ずっと思っていた。
自分にはなんの価値もないと。
私は絵を描くのが好きだ。
幼稚園生の頃からずっと描き続けている。
ただ純粋に絵を描いていた。
でも、小学生5年生になった頃、とある感情が芽生えた。
それは『嫉妬』だ。
同じクラスの仲のいい友達。
彼女も絵を描くのが好きらしく、私の一緒にいつも絵を描いたり、談話したりしていた。
彼女の絵は凄く綺麗だった。
自分なんかよりずっと。
そしたらなんか彼女との距離がうんと遠ざかったような気がした。
彼女は私とは違う。
彼女は運動もできて友達も多くて勉強もできる。
羨ましかった。
そんな彼女が私の絵を見て言った。
「いいなぁー私もそんなに上手く描きたいな!」
私は彼女が何を言っているのかが分からなかった。
お世辞かな。
自分よりも優れているのに、なんで自分を卑下するの?
それともマウント取ってる?
とっても苛立ちを覚えた。
でも彼女は私の友達。
何も言えなかった。
友達のいない私には彼女しかいなかった。
でも彼女は私の他に友達がいて好かれている。
なんで彼女は私なんかといるんだろう。
不思議に思った。
なんでも出来る彼女と、
何も出来ない、何も取り柄のない自分。
釣り合いが取れなかった。
かけ離れていたんだ。
どんどんと離れてく彼女を追ってはまた遠ざかっていってまるで反発する磁石のようだった。
ある日私は彼女と喧嘩をした。
今までも喧嘩はしょっちゅうしてきたけど
今回はでかい喧嘩だった。
どうして喧嘩をしたのかはよく覚えてないけど
些細なことだったと思う。
どっちが悪かったんだろう。
私はそう思い、取り敢えず自分から謝った。
ごめんね。
「何が?」
無表情で答える彼女。
困惑した。
どうしてだろう。
そんな風に返されるなんて思っていなかった。
気を取り直してもう一度謝った。
ごめんね。
「だから何が?」
少し怒ったような口調になる彼女。
どうして?
なんで許してくれないの?
私が悪いんじゃないの?
謝っても「何が?」で返されてしまう。
悲しくなった。
こうなったのもきっと自分がいけなかったんだ。
そこで私は彼女へある提案をした。
「友達やめよ」
彼女の顔は揺らがなかった。
「こうなったのは私が悪かったんだと思う。
だからやめよ?貴方の考えを聞かせて?」
少しの沈黙が続いた後、彼女が口を開いた。
「貴方がそうしたいのならいいよ」
また沈黙。
「だから、私は貴方の意見が聞きたいの」
「…だから貴方がそうしたいならいいよって言ってるの」
頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。
彼女は私と友達をやめることに抵抗がなかったのだ。
すなわち『どうでもいい関係』だった。
そして悟った。
やっぱり、私とは違うんだ。
彼女は友達が沢山いる。
私一人がいなくなったところで彼女の生活は何も変わらないんだ。
なんだか心に穴が空いたような気がした。
「そっか、どうでもよかったんだね」
そんな言葉をこぼしてしまった。
それから数日後、彼女から話しかけてきた。
その内容に私は凄く苛立った。
殺したいって思った。
「ねぇー!!お願い!友達に戻ろ?ね?」
また殴られたような衝撃。
ふざけるな。ふざけるなよお前。
どの面下げてそんなこと言ってるんだ。
こっちは最初に頭下げて謝ったのに、お前はそんなふざけたことが言えるのか。
思わず汚い言葉が出そうになったが抑えた。
「やだよ。もうやめたんだから」
そう突き放した。
「えー!そんなこと言わないでさ〜戻ろ?」
うるさかった。
とってもうるさかったので
「わかった。そんなに戻りたいのなら
”仮の友達ね”」
その日から彼女とは『仮の友達』になった。
でもそんなに変わらなかった。
あの頃と同じく絵を描いたり談話したりする毎日を送っていた。
内心は
「もうこの人との関係は終わってるんだ」
いつもそんなことを考えていた。
でもなんでこんな毎日を送っているんだろう。
実は私もこの毎日を楽しんでいるんじゃないのか。そう思い始めた。
でも認めたくなかった。
なんだか自分が負けているような気がして。
そんな毎日を送ってたある日彼女はとんでもないことを私に言った。
「私が死んだら悲しんでくれる?」
今でも凄く印象に残っている。
金木犀が甘く漂っていて、鼻をくすぐるような匂いだった。
私は何も言えなかった。
考えられなかったからだ。
「……そうだよね。どうでもいいよね」
私の顔を見て何を汲み取ったのか、彼女は泣きそうな顔で言い放った。
儚い表情で言う彼女をただ見つめることしかできなかった。
自宅に帰り私は考えた。
彼女が死んだら……私はどう思うのだろうか。
悲しむのか、それとも喜ぶのか。
正直な気持ち、悲しむと思った。
でもきっとその裏には少しほっとする自分がいると思う。
途端に怖くなった。
自分はなんて最低なんだろうかと。
彼女がいない世界では結局私はドブネズミ以下の存在なのに。
彼女に助けてもらわないと生きていけないのに。
汚いことを考えてしまった自分に苛立ってしょうがなかった。
でも彼女がいなかったら、
もしかしたら私が1番になるんじゃないか?
絵も歌も勉強も運動も全部彼女の次だったものが彼女がいなくなったことで全部1番になる。
そう思った瞬間自分の中に高揚感が芽生えた。
なんて浅はかなんだろうか。
私は1番になりたかったのだ。
なにかの1番。誰かの1番に。
誰だって金メダルは嬉しい。
だけど私は金メダルを貰ったことがなかった。
その幸福感も味わったことがなかった。
彼女は、彼女はそれを毎回味わっているのだろうか。それとも飽き飽きしているのだろうか。
そんなのを味わって見たかった。
結局私は彼女のことをどう思っているのか
分からなかった。
でもそれでちょうどいいと思う。
自分の勝手な解釈で彼女との関係を築いて、
友達とは少し違う関係。
私の持っている感情は凄くドロドロしたもの。決して消えないものだと分かった。
彼女がいる限り。ね。
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