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ベルの音が柔らかく響いた。
「いらっしゃいませ」
みことが笑顔で迎える。
今日のアトリエは、午後の静かな時間。
外の世界のざわめきとは違う、穏やかな空気が流れている。
「こんにちは。押し花のアクセサリーを探してて……」
小さな女の子とその母親が、そっと入ってきた。
すちは奥の作業机から顔を出し、丁寧に挨拶した。
「ようこそ。気に入ったものがあったら、いつでも言ってくださいね」
女の子はショーケースの中をじっと見つめている。
色とりどりの花びらが閉じ込められたペンダントやリングが、まるで小さな宝石のように輝いている。
「これ、すごく綺麗……」
女の子の目が輝いた。
みことがそっと説明を始める。
「このアクセサリーは、一つ一つ手作りで作っているんですよ。花びらは自然のものだから、全部違う表情をしているんです」
母親も感心した様子で頷く。
「こんなに繊細で素敵だなんて……ここで作ってるんですね」
「はい。作るのは楽しいけど、やっぱり花の命を感じながらだから、慎重になります」
すちはその横で、みことの手元を見つめていた。
ふたりが一緒に創り上げる時間、その積み重ねがこうして人の心を動かすのだと、改めて思った。
女の子は小さな指で、やさしくペンダントを触る。
「これ、買いたい!」
みことが優しく笑った。
「ありがとう。気に入ってもらえて嬉しいです」
すちはふと、女の子の瞳に自分たちの初めての頃を重ねてみた。
「大事にしてあげてね」
そう心の中で呟いた。
帰っていくお客さんを見送りながら、みことが言った。
「すち、こういう瞬間があるから頑張れるよね」
「そうだね。みことと作る時間が、人に喜んでもらえるのは本当に嬉しい」
「また誰かの特別になれたらいいな」
ふたりの目が優しく合った。
アトリエには、今日も静かに幸せが満ちている。
𝑒𝑛𝑑