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新生『アノーミア』連邦―――
その中心国家であるマルズ国、
旧称マルズ帝国の某所で……
緊急会合が開かれていた。
広大な部屋の中の長テーブルに座る面々―――
軍人・貴族が入り混じり、そのどれもが
上位階級にいるであろう衣装に身を包んだ
男たちで、
それとは別に、赤い短髪のアラサーの男と、
アラフォーだが白髪交じりの髪の筋肉質の男が、
二人して立っていた。
「何かあったんですかぁ?」
呼び出されたであろうアラウェンは、まず
軽口でその意図を問う。
「……数日前にあの『万能冒険者』―――
シンの妻2人が懐妊したという情報が
あったな?」
「ええ、ありましたよ?
めでたい事じゃないですかね」
「アラウェン総司令……」
なおも軽い口調をやめない彼に、フーバーが
呆れた声でたしためる。
「問題だ」
「?? 何の問題が?」
政治中枢の人間であろう彼らに向かって、
アラウェンはとぼけるように聞き返す。
「シンは―――
恐らくこの大陸一の影響力を持った人物だ。
亜人・人外もそうだが各国の王侯貴族に
顔が利く。
方々で問題を解決したり手助けをしたりして、
恩義を感じている者も少なくない」
その発言に続き、上層部の中からまた一人
口を開いて、
「我が新生『アノーミア』連邦もそうだ。
首都サルバルのテロ事件の鎮圧。
連邦最西端の国・マシリアにおける
ハイ・ローキュストの群れのせん滅。
国家の大恩人と言っても差し支えない」
その言葉に、他の上層部の面々もうなずく。
「だがそれはあの御仁……
シンが非常に温厚な性格であり、争いを
好まない人格者であればこそ。
その後を継ぐ者が性質まで引き継ぐとは
限らん」
そこで一瞬室内の空気が静まり返る。
「ドラゴンの方の連れ子も、同時に人間の
姿となったと聞いている。
そしてドラゴンと人間の方の妻、2人の
同時懐妊。
最悪、シンの後継を巡り―――
三つ巴の争いが起こる可能性もある」
その指摘に、アラウェンとフーバーは顔を
見合わせる。
そんな彼らに国の重鎮らは続けて、
「考え過ぎだと思うか?
だが、シンという男一人に……
亜人はラミア族、獣人族、ハーピー、
人魚族、鬼人族。
人化出来るのならドラゴンにワイバーン、
魔狼、フェンリル、羽狐、ロック・タートル。
他にも魔族、天人族、白翼族。
ゴーレムにハーピー、アルラウネ、土蜘蛛、
そして精霊様たち―――
これだけの人脈を持っているのだ。
それらが派閥を作り、シンの後継者を独自に
擁立し始めたら?」
「…………」
諜報機関の総司令は、無言で先を聞く
姿勢を見せる。
「また、シンの子息を取り込みたいという国は
多いだろう。
商売にしても利権は天井知らずだ。
幸い、技術も商品も独占してはおらず、
基本的には全て開示しているから今は
問題は無いが―――
シンの後継者となった者が今後もそうだとは
限らない」
そこで演説のように話していた男が、いったん
間をおいて、
「わかるか?
これはただ一平民に子供が出来た、という
次元の話ではない。
下手をすれば大陸全土の運命を左右する
事なのだ」
それまでは話を聞いていたアラウェンは、
ポリポリと指先で頬をかいて、
「それで……どうしろと仰るんで?」
いかにもやる気のなさそうな声で彼は
指示を促す。
「決まっている。
今後、シンの動向に逐一目を離すな。
後継者を決めるのはまだ先だろうが、
それとなく跡継ぎに関する情報も集めろ。
貴族なら後の混乱を避けるため、産まれた時に
発表する事もあるが―――
何せそれすらまだ先の話だからな」
「はっ(棒」
「ハハ……ッ!」
対照的な声のトーンで総司令と部下は答え、
その場を後にした。
「へ? シンさんに子供が出来たってだけで、
そんな話になっていたんですか!?」
薄茶のショートヘアーをした、まだ十代後半
くらいの三白眼の少女が目を丸くして驚く。
「あー。
あながち的外れでもない事を言っているだけに
質が悪くてなぁ」
ルフィタに対し、アラウェンは消極的に語る。
「仕方が無いですよ、総司令。
そもそもあの中に、シンさんが『境外の民』と
知っている人間がどれだけいるやら」
実際、彼らは国の中枢を司る有力者では
あったが、
シンの事を異世界人だと知っている人間は
各国でも一握りに限られ、
王族、もしくはそれに連なる人間でもなければ、
その特殊な事情を知る立場には無かった。
逆にアラウェンたちのような諜報機関の人間は、
現場でその情報に接する機会も多く、
機密レベルに関しては―――
逆転現象が起きていたのである。
「でもどうするんですか?
一応調べて来いって言われたんですよね?」
「いい機会ですし、久しぶりに公都『ヤマト』へ
行ってみては?」
ルフィタとフーバー、二人の部下の言葉に
テーブルに突っ伏していたアラウェンは
顔を上げて、
「そーだなあ。
シンさんの事だし、案外あっさり教えて
くれるかも。
じゃ、ちょっくら行きますかあ」
そしてその日のうちにワイバーンの定期便を
予約し、
三人で公都『ヤマト』へ向かう運びに
なったのであった。
「というわけで来ましたー♪」
「お前らな……
遊び感覚で来るんじゃねぇよ」
笑顔であいさつするアラウェンに、
アラフィフの筋肉質のギルド長、ジャンドゥが
苦笑いしながら対応する。
公都『ヤマト』の冒険者ギルド支部、その
応接室で、
新生『アノーミア』連邦の諜報機関三人組と、
褐色肌の青年にして次期ギルド長、レイド。
そして『万能冒険者』シンが同席していた。
なお、妊娠が発覚した女性陣は自宅で安静に
させている。
「あれ? 確かレイドさんには奥さんが
いましたよね?」
同性であるルフィタさんが目ざとく彼女の
不在に気付き、
「あー、ミリアもおめでたなんスよ」
「えぇえ!?
そ、それはおめでとうございます?
ど、どうしましょう総司令!
お祝いの品、2人分しか用意して
ませんよ!?」
困惑しながらもお祝いの言葉を述べる。
「いや、お前ら諜報機関の人間だろ。
何でミリアの事は知らねーんだよ」
「えっと、じゃあ―――
ドラゴンのシャンタルさんも妊娠したという
情報は?」
ジャンさんと私の言葉に三人は顔を見合わせる。
「……多分、シンの奥さんたちが身籠ったという
情報を手に入れた時点で―――
それだけに飛びついちまったんだろうなぁ」
「確かに情報としては最優先でしょうが、
それで他がおろそかになるというのは」
「ちょっと見直しが必要ですねー」
と、アラウェン・フーバー・ルフィタが
職場の人間の質を問題視していると、
「いや、別にここに反省会しに来たわけじゃ
ないッスよね?」
レイド君が呆れた声で話を本題に戻させる。
「まあそうですね。
ズバリ!
俺が聞きたい事っていうのは―――
シンさんは誰を跡継ぎにするつもりなのか、
でーす!!」
その質問に、ギルド長が眉間にシワを寄せる。
「あー……確かにまあ問題だよなあ」
「え? 何がですか?」
私が首を傾げると、
「そりゃあお前―――
人外や亜人はおろか各国の王族、海の向こうの
大陸の皇帝にまで伝手がある人物なんて……
めったにいるもんじゃねぇだろ」
「そう言う意味ではシンさんの影響力は、
絶大過ぎるッスよね」
望んでそうなったわけでもないんだけどなあ。
しかし跡継ぎか―――
実際、それに関してはもう決まっていると
いうか。
「えーとですね。
もし私に万が一の事があれば多分、
アルテリーゼが全部引き継ぐと思いますよ?」
「へっ!?」
アラウェンさんが意外そうな声を上げる。
「そりゃあどういう事だ、シン。
メルやその子に継がせる気は無いって事か?」
ジャンさんも驚いた顔をして聞いてくるが、
「いや、そもそも私やメルは人間ですし……
当然その子も。
寿命的にドラゴンが残りますよね?
私とアルテリーゼの間に出来た子が
ドラゴンハーフだとしても、そっちの方が
寿命が当然上だと思いますし。
短期間だけ任せるのならメルの子に、
というのもアリですが。
それなら最初からアルテリーゼに全てを
託して、面倒を見てもらう方がいいんじゃ
ないかと思いますよ」
それに口には出さないが、ドラゴンは最強の
戦力でもある。
後継者争いになったら、現実的にどう考えても
勝ち目はないだろう。
それならば最初から彼女に全てを譲り―――
その代わりに子供たちの面倒をきちんと
見てくれと頼む方が、もっとも角が立たない
方法と思われる。
私の説明に、同室のメンバーはうなったり
うなずいたりするが、
「そもそもですね、考え方としてちょっと
最初から違和感を覚えるといいますか」
「と言いますと?」
フーバーさんが聞き返してくる。
「まず一番に考えなければならないのは……
ラッチを始め、子供たちの意思でしょう?
問題は子供たちが、私の後を継ぐ事を
望んでいるかどうかです。
冒険者になりたいとか―――
または料理人に、それとも商人に……
あるいは音楽関係に進むとか。
私は貴族になる打診を全て断って
来ましたけど、それを受け入れて
政治に関わるというのもあるでしょう」
そう、異世界へ来た時は冒険者など、
『それしかなるものが無い』という状況
だったけど、
ひと昔前とは違って今は選択肢がたくさん
あるのだ。
だから子供のたちの意思を尊重し―――
それをバックアップするのが親の役目という
ものだろう。
「それに私の利権や伝手を継承するつもり
でしたら、それこそ多岐にわたり過ぎて
1人じゃどうにもならないですよ。
例えば商売を任せるにしても、ドラゴンや
亜人相手はラッチやアルテリーゼの子に
継がせるとか、人間相手はメルの子に
やってもらうとか……
役割分担してもらった方がいいとも
思えますしね」
私の言葉に、アラウェンさんたちや
ギルドメンバーは納得したのか―――
ひとまず私の『跡継ぎ』問題は収束した。
「……という事がギルド支部であってさ」
自宅の屋敷に戻った私は、メルとアルテリーゼ、
そして『娘』のラッチに情報を共有していた。
「うーん。
お貴族様でもないのに、まさか跡継ぎ問題で
悩む日が来るとはねー」
「まあ確かに、寿命を考えれば我に―――
というのは間違っていないように思えるが。
それにシンがやっている事は手広いでのう。
いくら子供が多かろうと、継がせるものに
不足はあるまいて」
童顔の黒髪セミロングの妻と、ドラゴンの方の
欧米モデルような顔立ちの妻が感想を述べ、
「おとーさんはボクに継いで欲しいの?」
ショートの黒髪に、燃えるような赤い瞳をした
人間姿のラッチが聞いてくる。
この赤い目はアルテリーゼには無いものだ。
お父さん似なのか……
ドラゴンの血がそうさせるのか。
「継ぐ、と言ってもお母さんが言うように、
いろいろあるだろう。
そもそも貴族みたいに地位があるわけじゃ
無いしな。
これからなりたいもの、やりたい事を
見つければいい。
お父さんはそれを応援するよ」
差し障りの無い、しかし本音でラッチに答える。
「ボクのやりたい事かあー」
「まあ今はいろいろとあるからな。
冒険者になってもいいし、料理人でも
商人でも。
取り敢えずやってみて―――
何が自分に合うのか、ゆっくり考えればいい」
「んー……」
そうラッチが答えたかと思うと、眠くなったのか
まぶたをこする。
すると―――
「おっ?」
「ピュ?」
私の目の前で、いつのも『ラッチ』……
ドラゴンの姿に戻った。
しかし大きさはそれまでと変わらず、
少し大きめのビーチボールくらいの姿だ。
「まあ難しい話が続いたもんね」
「我らも片付けて寝室へ向かうか」
メルは席から立ち上がり、アルテリーゼは
ラッチを抱え―――
「いや、2人とも座っていてくれ。
後片付けくらいは自分がやるよ」
私が食器を集めて重ね始めると、
「別に、動く分にはまだ問題無いと思うけど」
「そこまで気を遣わなくとも」
そう言うメルとアルテリーゼを
『いいからいいから』と制し……
私は食卓のある部屋を後にした。
そして残された二人は顔を見合わせると、
「う~ん、アルちゃん。
シン、寿命うんぬん言ってたけどさー。
まだ言わなくてもいいの? あの事」
「むぅ……今はまだ、のう。
それにそろそろ嫌でも気付くと思うのだが」
二人にしかわからない会話をし―――
妻たちは夫の帰りを待った。
「う~む」
「な、何かマズい事でも?」
数日後、私とラッチはある夫妻宅へ
やって来ていた。
難しい顔している、ロマンスグレーの
アラフィフの男性はレアンドロさん。
その妻で真っ赤なウェービーヘアーを
している女性は、キアーラさん。
二人ともドラゴンであり……
アルテリーゼやシャンタルさんがいた
ドラゴンの巣から来た方々だ。
以前、夏の間だけでも公都『ヤマト』で
子供たちを見てくれないかと打診があり、
結局はドラゴンの巣にこちらと同じ生活環境を
作ったり、またドラゴンの子供用の薬の素材を
調達したりしたのだが、
それを恩義に感じ、子育てが一段落した仲間が
交代で公都のパトロールを買って出てくれたので
あった。
(■170話 はじめての どらごんのす
■171話 はじめての こどものくすり
■175話 はじめての がいこうせんりゃく
参照)
レアンドロ夫妻はその内の一組で、今回ラッチが
人間の姿になったという事で―――
一度見せて欲しいと言われ連れて来たのだが、
(メルとアルテリーゼは後日、改めて本格的な
検査を受けるという事で、その日まで自宅で
安静にしているよう指示を受けている)
「やはり成長が急過ぎると思いますわ」
「ドラゴンの姿になった時の大きさは
変わらない、と言われたが……
本来そのくらいの大きさであれば、
人間でいえばまだまだ赤子。
せいぜいハイハイしているか、つかまり立ちを
している程度でしかない」
その説明を前に、中学生くらいの人間の姿に
なっているラッチの異常性を突きつけられる。
「でもボク、別に何とも無いんだけどなぁ」
座ったイス、その床から足を上げてプラプラ
させながら彼女は答える。
「まあ当人に何も問題が無いのが救いか。
しかし人間でそれくらいの姿になるのは、
本来はあと20年ほど必要なはずなのだが」
「考えられる事としましては―――
確かシン殿に子供が出来たんですよね?
アルテリーゼにもメルさんにも」
不意にキアーラさんから質問が飛び、
「え? は、はい。それが何か」
「という事は、ラッチちゃんに弟か妹が出来た
事を意味します。
それで、自分の弟妹を守るために……
急成長したのでは、と思われます」
それを聞いてラッチの顔を見ると、
「まっ、おねーちゃんですから!」
と、ドヤ顔で妙なポーズを決める。
まあ姉としての自覚があるのはいい事だが。
「では見た目はともかく、健康とか体に問題は
無いという事ですね?」
レアンドロさん、キアーラさんに確認を兼ねて
問うが、夫妻は微妙な表情となり、
「まあそう……なのだが」
「本来、この年齢だと―――
『試練』を受けなくてはならないんです。
ただこういった状況は初めてですので、
適用されるかどうか」
二人の言葉に、私とラッチは顔を見合わせた。
「あ~……
そういえばそんなものがあったのう」
自宅の屋敷に戻ってアルテリーゼに伝えると、
懐かしそうに語る。
「ドラゴンの試練って―――
何かすごそうなんだけど」
メルが興味を持って彼女に聞き返す。
「何、さほどの事も無いわ。
『魔力溜まり』というのがあったであろう?
我らの巣の少し北にいったところか。
そこは何の条件でか知らぬが、定期的に
『魔力溜まり』が発生する地があるのだ。
そこを一人で抜けてくれば、一人前と
認められる……そんな感じじゃな」
『魔力溜まり』―――
これまでにも何度か解決してきた事があったが。
しかし、そのどれもがかなりの危険、
脅威だったと認識している。
特にそこでは魔物が正気を失ったり、
狂暴になったり……
そんなところにラッチを行かせても大丈夫なのか
思案していると、
「そこまで深く考える事は無いぞ、シン。
今まで見て来たような定着するほどの
『魔力溜まり』ではない。
時々発生する軽い感じのものだ。
その程度の地すら抜けられないのであれば、
一人前とは認められぬよ」
アルテリーゼの説明にホッとしながらも、
「危険じゃないのか?」
「死者が出たという事は無い。
どちらかと言えば通過儀礼的な意味合いが
強いしの。
もちろん監視役もつくし、適応力・応用力を
見る試験のようなものじゃ」
そこでようやく私は胸をなでおろす。
「冒険者ギルドの昇格試験みたいなものかー」
メルが会話に参加してくると、
「それに近いであろうな。
安全対策もそれを見守る審判役の者もおる。
それに身一つで試練に向かえという
話でもない」
「ん? と言うと?」
私が聞き返すと、
「それはのう……」
と、試練について詳しく語り始めた。
「ここが『試練』の場所かあー。
じゃ、行こっかおとーさん♪」
「いや、いいのかな本当に」
数日後、ラッチの『試練』が行われる
運びとなり、
現地に私が同行していた。
アルテリーゼの説明では、『試練』に挑むに
あたり―――
『何か一つだけ持って行っても良い』という
ルールがあった。
『ありきたりだが、我の時は水と食料を
そこそこ持って行ったのう』
飲食物は一つとカウントされるらしく、
またこれは危険に対し、どれだけの備えを
するのかという部分を見るため……
つまり現地に行く前から、『試練』はスタート
しているという事。
そしてラッチが選んだのは―――
『おとーさん!!』
と、『持って行くもの』として私を指名。
レアンドロさん・キアーラさん夫妻は
それを聞いて頭を抱えた。
『身内……そもそも生き物はいいんだっけ?』
『どれでも一つ、という事ですので―――
何を選ぶのか見るというものでもありますし』
監視役も兼ねている二人は、初めてであろう
事態に困惑しながらも、
『うーむ……
別に禁じられてはおらぬしなあ』
『力技ではありますが、とにかくやらせて
みましょう』
と、一緒に『試練』に向かう事に
なったのである。
「じゃ、おとーさん。お願いっ♪」
「いいのかなあ……」
私がふと空を見上げると、監視役であろう
ドラゴンの姿となったレアンドロさん・
キアーラさん夫妻が飛んでおり、
「あの無効化条件なら、上空を巻き込む
心配は無いか」
これまでもやって来たように、『魔力溜まり』を
無効化させるためにつぶやく。
念のため、上空は除くようにして、
「地上において……
理性を保てなくなる、正気を失う、
狂暴になる……
そんな魔力など
・・・・・
あり得ない」
「おっ」
恐らくラッチには見えたのであろう。
そして私の片腕に手を回すと、
「じゃあ行こう、おとーさん!」
そして親子で散歩でもするかのように、
林くらいの木々の中へと歩み始めた。
「『魔力溜まり』が消えたな」
「アルテリーゼ、シャンタルから聞いて
おりましたが……
いざ目にするとすさまじいものですわね」
空から監視していたレアンドロ夫妻は、
見たものの感想を述べる。
ドラゴンの彼らはシンが異世界人であり、
その能力も彼女たちから共有していたが、
実際に目の当たりにして―――
その効果に目を見張っていた。
「後はあの地を突っ切れば良いだけ。
シン殿もいるし、大型魔獣が出ても相手に
なるまい。
しかしこれでは『試練』と呼べるのか」
「『試練』は……
どういう形でこれを乗り越えるかを
見定めるためのもの。
ラッチちゃんがシン殿を選んだという事は、
これ以上無い解決策を用意したとも言えます」
「なれば問題無し―――か」
初老のドラゴン夫妻は上空を飛び続け……
ラッチの『試練』を見届ける事にした。