残暑がようやく終る頃。学校全体は文化祭に向けての準備で忙しない雰囲気につつまれていた。
「うぃっす!!準備は進んでる??」
「うん、順調だよ。」
「それ、教室に運ぶの??」
「そう。」
「持つの手伝うよ。」
「ありがとう。」
放課後の校内ですれ違った2人。上鳴は稲妻の荷物の半分を持ってB組の教室に行くことに。
「ねぇ。よかったらさ、お互いの出し物が終わったら一緒にまわらない??出店とか。」
「うん、いいよ。」
「やった!!楽しみだなぁ。」
「私も。」
「稲妻さーん。あ、上鳴君も一緒だったんだ!!」
B組の教室の前までくると、拳藤がかけよった。
「たまたますれ違って、荷物一緒に運んでくれたの。」
「そうそう。教室にスマホ忘れちゃって。」
「え、そうだったの??」
「そうだよ??」
「なんか2人とも、距離が縮まってきたみたいだね。夫婦漫才が始まりそうなやりとりで見てて楽しいよ。」
その一部始終を見ていたメンバー達が拳藤の後ろで頷いたり親指を立てたりしている。
「夫婦漫才だなんて、ねぇ、稲妻さん…!?」
稲妻は耳まで赤くしてうつ向いている。
「はい、拳藤さんこれ。」
「ありがとう。」
「じゃあ稲妻さん、またね。」
「うん、ありがとう。またね。」
顔をあげ、彼女は笑顔で答えた。
文化祭当日。2人はお互いのクラスメイトに応援の言葉をかけられて、約束していた場所にやってきた。
「待った??」
「ううん、私も今来たところ。」
手が触れそうな、絶妙な距離で歩き出す。
定番のお化け屋敷、もの作り体験に個性を使った遊びコーナーをまわり、焼きそばやチョコバナナなどのグルメを堪能した。
「上鳴君といると楽しい。嫌なこと忘れちゃうくらい。」
特設された休憩スペースのパラソルの下、稲妻はそう言って続ける。
「小学6年の時、いじめ加害者になった。和解はした。でも私は私立中学に入学したから、地元の中学に進んだ被害者の子とはそれきり。中学では逆に私が被害者になって、クラスに馴染めなくなった。部活の先輩達とも折り合いが悪くなって、それも辞めた。雄英にはね、そんな最低な自分を変えるために来たの。一から根性叩き直しに来た。」
稲妻は、大きく息を吐いてさらに。
「でもいざとなっては、誰かをまた傷つけてしまうかもとか、嫌われちゃうかもってばっか考えて、自信無くしてうつ向くようになった。訓練の時はコスチュームの力を借りてほんとの自分になりたくて必死だった…。ごめんね、これが今まで私が挙動不審だった理由。」
あの時みたいに哀しい笑顔をみせた。
「話してくれてありがとう。俺稲妻さんのこと嫌いにならないよ。今までの過去は変えれないし、当時の稲妻さんのこと全然知らないけど、十分変わったと思うよ。根性も俺よりずっとある。」
「上鳴君がいたから。」
「俺はきっかけになっただけ。嫌ならずっと拒絶してたはずだよ、俺のこと。」
その言葉に稲妻ははっとさせられたようだ。
「泣いてる!?ごめんっ!!」
「違うくて、こんな挙動不審でキモい私に声かけてくれたの、びっくりしたけど嬉しかった。」
「ずっと、気になってた。似たような個性で、俺より頭冴えてて戦闘力もめっちゃあって。なのに儚げで、目が離せなかった。」
彼女の目を見て話すが、最後の言葉を言ってから恥ずかしさがこみ上げ、思わず目を逸らした。
「上鳴、いや電気君、もう1回お友達からやり直しませんか…??」
「え、いいの!?ら、雷鳴ちゃん…。」
「もちろん。もう下向いたり、言葉詰まったりしないから。」
「喜んで。」
上鳴が差し出した手をしっかりと稲妻は握った。
距離が縮まった今、友達のその先にあるものを望んでも良いのか。それはこれからゆっくり考えればいい。