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宴のあと。月は満ちかけ、妖たちのざわめきは遠ざかった。
高い枝に腰掛けるのは、酒吞童子・いふ。
彼の隣には、夜風と共に舞い降りた烏天狗・りうら。
「……またそこで飲んでんの? 空気薄くない?」
「お前がいれば風通しは完璧だろ?」
「……はいはい。言ってろ。」
いつもの軽口。
でも今夜は、なんとなく調子が違った。
いふは瓢箪をくいっと傾けて、遠くの空を見上げる。
「……なあ、りうら。」
「ん?」
「お前、誰か好きなやついんの?」
突然の質問に、りうらの肩がびくりと動く。
「……は? なにいきなり。」
「いやー、最近周りがうるせぇからさ。ないこと初兎もさ、アレじゃん?」
「……まあ、うん。アレだな。」
「で、お前は?」
「ねぇよ、そんなの。」
「ふーん。」
そう言って、いふはりうらの方へ顔を向ける。
月明かりの下で、その目だけが妙にまっすぐだった。
「……でもさ、お前が誰かに恋したら、きっと一途なんだろうな。」
「……な、に?」
「で、ちょっと意地張って、素直になれなくて、遠回りして……」
いふの声がゆっくりと落ちていく。
「お前さ、俺のこと好きになったらどうすんの?」
「……ッ」
風が止まった。
「……は、ぁ?」
「冗談だよ?」
いつもの軽い笑み。
なのに、りうらの心臓は、ドクンと大きく鳴った。
「……うっぜ。そういうの、マジでやめろ。」
「え、怒ってんの?」
「怒ってねぇし。……ただ、紛らわしいってだけ。」
「紛らわしいってことは、少しは“本気にしかけた”ってこと?」
「………………」
りうらは口を閉ざしたまま、目をそらした。
「……バカ。」
その小さな声が、風の中に消えていった。
いふはその顔を見て、ふっと口元だけで笑う。
「……俺さ、案外お前が動揺してくれて嬉しいんだけど?」
「ほんと、バカ……!」
怒ったように羽を広げ、夜空へと飛び立つりうら。
でも、その背中は真っ赤に染まっていた。
冗談のはずだった。
でも、たった一言が心をざわつかせる。
――ずるいよ、まろ。