください」

「わかりました」


アルフレドの手の上にある黒い石に、私は指を近づける。魔力を指先に集めて、十字を切る。


「光よ。魔を祓い、邪悪な吐息を滅せよ。浄化!」


闇の魔石を白い光が包む。レクレス王子とアルフレドは、それをじっと見つめる。しゅうぅと、ものが焼けるような音がしたのもつかの間、魔石の色が変わった。


「おおっ!」

「なんと……!」


闇色だったものが、緑に輝く翡翠のような石になったのだ。いや、まさか色まで変わるなんて!

レクレス王子は、アルフレドの手の上の魔石に触れた。


「あ、団長。素手で触れられては……」

「大丈夫だ。万が一、駄目だったら、アンジェロ、治癒魔法を頼む」

「あ、はい」


大丈夫だとは思うけど、何も王子様が率先して危ない橋を渡らなくても。


「凄いな。これは普通の魔石だぞ」

「ええ、闇の魔石ではなく、普通に見かける魔石に見えます。そんなことよりも、触っている指先は何ともないですか?」


アルフレドが不安げに眉をひそめる。


「何ともないよ。凄い。本当に」


レクレス王子は静かに興奮していた。


「ここにある闇の魔石がすべて、通常の魔石になるなら? 本当に、ここにあるのは使い道のない石ころではなく、宝石の山になる……!」


これを処分すれば、一気にレクレス王子領の財政難も吹き飛ばせる。

魔石は魔法武器や魔道具の素材などに活用される。だが入手するには魔力が多い場所での採掘か、魔獣などを倒して手に入れるしか方法はなく、世間では値が張る代物だ。


しかし――これだけ山になっている闇の魔石を一個一個浄化するのは、魔力がいくらあっても足りない。

せっかく、山ほど闇の魔石があるのに……。

私が悩んでいると、アルフレドも気づいたようだった。


「これをまとめて浄化はできますか?」

「いま、それを考えていました」


ひとつずつ浄化していては労力の割に確保できる魔石は少なくなる。


「全体にまとめて掛けられたら楽なんですがね……」

「表面のある程度はいけるかもしれませんが、その下の魔石には届かないでしょうね……」


表面の複数個が浄化されるだけでは、多少マシではあるが、この闇の魔石の量を考えれば焼け石に水だ。

レクレス王子は手を叩いた。


「教会で神官たちが浄化した水を取り扱っているだろう?」

「聖水のことですか、団長?」


アルフレドが顎に手を当てる。

教会の司祭や神官たちが、魔を祓う聖なる水を魔法で作り出す。呪いを取り除いたり、アンデッドの魔物を撃退するのに有効だとされ使われている。


「大量の聖水を手に入れて、それをこの山に掛けてはどうだろうか? 水だから表面だけでなく隙間から奥へと浸透する」


あー、なるほど。そういう手もあるか。私は思ったが、アルフレドは即座に首を横に振った。


「いったいどれだけの聖水が必要になると思っているのですか……」


聖なる力を吹き込むだけで、相応の魔力を必要とする。この貯蔵庫の闇の魔石全部を浄化させる量の聖水を確保するのに、どれだけ教会の人員と費用が必要になるだろうか。


「ちなみに、アンジェロは聖水が作れたりは?」

「団長、アンジェロは魔法は使えても戦士ですよ。神官ではないのですから――」

「できますよ」


私は即答した。アルフレドは目を剥いた。


「できるのですか?」

「ええ。教会の方々がどうやるかは知りませんが、ボクは浄化の魔法ができますから、それを水に付与すれば瘴気を祓う聖水を作れると思います」


一般的な瓶に入れる量の聖水があれば、ひとつずつやっていくより一度に多く浄化できるだろう。……いや、瓶と言わず桶いっぱいの水なら? 食堂にある大釜だったら? たくさんの水を一度に聖水にすれば、浄化を付与する回数を節約できるだろう。

あー、でも大釜いっぱいの聖水を作っても、持ち上げて掛けるなんてできないわね。


「……ん?」


何故、大釜の聖水を掛ける必要がある? 闇の魔石のほうを釜に入れればいいのではないか? あ、まってその方法だと、魔石の出し入れは面倒だけど、聖水を作る手間が大幅に省けるわ。


「殿下、いけるかもしれません」


私は早速この思いつきをレクレス王子に告げた。


「アンジェロ、お前は天才だ!」


王子様に強く肩を掴まれる。突然なのでビックリしてしまった。

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