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「樹、悪い。今から部屋に寄っていい?」
「ああ、いいよ」
柚葉を送り届けた後、樹のマンションの地下駐車場に車を止めて、僕達は部屋に向かった。
ここは会社からも近いし、周りの環境も良く、かなり静かだ。
部屋の広さも申し分ない。窓も大きく、カーテンを開けると開放感があって心地良かった。
アメリカの狭いアパートで、質素に暮らしていた樹。日本では少しでも快適に過ごしてほしいとの思いがあってここを契約した。
家賃は自分で払うと譲らない樹に、それは任せることにした。もちろん、お金は嫌というほど持ってるだろう。
「部屋の家具とか、いろいろ揃えてくれて助かる」
「そんなの気にしなくていいよ。自由に使って。まだダンボールとかあるんだね、片付け手伝おうか?」
部屋の片隅に、先に送られていたダンボールが2、3個、無造作に置かれていた。
「このくらい後でやるからいいよ。それより座ったら?」
樹はそう言って、冷蔵庫から飲み物を出してくれた。
「お茶だけど。夕方コンビニで買った。近くにあるから便利だな」
「ああ、ありがとう。悪いな、明日から仕事なのに」
「柊は毎日仕事だろ。大丈夫か、体。気をつけろよ。お前、俺とは違って無理するタイプだからな」
ペットボトルのフタを開けて、お茶を1口飲んでから僕は答えた。
「無理はしてないよ。たぶん仕事が好きなんだろうね。苦にならないっていうか、お金もいくらあっても困らないしね」
「そんなにお金って必要か?」
「お金は大事だろ? 好きな女性がいても、お金が無ければ、結局、幸せにはできない」
「……それが柊の考え方なら、まあそれもいい。あのさ……柚葉って、本当にお前のフィアンセとしてふさわしいのか?」
「樹は、柚葉が嫌いなの?」
「別に……。ただ、柊には幸せになってもらいたいからさ」
樹の何気ない言葉が深く響いた。
同じだよ……
僕だって、樹には絶対に幸せになってもらいたいと心から思ってる。
双子で見た目が同じ樹とは、子どもの頃から何をするにも一緒だった。
言い方が多少乱暴だったり、上手く自分を表現できなくて誤解されやすい樹だったけど、それでも、良く知る友達は、みんな樹を深く信頼していた。
樹は――誰よりも人を大事に思える男なんだ。
僕も、その優しさを子ども時代からずっとキャッチしてきたからこそ、大人になっても樹が大事で仕方ない。
少し親のような気持ちもあるのか?
両親とは離れて暮らしてるから、余計にそう思うのかも知れない。
そんな弟にアメリカに行ってもらうのは心配だったけど、どうしても樹の英語力と行動力に賭けてみたかった。
そして、思った通り、素晴らしい成果を上げて、会社のために尽力してくれた。
これからは、日本で一緒に仕事ができる。
そう思うと本当にワクワクして楽しみだった。
「樹。柚葉のこと、好きになってやってくれないか? 彼女は、本当に優しくて可愛い人だから、樹にも歓迎してもらいたいんだ」