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エインセルが天宇受賣命(アメノウズメ)様へのランクアップが無事(?)終わったので、予てより企てていた仏への報復計画の第一段階を進めることにした。
あれだけの仕打ちを受けて何も思わない程、俺は人間出来ていないのである。
まずは、役所に行ってエインセルの戸籍を作り直した。
戸籍はモンスター毎に一つと言う法の隙間を突いた脱法めいた真似であるが、妖精と天津神が別物なのは確定的に明らかだからオカシクないね。……欺瞞とは言ってはいけない。
とにかくこれで、業務内容に人材派遣を含む我が小野麗尾興業㈱に日本国籍を持つ、天津神、天女 宇受乃(あまめ うずの)が居る事になる、なった。
さて、まずは外務省の人事担当にアポ取って、と……もしも~し、私、小野麗尾興業㈱の代表取締役を務めております、小野麗尾 守と申しますが、現在外交官の外注業務の発注等は……え?人事課の方がお会い頂けると!?ありがとうございます!……分かりました。当日は弊社のジャンヌ・ダルクと天女宇受乃と私の3人でそちらにお伺いさせていただきます!
……勘の良い読者の皆様ならこの時点でお気づきだろう。
そう!戸籍を持たせる事で日本人扱いとなるエインセルを外交の場に放り込むという近所の公園の池にブラックバスを放り込むイタズラ程度の細やかな報復であるが、一個人として国家に出来る最大限の報復を検討した結果、これが自分にできる最大限の無血報復という結論に至ったのである!!!
尚、面接時に担当者が連れてきた現役外交官との討論の実技で、相手の人を長期休暇に追い込んだのは不幸な事故だった。
……ああ、嫌な事件だったね……
悲しい出来事があったが、これによりエインセルこと天女 宇受乃(あまめ うずの)は目出度く対フランス外交の最前線への投入が決まり、暫くは外務省勤めになる事になった。ジャンヌちゃん?同席するだけで連中の動揺を引き出せるから幸運の置物として彼女も暫くレンタル派遣という事になった。3食昼寝、おやつ付き(尚全て外務省御用達の超高級仕様)の上、しばらくしたらフランス以外の外交でも仕事をして欲しいと要請され、朝晩の送り迎えにハイヤーが着く様になった。それに伴い、日給も跳ね上がり、当初の契約の1日一人1万から、10日後には100万・300万と比例ってレベルじゃねーぞ!と言う具合に増えて行った。
どうすんだ。何で帰りの車に外務大臣が同席しているんだ。そして我が家で一緒にご飯を食べているんだ。
父さんと母さんの顔が引きつっているし、何なら俺の顔も引きつっている。
「いやぁ、突然お邪魔してご飯までご相伴に与りまして申し訳ありません。それにしても、此方の食事は東京の料亭に勝るとも劣らない味ですな。天女さんが一番美味しかった食事を聞かれた時にこの家のご飯と答えられた時は、そんなまさかと思いましたが、この味ならば納得です。失礼ながらお母様は以前何処かでお勤めか、修行でも……?」
「いいえ、今は潰れてしまいましたが、私の実家が旅館を経営しておりまして、実家の手伝いをする内に身に着いた手習いの料理ですわ」
「知らなかったとはいえ失礼いたしました。それは大変残念ですな。これほどの味なら、我々の仕事でも使わせていただきたかったのですが……」
「もう昔の話ですし、旅館も最後はそんなにお客さんが来なくなって赤字が嵩んで、借金が返せなくなって経営が続けられなかった物ですから……」
その時の最大の融資元が父さんの務めていたメガバンで、当時経営の立て直しの為に旅館に通っていた父さんの胃袋を一本釣りしたのが母さんである。
「返す返すも残念です。それにしても、この魚の揚げ物は絶品ですな」
同感である。おかげで外食で魚のフライは食べる気がなくなる程である。
「……ところで、弊社の天女ですが、お役に立てておりますでしょうか……?」
本人談では一騎当千天下無双の仕事ぶりらしいが……
「小野麗尾さん」
「はい」
「年報一億でいかがでしょうか?」
「……失礼。一体何の話でしょうか?」
「はっはっは。またまた御冗談を。天女さんの正式な雇用契約の話ですよ」
「ご承知の事とは思いますが、彼女は……」
「勿論承知しております。”日本人”、ですよね」
DAPPOUーーーー!!!! LOWがOUTでOUTがLOWですよ! 良いんですか!?良いんですね。御国の為だもんね。
「承知されているなら、良いのですが……正式な回答は後日彼女の意思を確認してからでも?」
「はい、良い返事を頂ける事を期待しております。条件に関してはいくらでもお応えできますので、何かご希望がございましたら何なりと仰ってください」
うお、大臣直々に本気で勧誘が来るとは……!?
エインセルもとい、天女さんは一ヶ月チョイでどんな実績を!?
大臣がお帰りになられた後でエインセルに何をやらかしたのか聞くと、
各国の思惑と方針を一つ残らずすっぱ抜き、それらを元に外務省のブレインが立てた戦略に沿って日本の要求を飲ませられるように立ち回っただけだと笑って言った。
俺が危惧していたスキルの感知については、
「ぜ~んぜん、だめっ駄目よ。だって”読心”に対して対策・探知しているだけで、”神通力”には全然反応しないんだもの!!!」
最近では外務省本庁に天宇受賣命(アメノウズメ)様のお社を建立する話まで真剣に出ているようで、
エインセルはエインセルで、天女大明神扱いされ、彼女が関わらない外交の会談前には、担当者が菓子折りを持って参拝する事も”天女詣で”と呼ばれ行われているようだ。
「……太「るわけないでしょう!?朝晩の体形確認位しているわよ、本業はアイドルなんだから!!!???」」
「菓子折りだって毎日持って帰ってきているじゃない!?ジャンヌはあっちで全部食べているけど!!!」
「ちょっと~なんでバラすんですか~いいじゃないですか、少しくらい……」
「10箱20箱は少しじゃないわよ!!??」
思わずジャンヌちゃんの体の体形チェックを目視で行った俺を誰が責められよう。
お腹周りが……ヤバイ……か?
「ちょっと守さん!皆さんが居る所で嫌らしい目でジロジロ見ないで欲しいんですけど!?」
……皆が居なければいいのか……!?
ピコッ!
「はい、アンタも落ち着きなさい」
どこからともなくとりだしたピコハンで頭を軽く叩かれる。
「で、エインセルとしては今の仕事はどうなのかな?本業はアイドルって言ったし、正規雇用はお断りするってことで?」
「ええ、仕事は簡単だけど楽しいし、プライドの高かったエリートの皆さんにチヤホヤされるのは悪くなかったけど、やっぱり私、アイドルだわ。ゴシュジンサマだって、私が居ないと寂しかったんじゃない?」
「……まぁ、家の中が静かだったのは否定しないが」
プライドが高かった(・・・・)ってどういうことだってばよ……
後日、正式にお断りの連絡を入れた所、翻意を何度も求められ、国家にとって本当に重大な場面に限り勤務する、非常勤扱いで時々派遣する事になった。なってしまった……
……おい、只の高校生冒険者兼社長相手に入れ替わり立ち代わりで24時間近くのタフネゴシエイトを仕掛けて来るな。
勝てる訳ないだろうが、こんなん……
ご一緒に将来は守さんも外務省に務めませんか、とかお世辞でも無茶振りが過ぎるわ……
こうして、天女 宇受乃の派遣契約は終了まで持って行けたのだが、最後の送別会の会場が首相官邸とか……
小野麗尾さんご一家も宜しければ、と言うのは選択の余地が無い奴じゃないですか、やだー……
思わず国外逃亡まで検討したが、
外務省から諸外国への情報リーク → 血眼になった本国&諸外国ガチ勢の包囲網形成 → BADEND92:責任から逃げた男の末路
大変申し訳ないが、父さん母さんも巻き込んで出席のお返事を……
「ま、待て!待つんだ守!!??早まるな!!!」
「そう、そうね。お父さんの言う通りよ。お母さん、首相官邸に来ていく服なんて持っていないわ!?」
「だが断る」
服なんていくらでも買ってみせるさ。どこで買えるかは知らないけど。成金思考乙。
「とりあえず、お金を下ろして東京に行こうか。1000万円もあれば足りるよね?」
「くっ!経済力で息子に負ける日が来るとは……」
「やめて、守の預金で加賀友禅の着物とか買われたら、送別会を欠席する理由がなくなっちゃう!
お願い、負けないでお父さん!
アナタが今ここで挫けたら、守と我が家の未来はどうなっちゃうの?
預金はまだ残っているわ。ここで引かなければ守に勝てるんだから!」
さらっと希望を述べてくるあたり、余裕あるなー。流石母さん。
よーし、息子張り切っちゃうぞー!
ピコピコピコッ♪
「止めなさい」
ピコハン連打&ジト目で訴えてくるエインセル。
「お母様も慌てなくて大丈夫ですわ。着物は外務省の機密費で用意させていますもの」
「そ、それの何処が大丈夫なんだ!そのキミツヒとやらは1職員の判断で使用できる物じゃないだろう!」
「大丈夫よ、事務次官のお爺様にONEGAIしているもの」
御国の上層部が……!?やはり、外来種の無軌道放流は生態系に大きなダメージを齎すのか。誰だ、こんな環境破壊生物を持ち込んだのは……!?
ピコッ♪
「アンタでしょ」
無慈悲なツッコミが。
「守……自首しよう。父さん、差し入れは持っていくからな……」
「待ってくれ父さん!?俺は仕事の斡旋をしただけだ!!!」
国費の使い込みの指示何てしていないんだが(真剣
「分かっている、分かっているさ……」
分かっているなら何で肩をガッシリ掴んでいるんですかねぇ……
後日送られてきた着物に母さんはご満悦でした。
俺と父さんは東京さ行って特急料金を支払えば短期間で仕上げてくれると言う父さんのツテのテーラーさんにフルオーダーで注文を出して、1週間の泊まり掛けでスーツ2着を仕上げてもらった。途中で金髪ツインテールのイタリア人のお姉ちゃんがスーツ制作に加入したりとここもここで波乱万丈の1週間だったが、公の場に出ても恥ずかしくない出来栄えだと思われるオーダースーツに内心興奮しながら、俺は学校の制服でも良かったんじゃないかと気付いたのは帰り道。
1500万円の授業料は高かったなぁ……
でもこの年でこんなスーツ・スラックス・ベストにネクタイまで揃えたフルオーダーのスーツを持っている高校生がどれだけ居るのかと思うと、じ、自尊心が膨れ上がりますよ。
とりあえず帰ったら池流と鍵留に自慢してこようっと。
そして、浮かれポンチな気分で立ち寄った白須等酒店で訪問していた文章先生から凶報が齎されたのだった。